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ファンタジー世界に大怪獣出現編


「はぁ? 三つ首のドラゴン?」

 

今 日も今日とて平和に事務仕事をしていた少年勇者王のガオの下へ、エルフ・メイドさんのアストレアがそんな報告をしに来たのは昼少し前であった。


 「はい、全長は百メートル程でしょうか、突如として国境付近に表れて真っすぐ王都へ向かっているとの事です」


 「それ……魔物とかモンスターじゃなくて怪獣の域だよね……?」


 物心ついた頃からずっと面倒を見てくれていたこの亜麻色の髪のメイドさんは、一見するといつも通りの落ち着いた表情に見えたが、焦りと危機感がガオには感じ取れた。


 「……あ。 正確には真っすぐではなく、進行先にある町や村はきちんと避けながらだとか……」

 「……はい?」


 どういう事なのかすぐには分からなかったが、すぐにある事に思い至る。


 「……ガーベラ?」

 「はい、おそらく魔王ガーベラの仕業でしょうね?」


 かつて倒された魔王の子孫であるガーベラがここ最近になって様々な嫌がらせを仕掛けてくるのである。 自然発生した怪獣ではなく、こうも明らかに何者かの意思が感じ取れれば、他には考えられない。


 「魔王とはいっても無意味な犠牲は出さない主義ってこと……?」


 そう考え付けば、わざわざ国境付近に出現させたのも一般市民の逃げ出す時間を与えたという事なのかと思えた。


 「かも知れませんね。 もっとも……」

 「僕らまで逃げ出すわけにはいかないものね……怪獣なんてどう戦えばいいんだろう?」


 王としての威厳が下がるという発想でないのは若さだろうか、それとも市民が暮らす町を守らねばならいという使命感の強さ故かは分からない。 いずれにせよ、平成版メカ・ゴ〇ラやM〇GERAはおろか戦車や戦闘機もないファンタジー世界で怪獣を倒す手段を考えなくてはいけない。

 この城の騎士隊であるアム・ルマーク達がいくら強いと言って生身の人間だ、剣で怪獣に勝てるという楽観はしない。 

 ファンタジーなのだからメテオとかそういう類の魔法があるでしょうという意見もあろう……が、これはゲームではなく小説であるので、メテオだの天変地異を起こすクラスの魔法の使い手なんてそういるものではない。

 というか、いたとしてもそんなものぶっぱすれば大地が受ける被害も洒落ならないのでおいそれと使えるはずもないのだ。


 「……それはこれから考えてみますが……ともかく王都の市民の避難を急がせます……」


 アストレアの言う事が正しいと思い頷きながら、ガオはこんな事態に自分の守るべきものの多さというものを思い知っていた。 同時に、自分では何も出来ないどころか対策を考える事すら他人任せという事実に、自分の力のなさや不甲斐なさも感じる少年勇者王だった。



  ファンタジーであっても異様な光景だと、符術師である魔族の少女には思える。 金色の鱗で全身を覆われた三つ首の竜は、かなり離れたこの丘から見ても巨大に感じ、実際金色の山がゆっくりと動いているかのようだ。


 「気まぐれで怪獣映画を視に行ったかと思えば、帰って来るなりこいつ・・・を召喚しろとか……ベラちゃんらしいとは言えるけどね……」


 魔王が映画鑑賞するのか?とか、そもそもどこで上映してるのか?という疑問は些細な問題だ、何しろこれはギャグ・ファンタジーなのだから。


 「ギャグったて限度もあると思うが……てか、キング・オ〇・モンスター視た影響でこんなん書くとか安直過ぎ……」


 ここにはいない誰かに対し苦笑したエルメスは、次に王都があるであろう方向を見つめた。


 「さて勇者君、君はこいつにどう対処するのかな?」


 一般市民の被害は出すなというのが親友である少女魔王の要求だった、魔王なのに変な事をいうとはエルメスは思わない。 ガーベラには無意味な殺戮を楽しむ趣味もないし、彼女なりの美学というもの存在するのだ。


 「テトラもそれは分かってるはずだけど……」


 符術魔法でのコントロールではどうしても限界はある、犠牲を出さずに済ますためにはその場その場での状況に応じて臨機応変に指示を出す必要があると判断したのだ。

 そのテトラは、赤い光が揺らめく不思議な空間に浮いている。 そこは間違いなく三つ首のドラゴンの内部であるが、体内という風な表現も正確ではない。

 いわゆるウル〇ライブやユナ〇ト状態といえば分かりやすいか、故に彼女の視界にあるのは広い平野であった。


 「くっくっくっく。 誰がどう考えても今回は負ける要素はありませんわ!」


 市民の犠牲を出すなという命令ではあるが、王都の町は好きに破壊して良いとも言われている。 あの厄介なエルフ・メイドや騎士達にそれを止める力があるはずもなく、今日という今日こそ勝ちを確信するテトラであった。



 この事態に、馬を走らせ単独で偵察に出たアム・ルマークが目標と接触したのは太陽が真上と大地の中間くらいの頃であった。 接触と言ったものの、十数キロも離れた場所からでもはっきり見える巨体と分かればそれ以上は近づかない。


 「こんなバカでっかい奴がおるとはなぁ……人知を超えた大自然の驚異ってやつかいな……」


 召喚したのは魔王かその手下による人為的な要素であっても、この怪獣の存在そのものは間違いなくそうであろうと思う。

 そんなアムの言葉が遠く離れた勇者王城のテラスに立つアストレアには、もちろん聞こえるはずもない。


 「……大自然というものは調和を望むもの……三つ首のドラゴンがこの世界の調和を乱そうとするなら、必ずや調和を取り戻そうとする者が現れる」


 普段の賑やかとは違う緊迫感漂う喧噪の街並みからその向こうの地平線へと視線を移したアストレアには、もちろんドラゴンの姿は見えない。



 大気をを振動させる獣の咆哮と共に青白い閃光の輝きがアムの視界を奪う。

 十数秒後に戻った彼女の視界に映ったのは、左側の首と翼が肩部分ごと吹き飛んだ三つ首ドラゴンであり、耳に響くのは獣が威嚇しているかのような唸り声だった。


 「……冗談やろ……?」


 唸り声の正体を知るべく顔を動かしたアムは愕然とした表情となったが、ドラゴンの内部から同じものを見たテトラは、「どういう冗談ですのっ!!?」と悲鳴めいた叫び声を上げていた。

 三つ首ドラゴンと同程度の黒い巨体は、大昔に存在した肉食恐竜を思わせる。 強靭そうな筋肉質な身体は、しかしかなり無駄なくシェイプアップされたボディだ。


 「ちょ……何でこいつが!? しかもFW版ですってぇぇええええっ!!!!?」


 怒りのこもった瞳は三つ首ドラゴンを睨んでいるはずだが、彼女にはまるで見えないはずの自分の姿を見ているかのような恐怖と寒気を感じていた。


 「くっ……KOM版ならまだしも最強と名高いFW版に勝てる気はしませんわ……」


 撤退すべきという判断は、理論ではなく本能的なものであったが、同じ本能でそれが手遅れだと直後に感じたのは背びれが青白く発光始めた光景を見たからだ。 この時、ドラゴンの意志は間違いなく反撃しようとしていたはずだが、テトラは逃走という正反対の思考だったため、どちらんも動く事が出来ず結果的に無防備にその場に留まる事となったのだ。

 黒き怪獣王の口がカッと開かれ、そこから先と同様の青白い閃光が放たれ、次の瞬間にはテトラの視界は白く染まった……。



 朱色の光が窓から差し込む執務室で、「……どゆこと?」とガオはアストレアを見返した。


 「ですから……アムさんの報告ではもう一体の黒い怪獣によって倒され、その後黒い怪獣は姿を消した……そうです」


 ガオの横に立ち「……さっぱり分かりませんね……」とは、猫耳獣人メイドのゼフィである。 昼間に突然避難指示が出され、数時間後にはそれが解除されるという事態に困惑するしかないというのが彼女の心境であった。

 それはガオも同様であったが、アストレアでも分からない事が自分に分かるはずがないんだろうなという諦めもある。 大人であっても知らない事もあって当然という理解が出来る歳になっても、彼女は何でも知っているという風に思えてしまうのである。


 「何にしても……今回の事件は解決した……でいいのかな?」


 自分に分かる事はこの程度の事であり、それに対し頷くのは彼女の分かる事もそれくらいなのだと教えてくれた。



 そこはまるで巨人同士で戦う闘技場を思わせる広い部屋だ、その中を「あひぃぃいいいいいっ!!?」と必死の形相で逃げ回るのがテトラなら、彼女を追い掛け回すのは三十メートルはある巨大な猿かゴリラかという生物である。


 「こ、コングのキングと戦って勝つまで出られませんとか無茶ですわぁぁぁああああああああっ!!!!」


 背後からの雄叫びの直後、テトラの身体など実際蚊めいて簡単に叩き潰されそうな拳が襲い掛かるのをどうにか回避し、更に走り続けるが、逃げ場などないので結局は同じ場所をグルグル回るだけだ。

 なお、このコングのキングは普通の人間が素手で勝てる相手ではないので、テトラ以外のニンゲンが挑戦するのは非常に危険であるから、決してマネしてはいけない。


 「魔族わたしだってひじょ~~に危険ですわぁぁぁああああっ!!!!」


 魔王城の地下拷問室、狩りをするキングの雄叫びと、狩られる哀れな獲物の悲鳴はいつ果てることなく響き続けるのであった……。 


 

  

 

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