第九話 旅立ち
だいぶ空いてしまいました。
「いいんですか?」
俺は山本に小波がついてきてもいいのか尋ねた。
「特に問題はありませんよ。」
「ええっと、旅費とか。」
「こちらで負担させてもらいます。」
問題ないらしい。旅費は税金だと思うのだが、いいのだろうか。
それを聞いた小波は嬉しそうだ。
「水着とか持っていった方がいいかな?」
「遊びじゃないんだけど。」
そう、遊びじゃない。世界の危機だ。
『世界の危機』自分で言っててもなんかしっくり来ないんだけどな。
とにかく俺と山本、小波と笹本さんの四人でのハワイ行きが決まった。
笹本さんというのは、小波の監視についている女の人だ。フルネームで「笹本美和」という、茶がかったショートカットでかわいい系のお姉さんだ。
俺がそんなことを考えながら、笹本さんを見ていたら小波がジト目でこちらを見ていた。
「どうした?」
「べっつにー。」
ちょっとご機嫌斜めになった小波を置いておいて、俺たちはハワイ行きの計画を立てる。
「ハワイで有名な自然のあるところってどこですかね?」
「自然?なんでだい?」
「いや、今回の怪獣って富士山から出てきたじゃないですか。護封機もその近くにあったわけですし、そもそも地球の自然がエネルギーになっているわけですよね?だったらエネルギーの集まりそうな、自然の多いところがいいと思うんですけど。」
「なるほど、そういうことも言えるね。高峰君はなかなか頭が回るね。」
「そうですかね?」
「そういうことなら、一番有名なのはキラウエア火山じゃないかな?」
「キラウエア火山ですか。」
「そう。今回の富士山だって、噴火から始まったわけだし、単純だけど火山繋がりってことでどうだろう。ほら、火山ってエネルギーありそうだしね。」
キラウエアはハワイ島にある世界でも有数の活火山だ。数十年も連続的に噴火し続けている火山で、俺でも知っているくらいだ。
「キラウエアって噴火し続けてますけど、エネルギーありますかね?発散してません?」
「何十年も噴火し続けているからこそ、エネルギーが有り余っていると思わないかい?」
「有り余ってたら封印の力が強くて、怪獣は出ないんじゃ?」
「とにかく行ってみてから調べてみよう。」
俺達はハワイ島の、キラウエア火山を中心に調査することにした。
後は現地に行ってからの行き当たりばったり。俺達も政府も初めての事なのだからしょうがない。行ってみれば何か分かるかも知れない程度だ。
「では、明日出発ということで。準備は此方に任せてくれ。」
「明日ですか?早くないですか?」
「何を言っているんだ、高峰君。事はかなり重要なことなんだよ。遅いと問題があるが、早くて困ることはない。」
「はぁ、分かりました。」
何故か山本のテンションが高い。
「取り敢えず今日は、僕達四人はホテルに泊まろうか。」
「ホテルですか?ウチは無事でしたけど。」
「僕も一緒になるけど。」
「あ、そうですね。ホテルにしましょうか。」
俺達四人は、空港近くのホテルに泊まることになった。
「あの、一度病院に寄ってもらっていいですか?」
「もちろんいいですよ。」
ホテルに向かう前に、小波のお母さんが入院している病院に行くことになった。
ホテルに着くと、俺達は小波のお母さんの病室に向かう。
病室に着くと凪ちゃんがいた。凪ちゃんの目は泣き腫らしたのだろう、赤かった。
「お姉ちゃん、それにヒロさん・・・と、誰ですか?」
凪ちゃんは俺達の後ろにいる、山本と笹本さんを見て尋ねる。
「それは、えっと・・・。」
山本と笹本さんは護封機に関することの監視だ。凪ちゃんに説明し辛い。と、考えていると。
「僕達はお姉ちゃんたちの友達だよ。」
と、山本が宣った。いやいや、それは無理がないだろうか。こんなスーツでぴっちり決めた大人の友達とか怪しすぎるだろ。
「お姉ちゃんのお友達ですか。お姉ちゃん、こんな大人の人の友達もいるなんて凄い、かっこいい。」
「いやあ、それほどでも。」
何故か山本が照れる。今のは山本をかっこいいって言ったんじゃないぞ。何故照れる。
「それでお姉ちゃん達は、お母さんのお見舞いに来てくれたの?」
「あー・・・、それなんだけど、ちょっと凪に話があって。お婆ちゃんにも話をしないと。」
「お婆ちゃん、夜にはこっちに着くらしいよ。」
「あ、そうなんだ。じゃあお婆ちゃんが着いたら一緒に話しようかな。」
そうして俺達は、小波のお婆ちゃんが到着するまで待つことになった。
その間、凪ちゃんが俺と小波を交互に見てニヤニヤするということが何回かあった。
小波がお婆ちゃんと凪ちゃんに話をしている間、俺達は後ろで聞いていた。
小波が護封機や政府の話せない内容の事は伏せて、俺達と一緒に海外へ行くと話している。
何故そうなるのかという理由はかなり強引だが、話し方に強い熱意を感じる。小波のお婆ちゃんはうんうんと黙って聞いていた。
小波のお婆ちゃんは、小波が話終わると口を開いた。
「要するに小波は、私達と一緒に熊本へ行くより、こっちの緋色君と一緒にいたいっていうわけだね。」
「ふぁっ!?」
小波から変な声が出た。
お婆ちゃんの隣で、凪ちゃんがニヤニヤしながら小波を見ていた。
「ちょっと!お婆ちゃん!いきなり何言うのよ!」
「おや?違うのかい?それじゃ、この大変な時にお母さんの元から離れる理由が、他に思い付かないんだけどねぇ。」
「違うから!好奇心!そう!ただの好奇心だから!」
小波は顔を真っ赤にして、必死で弁解していた。
そんなに必死で否定しなくてもいいのに・・・。
「お婆さんの許しさえあれば、小波さんは責任を持って我々が面倒を見ますよ。」
山本が口を挟んだ。
山本は話が始まる前、小波のお婆ちゃんに名刺を渡していた。
俺がもらった真っ白な名前だけの物と違い、省庁で働く職員の肩書きが書いてあった。
あれも本当の職業じゃないんだろうな。
「そうだねえ、こんな立派な仕事をしている人が付き添いしてくれるんなら、緋色君と一緒に行ってもいいかもね。」
「ほんとに!?」
こんなに簡単に許しが貰えると思ってなかったのか、小波は飛び上がるように喜んだ。
今、「緋色君と一緒に」の部分が強調されていたように感じたのはきっと気のせいだ。
こうして小波も、晴れて一緒にハワイへ行くことになった。
小波のお婆ちゃんは、落ち着いているように見えてかなり慌てていたようで、小さな手提げ鞄一つという出で立ちだった。勿論、泊まるところなども考えていなかったようで、結局俺達と同じホテルに泊まることとなった。
俺の家族の話だが、携帯の電波が繋がりはじめてすぐ連絡があった。
俺も家も無事だと伝え、色々と話した後山本へ電話を代わった。
どうやら俺は、学校がしばらく休講になるのに合わせて、政府関係部署で復興に関するアルバイトをするということになったらしい。
普通の高校生が政府関連のアルバイトって、と思ったが、どうやらすんなり受け入れられた様子だった。その関係で、時々街を離れることもあると伝えておいた。
旅立ちの日、空港にはクーゴ達が見送りに来ていた。
「別にそんなに長いこと向こうに行ってる訳じゃないんだし、大袈裟だな。」
ただちょっとハワイに行ってくるだけで、空港に集まった皆に言う。
「こんな時だからね。何があるかわからないし、こういうことはちゃんとしたいのよ。」
「そうか。そっちも大変だろうけど、また何か起きるかもしれないから、気を付けてな。」
地球に危機が迫っているような状況だからこそ、仲間内の結束を大事にしたい。そんな委員長の気持ちが伝わってきた。
「どっちかって言うと、そっちの方が何か起きるかもしれないからな。気を付けろよ、ヒロ。それと小波も。」
「分かってるよ。」
「ああ、それじゃ行ってくる。」
友人達が見送る中、俺と小波と山本達四人は搭乗口へ向かった。