第五話 慢心
怪獣と対峙して油断無く観察する。
さっきの尻尾の攻撃だが伸びていた。尻尾を伸ばしての攻撃が出来るようだ。周りの状況を見るに、ものすごい熱を持っていそうだが、少なくともコックピット内で熱は感じない。
それと相手のパワーだが、こちらの方が若干上回っていると思う。最初の攻撃の時を考えればそういう結論になる。なら力押しで行けるか?こちらの防御力も合わせて考えれば行けそうだ。
俺はそう考え、一歩踏み出した。
それに合わせたように怪獣から攻撃が来た。溶岩を纏ったような岩石の塊が飛んできた。体の一部を飛ばしているのか?不味い!後ろは校舎だ。俺は腕をクロスさせるように飛んできた岩石をガードした。
ズズン・・・
コックピットが微かに揺れる。ステータスモニターを見るがダメージは無い。大丈夫、この攻撃も怖くない。
俺はそのまま怪獣へと接近すると、右の拳で思い切り頭部を殴り付けた。
怪獣はバランスを崩すがダメージがあるのか分からない。
「くっそ、コイツ何か武器とか持ってないのかよ。」
モニターに視線を巡らせる。あった。なんだこれ?棒?
その時、また怪獣から岩石が飛んでくる。
俺はそれを防ぎつつ、棒のような武器を選択。すると護封機の腕が長くて太い棒のようになった。
ううむ。なんて原始的な武器だ。もっとこう、心踊るようなロマン武器は無いのだろうか。
そんな下らないことを考えているうちに、怪獣から複数の岩石が飛んできた。
「うおっ、あぶねえ!」
危ないのは護封機じゃない。校舎だ。こんなものが校舎に当たったら生徒に被害が出る。
俺は腕を振り回し、飛んできた岩石を叩き落とす。
「うっとおしいんだよ!」
俺は腕の棒を怪獣の腕の辺りに叩きつけた。
物凄い破砕音と共に怪獣の腕が千切れ飛ぶ。
「まじか!なんて威力!」
見た目と裏腹に、棒の威力は凄かった。
「行ける行ける。」
俺は立て続けに両腕の棒を怪獣へと叩き込んだ。
「すげえなあのロボ。」
「やっぱあれってロボット?岩みたいだけど。」
「細かいこと気にすんなよ。見た目ロボットだからロボットでいいだろ。他に呼び方無いし。」
ロボットの戦いを見ていた生徒はわいわいと盛り上がっている。
「・・・なあ、あのロボット、こっちを庇いながら戦ってないか?」
ロボットは飛んでくる岩石を避けずにガードしている。横をすり抜けそうなものはわざわざ叩き落としているようだ。
「じゃあやっぱりあれって味方なんだ!」
「そうらしいな。しかも動きが人間臭いし、誰かが乗っているのかもな。」
「うおー!巨大ロボットに乗って怪獣とバトル。俺もやりてぇ!」
「しっかし、あの武器はないわ。原始的ってレベルじゃねえぞ。」
男子生徒は、ロボットの棒状の腕を見てそう言う。
「だよね。だよね。やっぱドリルだよね。」
「お前は黙ってろ。」
「しかし、すげえな・・・。」
目に前では棒状の腕を振り回し、怪獣の体を削り取っている。
「勝ったな。」
「あぁ。」
一人の生徒がそう呟くと、もう一人、机に座った生徒が口の前で指を組みそう言った。
その圧倒的な光景に、ふざけ始める生徒まで出る始末だった。
「やれるやれる。俺TUEEEE!」
怪獣を叩きのめしながら俺は叫んでいた。
目の前の怪獣は満身創痍、片腕は無くなり尻尾も根元から欠損している。身体中至る所が抉れている。
俺は、止めの一撃を加えようと大きく腕を振りかぶった。
その時、打たれるままだった怪獣が向きを変え後ろを向く。
「逃がすかよっ!」
俺は振りかぶった腕を振り下ろそうとした。その瞬間、怪獣から何かが飛び出した。
激しい衝撃と共に吹き飛ばされる感覚。
護封機はなにかにぶつかって止まった。
「なんだ、いったい。」
突然のことに何が起こったか分からない
しかし、モニターに映る怪獣の姿を見て愕然とした。
怪獣から生えるウネウネと動く尻尾。
再生している!
さっきの衝撃は尻尾が再生して、それが叩きつけられたものか。
見ていると腕や体も再生していく。
「なんだそりゃ。チートか。」
俺は護封機を起き上がらせようと、手をついていた場所に何気なく目をやって気付いた。護封機が吹き飛ばされ何かにぶつかって止まった。何にぶつかった?
俺は周りを見渡すと現状に気付いた。気付いてしまった。
周りに散乱する瓦礫。見覚えのある外壁の色。教室にあったであろう机や椅子。そして、その間に見える赤いもの。瓦礫の間から出た人間の腕----。
「!?」
背後に守って戦っていた校舎の一部が崩れ落ちている。校舎には沢山の生徒が残っていた。それはここに出てきたときに確認した。ならあれはなんだ。校舎の中にいた、生、徒?
俺は込み上げてきたものを何とか飲み込んだ。
校舎ごと生徒を巻き込んだ。死んだ?何人死んだ?何人なんて関係ない。誰かが死んだ。俺が思い上がって油断していたせいで誰かが死んだ。
一瞬で体の血が引いていくのが分かった。レバーを握る指先が冷たい。
頭の中で、恐怖と後悔と、色んなものがぐるぐると回っている。
体が動かない。
巻き添えを免れた校舎は静まり返っている。
怪獣の姿が目に入った。
起き上がらない護封機に対して、再び尻尾を叩きつけようとしている。その動きがいやにスローモーションに見える。
やめろ。やめてくれ。ここでそんな事をされたら、俺は無事でも周りに被害が出る。まだ無事な生徒も沢山いる。俺の教室がある辺りも残っている。
やめろ。
「やめろおおぉぉ!!」
俺は何も考えられなくなった。目の前のコイツを殺す。コイツのせいだ!只それだけが体を支配して護封機を動かす。
護封機は勢いよく立ち上がると、そのまま駆け出した。
背後で瓦礫が舞い、動かなくなった人影が舞う。
それももう目に入っていなかった。
護封機は怪獣に渾身の力で体当たりし、怪獣と共にグラウンドの向こうの田圃へ転がる。直ぐ様前転から起き上がり、腕を叩き込んだ。
「まだだ!」
無我夢中で腕を振るう。
何発も何十発も。怪獣の体は飛散し、しかし再生する。それもお構いなしに殴り続けた。
どれくらい殴り続けただろう。
いつの間にか怪獣の再生は止まっていて、その動きも止めていた。
「終わった・・・?」
俺は安堵の溜息をついた。と、同時にさっきの場面を思い出す。コックピットの中で嘔吐した。
「人を殺した?俺が調子に乗っていたせいで。」
外の空気が吸いたい。
護封機を片膝を着く形でしゃがませ、コックピット解放の操作をする。護封機の胸部が開き、コックピットユニットが地上まで迫り出してきた。
久しぶりの外の、地上の空気。俺は気持ちを落ち着かせようと、胸一杯に吸い込んだ。焦げ臭い。街の方を見やると、街の火は落ち着いては来ているが未だ燃えている。それを肉眼で確認したことでこの光景も、さっきの光景も、現実なんだと認識した。
「おーい!ヒロ!ヒロじゃないか!?」
声が聞こえそちらを見ると、怪獣が倒され護封機が停止したことで、好奇心旺盛な生徒達は、校庭に出て来て様子を見ているようだ。
その中から見知った顔が何人か走り寄ってくる。
「マジでヒロだぜ!お前亀裂に落ちただろ?大丈夫なのか?これは何だ?」
「ヒロ!良かった!無事だった!大丈夫?怪我とかしてない?」
友人達は興奮したように矢継ぎ早に捲し立てる。
「ああ・・・大丈夫。何でだか分かんないけどどこも怪我してないよ。これは護封機って言うらしくて、なんか地球の封印を守るロボットらしい。」
「地球の封印?」
「ああ、それは・・・。」
俺は気分を変えようと、友人達の質問に答え、地底で知ったことを大まかに話した。
「何だそれは。俄には信じ難い話だ。だがこんな物を見てしまっては・・・。」
友人はクールに眼鏡をクイッとしながら怪獣を見上げた。
その時、ガツンと言う音と共に、コックピットに何かがぶつかった。
地面に落ちたそれを見ると、ゴルフボール大の石だった。
どこから飛んできたのか確認しようとして・・・。
「人殺し!」
周りに止められながらも涙を流し、叫んでいる女子生徒がいた。
「この人殺し!あんたがっ!あんたのせいでっ!」
校庭に出てきた生徒を見る。そこで気付いたが、興味の視線を向けてくる中に、恐怖や憎しみといった感情を持った視線が少なからずある。
『人殺し』
その言葉が酷く胸に響いた。
きっと彼等彼女等の兄弟、もしくは親友や恋人があの崩れた校舎にいたのだろう。
俺は彼女等に何も言える言葉が無かった。
友人達が間に入り、俺は悪くないと弁明してくれているが。
「そこまでにしておきなさい、君達。」
突然声を掛けられ振り向くと、そこに両側を小銃を持った陸自隊員に護られた、黒ずくめのスーツ姿に銀縁の眼鏡といった風貌の男が立っていた。