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封印の惑星  作者: おきし
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第六話 政府

1日遅れました。

 突然現れた男は政府関係者とだけ名乗った。

 怪獣騒ぎの中、これだけ早く現れたのだから防衛省か公安関係か、まあそんなことは関係ない。男は生徒達を見渡すと口を開いた。その内容の方が重要だった。


「今ここで見た事、そうですね、特にこのロボットに誰が乗っていたという事は秘密でお願いします。家族や友人であっても話してはいけません。勿論SNS等にアップするなど問題外です。この約束が破られた場合、国家の機密漏洩、重いところで国家反逆の罪に問われることもあります。当然とても重い罪になりますので注意してください。無いでしょうが、中でも外患誘致に問われることになれば極刑以外の判決はありませんよ?」


 黒服の脅しに生徒達に緊張が走る。スマホのカメラを構えていた生徒は、慌ててポケットに入れた。


「国家反逆とか、本当にそんなことになるんですか?」


 生徒の中から声が上がる。


「今回は特別ですね。それだけ国にとって重要と言うことです。」


 そんな中、一人の生徒が顔を青くしながら一歩前に出た。


「あ、あの・・・怪獣とロボットが戦っていたところの動画を、その、既にSNSに上げてしまったんですが・・・。」


 生徒は逮捕されるのではと、ビクビクしながら打ち明けた。

 しかし黒服の男は。


「仕方ありません。これだけの大きさです。街の方からも当然見えているでしょうし、多少離れていても見えるでしょう。これの存在事態を今から隠蔽するのは困難です。ですので大事なのはこれが『何』で、『誰が』動かしているのかと言うことです。その秘密さえ守っていただければ大丈夫です。」

 生徒はホッとした表情で皆の輪の中に戻って行った。


「しかしながら・・・。」


 黒服の男は申し訳なさそうな表情を浮かべ、近くにいる俺たちの方へ視線を写した。


「あなた達は先程、事の真相を聞きましたね?」


「「「「え?」」」」


 四人の友人は、何か不味い事が起こった表情になった。


「そう緊張しなくても大丈夫です。しかし、それを聞いてしまったあなた方を、他の生徒達と同列で処理することはできません。」

「処理・・・?」

「ああ、いえ、あなた方の身柄をどうこうと・・・いえ、どうこうすることになるかもしれませんが、少し同行して貰いたいということでしてね。」

「・・・・・。」


 友人達の表情は強ばったまま、俺達は黒服の男に同行することになった。




 俺は今、陸自の車両に乗っている。他の友人達は別の車両だ。向かいには黒服の男が座っている。


「自己紹介がまだでしたね。私は山本と言います。よろしくお願いします。」


 黒服はそう言って、名刺を差し出してきた。

 名刺には所属など何も書いていない。真っ白な紙に、ただ『山本一郎』と名前があり、その下に連絡先があるだけだ。メールアドレスすら無いので、ドメインから特定なんかも出来ない。

 この山本一郎という、ありふれた名前も偽名かもしれない。


「ちらっとは聞こえていたのですが、私に詳しく話を聞かせてくださいますか。」


 俺は特に抵抗する理由もないので素直に話した。


「ふむ。その内容は友人達に話されたのと同じ内容ですか?」

「ほぼ同じですね・・・。こんな話、信じるんですか?」

「普通なら信じないでしょう。子供の妄想と取るのが普通です。が、実際に怪獣が現れ、そしてロボットがそれを倒した。こんな現実を見てしまった後では、信じざるを得ません。」

「なるほど。」


 その後、他愛ない話をしていると車は高速に乗った。


「何処へ向かってるんです?」

「東京ですよ。東京の、永田町です。」




「着きました。」


 目の前にはテレビなどでよく見る建物、入り口には警備員がいる。

 俺は山本の案内で中に入った。

 重厚な作りで、革張りのソファの並んだ何の用途で使うのか、一般市民である俺には理解できない部屋へ通された。

 ソファは半分ほど埋まっている。誰も彼もこれまたテレビで見た顔だ。 防衛大臣に外務大臣、野党の代表までもいる。

 そして一番奥、こちらと対面になるように座っているのは副総理だ。たしか薔薇の閣下とか呼ばれていた人だったはずだ。


「よく来てくれた。座ってくれ。」


 副総理が俺に促す。俺はそれに従う前に聞いた。


「俺の、あ、いや、私の友人達はどうなったのでしょう。」

「君の友人達もここに来る予定ですよ。どこまでの内容を聞いていたのか分からなかったので、車を別にさせてもらっただけです。」


 山本が副総理の代わりにそう答えると、ドアがノックされた。


「うわっ、なにここ、凄い!あっ・・・。」

「うわぁ、何この面子、こわっ・・・。」


 友人達が部屋に入って来るなり、目の前に並ぶ異様な面子に顔を引き攣らせる。


「君達も座ってくれ。」


 再度促され、俺達はソファに着席した。


「さて早速だが、そこの彼に話した事をもう一度我々の前で話してくれないか。ああ、言葉遣いは気にしなくていい。それを気にして、重要なことを言いそびれたのでは意味がないからな。」


 そう言われた俺は緊張しながらも、国のお偉いさん達の前で事情を説明した。




「なるほど。それは大変な事態だな。」

「副総理なんて立場の人が、こんな話信じるんですか?」


 俺は山本へ言ったことをもう一度言った。どうしても大人が、それも立場のある人間が、こんな話を信じるとは思えなかったからだ。しかし、副総理は。


「これでも私は他の頭でっかちな奴等と違って、そういった話にも明るくてね。まあこっちはフィクションだがな。」


 そう言って副総理は笑った。


「副総理、急な召集で何事かと思ったら何ですか、この話は。」

「聞いていなかったのかね。国の、いや世界の危機の話だ。」

「馬鹿にされておられるのでしょうか?」

「馬鹿になどしていない。取り敢えず話を進めようじゃないか。」


 副総理に食って掛かっているのは某野党の代表だ。テレビでは与党に対して揚げ足取りや反発ばかりしているが、他に何の仕事をしているのだろうか。

 話し合い?は終わったのだろう。副総理が此方に目を向ける。


「ここからが大事な話だ。本当は十分時間をかけて協議し、国会に提出して審議するような話だが・・・今回は特別だ。この場の話で決めさせてもらう。」


 そう副総理が言うと、またも野党が食って掛かる。


「副総理!それは越権行為じゃないですか?そんな内容を正式な手順も踏まずこの場で決めるとは!」

「それを承諾してもらうために、君達野党の代表も呼んだのだよ。君はこの話が事実だったとして、その場合の世界の危機を理解しているのか?」


 そう言われ黙ってしまう。


「それでは本題に入ろう。あのロボット、『護封機』と言ったかね?あれについては君の預かりにする。」


 その言葉に、自衛隊辺りに取り上げられるものだとばかり思っていた俺は驚いた。野党の面々も同様のようだ。


「副総理!あんなものを民間人に、それも子供に使わせるなどと正気ですか!?」


 野党の言い分も最もだ。しかし。


「先の怪獣が、自衛隊を一瞬で壊滅させたのは知っているだろう?それをあれは倒して見せた。現代兵器から考えると、とんでもない戦力だ。そんなものを日本という国が所有していたら、どうなると思うかね?隣国を筆頭に批判が集中、戦争の火種にすらなりかねない。巨大な力という事なら核があるが、あれは所有している国が複数有ることから互いに拮抗している。だが護封機はあれだけだ。わかるかね。」


 副総理の言うことは理解できる。巨大な力は相手に不信感を与える。不信感が募れば戦争になることだってあるだろう。

 だが普通の高校生に預けるというのはどうなんだろうか。


「副総理、それでも民間人の子供に委ねる、という理由にはなりませんよ。まして世界の命運が掛かっているのでしょう?」

「君達は話を聞いていたかね。あれはもう彼にしか動かすことが出来ないようだ。それに・・・、君。」

「は、はい。」


 お偉いさん同士の話の途中でこっちに振られ、返事が上擦った。


「君はもう卒業後の事は考えているかね。」

「え?いや、その、そろそろ受験勉強でも始めて、そこそこの大学にでも行こうかと。」

「そうか。それでは大学で何を学びたいか、将来何になりたいか決めているかね?」

「まだ、そこまでは。そのうち見つかるかな、と。」


 委員長が呆れた視線を向けてくる。


「そうか!それは良かった!君は今、卒業後の就職先が内定したぞ!」

「・・・は?」

「君は卒業後、環境相に新設される『地球環境保全安全部』に内定した。言わば公務員だな。」

「はい・・・?」

「これで君は民間人以上、国家公務員未満、ただの民間人じゃなくなるというわけだ。」

「いやいやいや、人の将来を勝手に決めないで下さいよ!」


 相手が副総理だが、あんまりの事に咄嗟に口に出た。


「この話が受け入れられないなら、君はこれから先、ほぼ軟禁状態で何処に行くにも監視が付くことになるが。」


 副総理の目は真剣だ。逃げ場がない。


「受け入れれば自由ってことですか?」

「完全に自由というわけではないが、一応国からのサポートの人材が付く。君はこれから世界各地に現れるであろう、怪獣の対処をお願いしたい。」

「副総理!そんな話を急に決められたら困ります!」


 野党からも声が上がるが。


「アメリカにいる総理には話は通っている。それにこの話は、あまり大勢の議員達に知られたくはない。君達も口外しないようにしてくれ。特に野党の方は、与党叩きの材料として公にしないように。」

「それは・・・。」

「これは我が国がどうとか、政権がどうとかいう話では無いはずだ。わかるだろう。」

「・・・わかりました。」


 驚いた。まさか野党が納得するとは。曲がりなりにも政治家、それも党代表にまでなった人間だということか。理解が早かった。

 しかし、護封機に国が関わるのが不味いと言っておいて、俺が公務員でいいんだろうか。

 俺の考えを読んだのか、副総理の口許が微かに笑っていた。

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