勇者城に騎士がやって来ましたよ編
久々に晴れ間の覗いたこの日、勇者王の城の前に立つ青いツインテールの少女がいた。 人間のそれより尖った耳で魔族であると分かる彼女の名はテトラ、この城の主である少年勇者王に嫌がらせを仕掛ける魔王の部下である。
「……って! 部下と書いてやられ役とか読むんじゃねえですわっ!!」
唐突に天に向かって叫んだテトラは、しかしすぐに「まあ、いいですわ」と不敵な表情を作った。
「これまでは失敗してきましたが、今日はそうはいきませんわ?」
そう言うテトラの背後には三人の男が立っているが、もちろん彼らも人間ではない。 やはり魔族と分かる尖った耳を持った彼らの名はアイン・スローネ、ツヴァイ・スローネ、そしてドライ・スローネという。
スローネ三兄弟と呼ばれる彼らは、魔族社会ではそこそこ名の知れた傭兵戦士であった。
「シンプル・イズ・ベスト! 精鋭をもってしての正面突破作戦こそ正義!」
スローネ三兄弟が「「「承知っ!!」」」と応えるのに満足そうに頷いたテトラが作戦開始の合図を出そうとした、まさにその時であった……。
「「そうはさせんっ!!」」
……という背後からの声が響いたのは。
「……何者です!?」
テトラ達が振り返れば、そこには実際騎士風の鎧姿の男女三人が立ったっていた、三人とも二十前後くらいの年齢に見える。 そして男二人が剣を抜きながら前へ進み出てきた。
「我が名は騎士ダン・ヴァイン!」
「同じくビル・ヴァインだ!」
彼らに続き残った茶髪の女性騎士も抜いた剣を構えながら名乗る。
「そしてうちはアム・ルマークやっ!」
ビッグ・スロープ地方の方言でしゃべるアムの装備は、なろう系お約束のビキニ・アーマーではなく、胸の部分だけが黒く他は白いライト・アーマーである。
勢いに押されかけたテトラだが、すぐに我に返ると「ふん!」と鼻を鳴らす。
「なるほど、あなた達はこの城の騎士隊という事ですか? いいでしょう」
「正確にはこれから着任の挨拶に行ってそれからやったんやけどな? まあ、その前でも敵さんと遭遇すれば戦うしかないってこっちゃな!」
「上等! スローネ兄弟、まずはこいつらからやってしまいなさいっ!!」
合図とともに「「「おおっ!!」」」と跳び出すスローネ達も、それぞれに剣を握っている。 その先頭を行くアインが「ツヴァイ、ドライ! フォーメーション・ジェット・ストリームだ!!」と指示を出と、三人が一直線に並んだ。
「……ちょっ!! それは負けフラグですわぁぁぁああああああっ!!!!」
大慌てした風に叫ぶテトラは、地を蹴って跳び出したアムが、高くジャンプしてアインの頭を踏んずけるという超お約束的光景を見た。
「俺を踏み台にするだとっ!!?」
「お約束やで~~~♪」
そのまま後方に着地すると、すかさず振り返りドライに向かって「……後ろにいるからって油断すると!」と剣を振る。 予想外の事態に対処できずに回避も防御も出来なかったドライは、一撃で「あぼべっ!!?」と地面に倒れ伏し動かなくなった。
「な……一撃でドライを!?」
「あの騎士は戦艦並みのビーム砲を持っているというのかっ!!?」
「ビーム砲じゃねえぇぇええええっ!!!」
驚き動揺して動きを止めたアインとツヴァイにテトラがツッコミを入れた直後に、「戦場で動きを止めるなんて正気かい?」というダンの攻撃でツヴァイも倒される。
「おのれぇ! だがまだだ! まだ……」
「勝ちフラグなど言わせんっ!!」
アインもビルの実際慈悲のない一撃でやられ、残ったテトラは「こ、こうもあっさりと……!?」と驚愕の表情で倒れた三人を見渡す。
「さ~て、あんさんはどうするんや?」
切っ先を向けながら挑発的に笑うアムの左右でも、ダンとビルも逃がさんぞと言う風に剣を構えてジリジリとテトラに迫っていく。
「……くっ! 精鋭といえど勢いで負ければ一気にやられてしまうというというわけですか……しかし!」
テトラが愛用の大鎌である〈処刑人の鎌〉を出現させ構え、「魔族の誇りに賭けてもっ!!!!」とアム目掛けて突貫した……。
ここで一時間ほど時間を遡る……。
久しぶりの晴れに散歩をしていた子供二人が勇者王の城の前を通りかかった、彼らは本当にごく普通の子供で、ここ来る途中で拾った野球のボールを弄んでいたが、それも飽きた様子で無造作に投げ捨てると、そのままどこかへ行ってしまった。
当然、その一時間後にそのボールが疾走する青いツインテール少女の進路上にあるという事など知る由もない……。
「……何ですかそれぇぇええええええええっ!!!?」
バランスを崩し叫びながらも、どうにか堪え転倒は避けられたが、アム達とてプロの騎士であれば、その隙を逃したりしない。 すかさず一斉攻撃を仕掛けつつも、同士討ちにならぬように気を遣うのも忘れない。
「恨むならあんさんのその不運を呪いなはれっ!!」
「不運だと? アムあんた……あびぶべばぼぉぉぉおおおおおおおおおっっっ!!!!?」
成す術もなく、慈悲のないメッタ斬りにされてしまうその様子は、さながらバグにズタズタに斬り裂かれていくへ〇ーガンめいていた。
「魔族だけを殺す騎士かぁぁあああああああああああああっっっ!!!!!」
いつの間にか彼女を覆う自主規制のモザイクの、その向こうで絶叫するテトラちゃんであったとさ……。
空を飛行中の通常の三倍の大きさのカラス、フラッグが何気なく地上を見下ろせば、そこには普段と何も変わらない勇者城の門が見えた。 だから、彼は何を気にすることもなくどこかへと飛び去って行った……。
「……と、言うわけでこの方たちがこれからガオ君の騎士隊になってくれる方々ですわ」
「……はい?」
執務室で作業中だったガオ・レオンハートは、エルフ・メイドのアストレアが紹介した三人の剣士達を唖然とした表情で見た。
「あんさんが勇者王のガオはんやな、うちはアム・ルマークや。 よろしゅうな?」
気さくな感じのアムに続いてダンとビルも丁寧な挨拶をした。
「それにしても……テトラさんまた来たんですか……」
呆れた声で言うのは、ピンクの髪の猫耳獣人メイドさんであるゼフィランサスことゼフィの意見に、「いい加減あきらめればいいのにねぇ……」と同意するガオ。
「魔王の命令があれば嫌でも来るしかない、従者の辛いところです」
アストレアの多少は同情的とも思える言葉に、「僕ならそんな嫌な思いさせる命令なんて出さないのに……」と呟くのは、アストレアは聞こえない振りをした。
「まあ、何度来ようとうちらがやっつけたるさかい、安心しいやガオはん!」
あれだけやったら普通死ぬのではと思うのだが、話を聞いているとあの程度で死ぬはずがないというのが、ガオとメイド二人の見解であった。
自信たっぷりに言うアムが頼もし気に感じながらも、自分が守られる立場というのも情けないなと感じていた。 仮も王という立場を考えれば当然ではあっても、勇者であればみんなを守るべく先頭に立つべきであると思ってしまうのは、やはりガオが男の子だからであろう。
「……若さですかね……でも、焦ることはありませんよガオ君?」
自分の顔をじっと見ていたアストレアが不意に言った一言に、「……え?」と怪訝な顔を返すガオだったが、彼女は後はただ優しい笑みを浮かべているだった。
薄暗い地下拷問室には、今回も失敗したテトラへの制裁タイムが開始された。
ちなみに、重傷は負ったものの全員一命は取り留めたスローネ三兄弟は、現在病院に入院中である。
「ひぃぃいいいっ!? 何でわたしだけぇぇええええっ!!?」
「あんたがリーダー、つまり責任者だからよ?」
天井から吊るされたテトラに答えた少女魔王ガーベラが視線を青いツインテール少女の真下に向ければ、そこには真っ赤に輝くマグマ溜まりがあった。
「マイ〇ラ名物のマグマ・ダイブかぁ……ベラちゃんも容赦ないねぇ~?」
幼馴染みの親友であるエルメスが楽しそうに言うのに、「だって私は魔王なのよエル?」と答えれば、「だよねぇ~」と頷いて見せた。 要するに彼女もテトラを助ける気ゼロという事だ。
「あひぃいいいいっ!!? お慈悲をぉぉおおおおおっ!!!!」
涙を流し必死の形相で許しを請う部下に対しガーベラは邪悪な黒い笑みを見せながら……。
「慈悲は……ないわ」
……と言って指を鳴らせば、やはり少女の身体を吊るしていたロープが切れる。
そして、「あひひゃぁぁぁあああああああっっっ!!!?」という絶叫を上げながらマグマの中へと落下して逝った……。