第八話 調査
大分間隔が空いてしまいました。
平成最後の日に更新です。
坂を駆け上がってきた小波は、少し息を切らせている。
「小波、病院の方はいいのか?」
優しいクーゴは小波を気遣う。
「うん、結構ひどい怪我だったんだけど、運が良かったみたい。命に別状は無いって。それで今は凪が付いてる。私はあの後、どうなったのか気になったから。」
小波のお母さんは大丈夫らしい。良かった。
「よくここにいるって分かったな。」
「時間的にもう皆の家は回り終わってる頃だろうし、あれがあるからここに来るかなって。」
一連の騒動でインフラが破壊され、混乱も乗じて携帯の電波は圏外になっている。小波は推測でここに来たらしい。
「それで?どうだった?」
「皆の家は無事だった。家族も無事だ。それでこれからどうするか考えて、一度あれがどうなっているのか見に来たわけだ。あと、ヒロが元気になった。」
「そうなんだ、良かった。」
蒼也の返答に小波はホッとした。
自分のところが大変だというのに、友達の家や家族の無事に心から安堵しているようだ。そこには俺への気遣いも含まれているような気がした。
ほんと、こいつらは優しいな。こいつらと友達で良かった。
そんな話をしていると、此方に気づいた自衛隊員が近づいてきた。
「君、ちょっといいかな。」
「はい?俺ですか?」
自衛隊員は俺を連れて少し離れる。
「君、あのロボットに乗っていた子だよね。」
「そうですね。なんで離れたんです?」
「ロボットに乗っていた人間は機密だからね。」
「それなら大丈夫ですよ。あいつらは知っています。」
そんなやり取りをしているところ、学校にセダンが2台入ってきた。
車からスーツを着た男女五人が降りてくる。その内の一人がこっちへ着た。
「やあ、久しぶり。と言っても数時間ぶりかな。」
スーツの男は山本だった。
「あの後、政府内で話し合いがあって色々決まってね。それで君に付くのが僕になったわけだよ。」
「ああ、はい。よろしくお願いします。」
いやに軽くなっている山本の口調に、俺は違和感を覚えた。
「?ああ、口調かな。これから一緒にいるのに、堅苦しいしゃべり方をしていたら君だって嫌だろう?」
「なるほど。」
山本が俺に付くということは、他の四人はあいつらに付く人間だろう。
「何の話をしていたんだい?」
山本が自衛隊員に、何か身分証のようなものを見せながらそう聞いてきた。
聞かれても特にまだ何も話をしていないので分からない。
「あのロボットをどうするか調査をしていたんですが、どうやっても動きませんでした。重量が重量ですし、大きさもありますので移送も出来ず、そこで彼の姿が見えたので思い声を掛けたところです。」
俺が言い淀んでいると、自衛隊員が説明した。
「なるほど。それは興味がありますね。中に入っても?」
「構いません。」
「では彼らも連れて行きましょう。」
「よろしいんですか?」
「彼らも秘密は知っていますから。監視も付いてますし、今から新しく何かが出てきても大丈夫ですよ。」
山本と自衛隊員の間で話が進んでいく。
しかし、いくら今のところ秘密を知っているからと言って、あいつらも一緒に連れて行っていいんだろうか。一応、重要機密扱いの筈なんだが。
山本が監視員の一人を呼び説明すると、すぐに戻り皆に説明する。
皆が驚いた顔でこっちを見てから、近づいてきた。
「私達も中に入っていいって聞いたんだけど。」
「そうらしいな。」
「これだけの囲いを作ってるくらいだし、国にとって大分秘密なんだろこれ。いいのかな。」
「山本さんがいいって言ってるからいいんじゃない?」
「大丈夫ですよ。」
「いいんだ・・・。」
戸惑いながらも俺達は中に入った。
そこには降りた時と同じ、膝立でコックピット部分を降ろした状態の護封機があった。
「俺達は何をしたらいいんです?」
「取り敢えず、これの中に話してくれた内容以外のデータ等がないか調べたいんですよ。」
山本は、自衛隊員が回りにいるところでは口調が戻っている。
「分かりました。見てみます。」
俺がコックピットに近付こうとすると、小波達も付いてくる。
そこで自衛隊員に止められそうになっていたが、山本が許可を出したようだ。そのまま付いてきた。
俺はコックピットの前まで行き、シートに座った。その瞬間、首筋にピリッとした痛みが走る。最初の時ほどではない。これで生体認証でもしているのだろうか。
俺は目に前のディスプレイに手を伸ばした。ディスプレイが起動する。護封機が起動している様子は無い。車で言うとエンジンをかけずに、電気系統だけ通電している感じだろうか。
表示される情報を見ながら、それらしい項目を選んでいく。すると『護封機・再生機』という項目があった。
再生機という単語には覚えがない。なのでその項目を選ぶ。
すると目の前に、小さな地球がホログラフィーで現れた。その地球儀上に幾つかの光点がある。
赤く光る光点の中、ひとつだけ黄色がある。その場所は日本、ここだった。
「この黄色い光ってこの辺りだよね。」
地球儀を覗き込んでいた皆も気付いたようだ。
「ヒロ、この点はなんなんだ?」
蒼也が聞いてくる。皆にはディスプレイに表示されている文字が読めない。俺は皆に何の項目を選んだのか教えた。
「再生機?再生機っていうのはなんなんだ?」
「分からん。」
「ヒロの記憶にも無いものか。」
分からないものは置いておいて、光点の意味を考える。
「これは護封機と、その再生機というものを指しているんじゃないですか?」
山本が口を挟んできた。
確かに護封機・再生機と表示されていたので、そう考えるのが自然なのかもしれない。
「ここだけ黄色になっているのは何故だと思います?」
「そうですね・・・、目覚めた、起動したという意味ではないでしょうか。」
なるほど。確かにそうかもしれない。
「じゃ、護封機って他にもこれだけあるってことか?」
「高峰君の話では、護封機は怪獣の封印、つまり地球を護るためのものですよね。それがこの一機だけとは考え辛くありませんか?」
山本の話だと、護封機は他にもあることになる。クーゴがそこに突っ込むが、山本の推測は的を得ていた。
「そうなってくると難しい話になりますね。」
「何がです?」
「これだけ強力なものです。他国、それも強国や信用の置けない国には渡って欲しくありません。」
確かにそうなるとややこしくなりそうだが、日本が保有しているのは不味いという話は何処へ行ったのか。
「取り敢えずここ。ここに行って調査してみようと思うのですが。」
山本が指し示したのはハワイだった。
「調査ですか?」
「そうです。情報はこちらだけが握っています。多少調べていても怪しく映らないと思います。高峰君、協力していただけますか?」
俺は政府に雇われている格好になっている。断りづらい。
「分かりました。」
「あっ、あの!私も一緒に行っていいですか?」
「小波?」
俺が山本に返答すると、小波も一緒に行くと言い出した。
「いや、小波。お前はお母さんが大変だろ。付いていなくちゃ駄目だろ。」
「それなんだけど、お母さん入院しちゃったし、家も壊れちゃったから、熊本にあるお婆ちゃんの所に行くことになったの。お母さんもここの病院から、熊本の大きな病院に移ることになって。」
どうやら小波の一家は熊本に引っ越すみたいだ。しかしそれが俺達と一緒に来る理由にはならないと思うんだが。
(ヒロと一緒にいたいからって言えばいいのに。)
(ヒロと一緒にいたいんだな。)
(九州じゃなかなか会えないからな。)
他の三人には小波の心中はバレバレだったのであった。