小説キャラだって偶には愚痴も言いたいよね編
今日も今日とてのんびりと平穏な時間の流れる勇者王の城。
事務仕事に一区切りつけた城の主である少年ガオ・レオンハートは、書類を片付けた机の上のサイレント・ヒル産の緑茶と饅頭の味を楽しんでいた。
「……それにしてもひどい有様ですねぇ……まあ、分かっていましたが」
パイプ椅子に腰かけスマフォをいじっていたアストレアがわざとらしい溜息を吐いたのに「何がですか?」とは、同じくパイプ椅子を使って休んでいたゼフィランサスことゼフィだ。
「この小説の評価ですよ。 アクセス数もほとんどないし、実際ひどい有様です」
ネット小説キャラが自分の作品の評価をネットで閲覧するというのもどうなのかな?とガオは思うが、しょせんこの作者のする事だと考えれば、変でもないのかなとも感じた。
「どんなんです?」
隣のアストレアのスマフォ画面を覗き込んだゼフィは、「6ポイントも入っているんですか、作者の小説にしたら上出来じゃないんでしょうか?」と言う。
「そうなんですけどねぇ……それにしてももう少しは何とかならないものでしょうかね?」
作者を選べないのがキャラだとは諦められても、自身の待遇に納得できる出来ないは別の問題である。
「……とは言っても、どうしようもない事じゃない?」
「ですよねぇ……」
書き手の技量を抜きに考えても、なろうのトレンドを考えればチートもハーレムもない時点で致命的な気がする。
だが、ガオとてチートに頼ったハーレム主人公になりたいとも思わなければ、ゼフィもガオにそんな男の子になってほしいわけではない。 この先がどうなるのかは分かるものでもないが、どんな形であれ完結すれば御の字ではないかと思う。
欲のない言い方は、若さなのですかねと思うアストレア自身も、実際のところ少し愚痴ってみたかった程度で本気でアクセス数や評価が伸びてほしいわけでもなかった。
城の主とメイド二人がそんな愚痴を言っているのと同じ頃、この城の騎士であるダン・ヴァインは、騎士隊のリーダーであるアム・ルマークが小包を抱えて上機嫌で歩いているのに遭遇していた。
「アム隊長、どうしたんですか?」
「うん? ああ、今日やっとナラティブが届いてな? これから視聴やで」
ダンは「ナラティブ?」と首を傾げたが、「そう、ガン〇ムナラティブや」と言われてやっと理解した。
「隊長も好きですよね……」
アムの趣味の一つがアニメ鑑賞なのは、ダンもビルも知っている事だ。 とくに四十年以上続いているそのシリーズの大ファンなのだ。
「ああ、年末年始は忙しくて劇場へは行けんかったからなぁ……これでやっと見れるわ」
そう言って去っていくアムの後ろ姿を見ながら、「好きなものがあるのは良い事か……」と呟いたダンであった。
『勇者の子孫で王様をやっていますが、ご先祖が倒した魔王の子孫の女の子が嫌がらせをしてきて困っています』
玉座で尊大そうにしている少女魔王のガーベラが「……っていうのはどうかしらね?」と唐突に言ったのに、部下のテトラと親友のエルメスが揃ってキョトンとなる。
両者とも十歳になったかならないかという幼さであるが、普通の人間よりもずっと長寿の魔族であるから、実年齢が見た目通りという事もない。
「えっと……それってこの小説のタイトルなのベラちゃん?」
「そうよ、エル。 だいたい”少年勇者王のがんばり物語”なんてダサいと思わないかしら?」
青いツインテール魔族ことテトラは「それはそうですけど……」と同意はしつつも、じゃあ主人の提案がセンスがいいとは思えなくても、言葉にして口には出せない。
「いやいや……確かに長くて説明的なタイトルが流行だからって、安易にマネしてどうするのよ? センスないよ?」
親友だけあってはっきりと言うのがエルメスなら、ガーベラも気を悪くした様子もなく「まあねぇ?」と苦笑する。
「流行に乗ればとりあえず見てくれる読み手は増えるかもねって思っただけの事よ。 まあ、どうでもいいといえばいい事よ」
なんて安直なとテトラは思っても、やはり口には出さない。
「ランキングに乗るとか書籍化とか、そんなのはいいけど……」
「自分が出演している小説があまりにも底辺にるのが面白くない?」
揶揄うような口調に「そういう事よ」と頷くと、不意にテトラを見た。
「……で、あんたは地下拷問室逝きね?」
「……へ? ナンデっ!!?」
訳が分からず驚くテトラに対し、ガーベラは意地の悪そうな笑みを見せる。
「ヒトの事をセンスがないとか思ったでしょ?」
ギョッとなったテトラは、「ちょ……口に出して言っていま……」と思わず言ってしまい、慌てて両手で自分の口を塞いだが手遅れであった。 ほうらねぇ?と言わんばかりの実際邪悪な笑いを浮かべていたのである。
「あひぃぃぃいいいいいいいいっ!!!?」
怯えて声を上げた直後に額に何かが張られた途端に身体の自由が利かなくなった、それが呪符だと分かったのは、「悪く思わないでねぇ~」とエルメスが全然全くさっぱり申し訳なさそうな様子もなく言ったからだ。
「うふふふふ。 エル、連行しなさい」
「はいはい……ベラちゃんが言うなら仕方ないねぇ?」
わざとらしく肩を竦めながら取り出したのは金属製のベルである、そしてそれを彼女が鳴らすと同時にテトラの両腕が前にまっすぐ伸び、そしてピョンピョンと跳びながら前に進み始めたのである。
その姿はまるで……。
「わたしはキョンシーじゃありませんわぁぁああああああっ!!!!」
……であった。
よく見れば、彼女の額の呪符は、黄色の紙に赤い文字が書かれていた。
こうして、彼女は自分の足で?地下拷問室へと逝ったのであった……。
「ちょっとっ!! こんなオチありですかぁぁあああああっ!!!?」
ちなみにこの同時刻、ブランコや滑り台といった定番の遊具がある公園の、大きな樹木の太い枝に止まっていた大ガラスが、不意に「アリジャナイカァ~~~!」と声を上げて飛び上がっていた。