第七話 黄昏の街
政府から解放された俺達は、日が沈み始める頃、自分達の街に戻ってきていた。
街は半壊しているので、政府の方でほてるを取ると言われたが、安否の確認など気になることもあったので戻ってきた。
街の火は消えているが、そこかしこに自衛隊やレスキュー隊員等がいる。瓦礫の下にはまだ助けを待っている人たちが大勢いるのだろう。
政府からの呼び出し、なんていう事態に頭から消えていたが、やはりこの光景を見ると思い出す。人が死んだ。俺が巻き込んだ人も少なからずいる。東京ではああ言ったが、俺が政府機関に所属して、世界を守るために戦う。そんな資格があるのだろうか。
俺達は、5人で順番に其々の家を確認していこうということになった。街は半壊し瓦礫等が散乱しているし、何処に危険があるかも分からないので、みんな一緒の行動だ。
因みに俺以外の4人は、其々に政府から監視員のようなものが付くが、自由が認められている。
初めに行った俺の家は無事だった。父親が単身赴任中で、母は父の身の回りの事をするためにたまに父の所へ行く。今日がその日だった。兄弟もいない。なので家族も無事だ。
俺達は次の小波の家に来ていた。
「海原小波」俺の同級生で俺たちのグループの女の子。明るく皆に好かれるタイプの女の子だ。因みに俺も密かに好意を持っている。
そんな小波の家を見て、俺達は固まった。
全壊している。
ここら辺は怪獣の進路から少し逸れていたので、精々がライフラインの切断くらいに思っていた。しかし目の前の建物は全壊している。俺達も何度か来たことがある。間違いなく小波の家だ。
家の方を見ると、どす黒い岩に押し潰されるように潰れていた。
怪獣が放った岩か、若しくは怪獣へのダメージで削れ飛んだ岩か。どちらにしても俺が関わってくる。
「小波・・・ごめん。」
小波にそう言うと。
「ううん、ヒロのせいじゃないよ。全部を守ってあの怪獣と戦うなんて誰にも出来なかった。だから気にしちゃダメだからね。」
「ありがとう。」
小波はたまにキツいところもあるが、基本的に優しい。こんなところも皆に好かれる要因なんだろうと考えていると、全壊した家の前に座り込む少女が目に入った。
「小波、あれ凪ちゃんじゃないか?」
「凪っ!?」
「海原凪」小波の妹で、活発で明るい中学三年生。俺にもよくなついてくれてるちっちゃくて可愛い子だ。
「お姉ちゃん!」
凪ちゃんはこっちに気付くと走り寄ってきた。
「お姉ちゃん!お母さんが!お母さんが!」
凪ちゃんは泣きながら小波に縋り付く。小波は急激に青くなった顔で凪に聞く。
「お母さんがどうしたの!?まさか・・・・。」
「お母さん、家にいて・・・それで・・・さっき自衛隊の人が来てくれて・・・だから。」
「落ち着いて、自衛隊が助けてくれたの?お母さんはどうなったの?」
泣きながら話す凪ちゃんの話では、どうなったのか分からない。小波はとりあえず凪ちゃんを落ち着かせる。
「自衛隊の人が崩れた家からお母さんを助けてくれて、でもお母さん大怪我してて、それで街の反対側にある病院に運ばれたの。」
「それじゃ、無事なの?生きてるのね?」
「うん・・・。」
小波の母親は無事だった。しかし、大怪我をして運ばれたらしいし、どの程度の怪我なのか分からない。それを無事と言っていいのかは分からなかった。
「小波・・・。」
俺は、急激に冷めていく頭でとにかく小波に謝らないとと思っていた。
「ヒロ。さっきも言ったけどヒロのせいじゃないから気にしないで。それよりも、私と凪は今からお母さんの病院に行って来る。クーゴ達の家の方に付いていけないけどごめんね。」
「ああ、それは構わないぞ。早く行ったほうがいい。」
「うん。」
小波は笑顔で俺たちに手を振って、凪ちゃんと一緒に病院のほうに走って行った。しかしその顔は蒼白で、無理をして笑顔を作っているのは誰でも分かる位だった。
「小波のお母さん、大丈夫だといいな。」
クーゴがそう言う。
「五代空吾」髪を短髪にしたガタイのいい男だ。ちょっと怖そうな見た目と違い、心優しく正義感が強い。ちょっと馬鹿だけど、補って余りあるほどいい奴だ。
クーゴの家は無事だった。祖父の代からやっている八百屋だ。
流石に今日は営業していないが、外観を見る限りどこもなんともない。
「親父、配達とかで巻き込まれてなきゃいいけど。」
そう言ってクーゴは家に入って行った。
しばらくして家から出てくる。
「大丈夫だった。親父も母さんもあの時店にいたらしいよ。」
「そうか、良かったな。」
「ああ。」
「次は蒼也のところだな。」
「いや、ウチはいい。俺は一人暮らしだし、そのマンションもここから見えている。怪獣の進路からも離れていたから無事みたいだしな。」
そう言って蒼也は家の確認を断った。
確かに蒼矢のマンションはここから見えている。見た感じにも大丈夫そうだ。
「篝蒼也」クールな眼鏡でイケメン。いつも冷静沈着だが、不足の事態に陥ると挙動不審になる。その風貌と立ち振舞いから、クラスでは「ブルー」とあだ名されている。
「蒼也がそう言うんなら次は委員長のところだな。」
「わかった。」
「藍沢ひかり」肩まで伸びたミディアムに、眼鏡を掛けた委員長タイプ。いや、実際委員長だ。表情のあまり変わらないクール美少女だが、近寄りがたい雰囲気がある。うちのグループでは異色のタイプだが、ある事情でつるんでいる。あだ名は当然「委員長」だ。
「委員長の家に来るのも久しぶりだな。」
「そうね。」
クーゴがそう言うと、委員長は素っ気なく返した。
委員長の家は二階建てのアパートだ。そのアパートの前に女性の姿が見える。
「お母さん。」
「ひかり!?」
委員長にお母さんと呼ばれた女性は、こっちに足早にやってくる。
俺達も何回か会ったことがある。まだそれほどの歳でも無いはずだが、皺の数が年齢より老けさせて見える。あんなことがあったからだろう、その顔も今はいつも以上に憔悴していた。
「ひかり、無事だったのね。あの怪獣が学校の方へ向かって行ったから心配で。ひかり、帰ってこないし、学校の友達に聞いても、何故か言葉を濁すような感じでね。まさか、と思っていたけど良かった・・・。」
ひかりのお母さんは泣いていた。学校の奴等が言葉を濁していたのは、俺達が政府に連れていかれた事を、言っていいのか分からなかった為だろう。下手したら逮捕だからな、仕方ない。
俺達は暫く親子のやり取りを見守っていたが、他の様子も気になったのでそろそろ行くことにした。
クーゴと蒼也とその場を離れようとしたが、委員長が走ってきた。
「ちょっと、置いて行かないでよ。」
「いいのか?お母さん心配してたんだろ?」
「大丈夫。元気な姿も見せられたし、それに私に友達がいること、お母さんすごく喜んでいるから。」
「そっか。じゃあ一緒に行くか。」
小波を除く俺達四人は、一通り街の様子を見回りながら学校へ向かった。護封機が有る為、今どうなっているのか気になる。
学校へ着くと、校庭は高い幕で覆われていた。小高い丘になっていることもあり、外から護封機は見えない。入り口らしき所には、自衛隊員が立っている。
俺達はその様子を見ながら校舎の方に回る。
流石に校舎には誰も残ってはいないようだ。その代わりに自衛隊員が出入りしている。教室を即席の詰所のようにして使っているのかもしれない。
校舎を視界に入れると、どうしても崩れた部分が目に入る。今はブルーシートが掛けられている。
俺の頭にまたあの時の光景が過る。真っ赤な血が流れる瓦礫、その隙間から見える腕。
俺の心がその光景に掻き乱されていると、不意に声が掛けられた。
「先輩?」
後輩らしい女の子が、こっちを見て駆け寄ってきた。
「やっぱり先輩でした。あの、私どうしても先輩に言いたいことがあって、それでここにはあれがあるし、ここで待っていたら会えるんじゃないかって思って。」
女の子は少し恥ずかしがりながらそう言った。
「先輩。ありがとうございました。」
「え?」
この場所で俺は憎しみと敵意を向けられ、石を投げられた。あの生徒達の目が脳裏から離れない。俺はお礼を言われる意味が思い付かなかった。
「あの、大変なことになってしまった人もいますけど、感謝している人も大勢います!私は、私とお兄ちゃん、仲のいい友達も皆無事でした。先輩があの怪獣をやっつけてくれたからですよね。だから、ありがとうございます。」
俺は思い出した。
あの時の校庭には憎しみだけじゃない。安堵や喜びの表情もいた。それは憎しみよりも多かった筈だ。
だからと言って、死んでしまった人の事が消えて無くなるわけではないけど、俺の心は大分楽になった。
「良かったな、ヒロ。お前のやったことで助かった人も大勢いるんだよ。あそこで止めてなきゃ、まだ無事だった街の方にも行っていただろうしな。」
蒼也がそう言ってくれる。
どうやら俺の心情に気付いていて、気にかけていたようだ。
流石クール眼鏡だ。ありがたい。
「小波が来たわね。」
委員長の言葉に振り向くと、学校に続く坂道を小走りに上がってくる小波が見えた。