第四話 激突
「なんだよ、これ・・・。」
俺は破壊され炎上する街を見渡す。見慣れた街の面影は無く、テレビの画面の中でしか見たことのないような風景に戸惑った。
散発的にサイレンの音が聞こえてくる。悲鳴などは聞こえない。皆、避難しているのだろうか。
目の前に異形の怪物がいる。
それなのに俺の心は比較的落ち着いていた。それよりも周りの状況に心が乱れる。
目の前の怪物、いや怪獣?こいつがこれをやったのか。もしかしてこれが、大怪獣の眷属とか言うやつだろうか。見た目からしてまさに怪獣だしな。
だけどこんな怪獣を前にして、恐怖をあまり感じないのは何故だろうか。確かに怖いとは感じる。しかしそれはテレビやゲームなんかで感じるような怖さのような感じだ。普通はこんなものを前にして平静でいられるはずもない。もしかするとあのチクっと来た時、情報と一緒に大怪獣や眷属に対する耐性みたいなものも付けられたのかもしれない。
しかしこいつは何故止まってるんだ?
目の前の怪獣は動かない。動いてないので、とりあえず自分の置かれた状況を確認してみる。
モニター状の岩盤?に映し出されているのは外の映像。それと自機の情報。
自機。そう、どうやら俺はあの『護封機』とやらに乗っているらしい。まじか。
護封機のシルエットが自機の状態を示し、その他見たこともない文字が・・・って、文字らしきものに目をやるとその上に日本語で浮かび上がった。おいおい、すげえ技術だな巨人族。
各部ステータス等、ロボット系のゲーム等で目にしたことのある項目が並ぶ。
色々な状況を踏まえて、大怪獣の封印が云々という話が現実味を帯びてきた。そして今がその時だ、と。
俺は後ろを振り返り愕然とした。
ここは学校だ。俺が通う学校。今朝、ここに登校中噴火が起きて亀裂に落ちた。そしてその学校に生徒達が、いる。
なんでいる?
目の前まで怪獣が来てるんだぞ!?そもそも怪獣が街をここまで破壊しているんだ。普通は早々に避難するだろう?
俺はここまで考えてふと、ああそうか、避難場所って言ったら学校だもんな、と思い至る。
自分の教室の窓際に目をやると、友人達が驚いた表情でこちらを見ているのに気付いた。
あいつらも逃げてない。
目の前に街を破壊した怪獣。その目の前の校舎には友人達。不思議と怪獣に恐怖を感じていない俺。そしてその怪獣と戦う為に造られた護封機に俺は乗っている。その動かし方も分かる。
ならやることは一つ。
元々大した正義感なんか持ち合わせていない俺だが、住み慣れた街を破壊され、友人達に危機が迫っている状況で自分を奮い立たせた。
教室内は静かだった。
いや、話し声は聞こえるが悲鳴などは消えていた。
「お、おい、あれなんで止まったんだ?」
「知るかよ。それより今のうちに逃げた方がいいんじゃないか?」
「逃げるって何処に?」
「さあ?」
生徒達が動揺して話をしている。悲鳴をあげて右往左往する状況はとっくに過ぎ去っていた。その時。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「うわっ!また!」
地鳴りのような、いや今回は少し違う。岩盤がぶつかり合っているような音が響き校舎が揺れる。
「おい!亀裂が!」
校舎と怪獣の間に走っていた亀裂の幅が拡がっていく。そして亀裂の拡がりが治まると、その底から巨大な人型が迫り上がってきた。と同時に人型の足元の亀裂が、それを支えていた岩盤で埋まる。
「何あれ!?また怪獣!?」
「いや、あれは・・・ロボット?」
「は?ロボット?あんなに大きな?アニメの観すぎじゃない?」
「うるさいな!どう見てもロボットだろ!?岩っぽいけど。それにそれを言うなら怪獣はどうなるんだよ!それこそアニメや特撮の話だろ!」
人型の感想を溢した男子生徒は女子生徒から馬鹿にされ、一気に捲し立てた。
「確かにロボットのように見えるけど・・・怪獣にロボット。夢か?」
「なるほど夢か~。」
「おい!違う、戻ってこい。さっき慌てて机にぶつかった時、すげえ痛かった。だから夢じゃない!」
夢オチに流れつつあった雰囲気を吹き飛ばす。
「それじゃあれっていったい何?あれも動かないけど。」
目の前の巨大な人型は静かにそこに立っている。
「ね、ねぇ?ヒロが落ちたとこ、塞がっちゃったよ?ど、どうしよう。」
青い顔をしてヒロ友人が言う。確かに亀裂が塞がってしまった。もし生きているとして救助に行くなら膨大な時間が掛かるだろう。
「大丈夫だ。とは言い難いか。」
いつもクールな眼鏡の友人も表情が硬い。
その時動きがあった。
怪獣がロボットに背を向けるように方向を変え、歩き出そうとしていた。
生徒達は内心ほっとしたが、その先にはまだ無事な街がある。その方角に家がある生徒は息を飲んだ。
しかし怪獣は歩き出さなかった。いや、歩き出せなかった。ロボットがいきなり怪獣の背後から組み付いたからだ。
怪獣はロボットに関心を寄せるでもなく動こうとするが、ロボットがそれを許さない。
暫くの拮抗が続いた後、ロボットが怪獣を横に引き倒した。
「うおおおっ!ロボットが怪獣を倒したぞ!」
「何だあれ!すげえ!自衛隊の新兵器か!?」
生徒達は大盛り上がりだ。
無理もない。自衛隊もなす術もなく壊滅し、ただ破壊されていく街を眺め、次は自分達だと思い始めていたところで、その絶対的な破壊者が倒されたのだから。これは助かるかもといった感情が芽生えて、気が弛んだのだろう。
生徒達が盛り上がっていると、ロボットは腕を振り上げ怪獣を殴り付け始めた。
「なんというか・・・原始的な戦い方だな。」
「確かに。やり過ぎの子供の喧嘩みたいだ。」
「ロボットなんだからもっとこう、ビーム出したり、剣で戦ったりとかさあ。」
「ビームはともかく、剣は実用的じゃないんじゃないか?」
「いやいや!ロボットの武器はロマンだよ!ドリルとか無いのかな?」
「あんた達、子供過ぎ。」
先程までの悲壮な雰囲気を、怪獣とロボットの戦いという非現実が吹き飛ばしていた。家を破壊されて半狂乱だった生徒も、事の成り行きを見守ることで多少の落ち着きを取り戻していた。
ロボットは何度目かのパンチを怪獣に叩き込む。
そこで異変が起きた。
怪獣が真っ直ぐロボットの方を見ている。
「なんだ?」
護封機を動かし、皆を守るため怪獣を殴り続けていた俺は異変に気付いた。
怪獣がこっちを見、その目には憎しみを感じる。
恐怖を感じた。
それはそうだ。怪獣を前にする事の恐怖を感じなくなっていても、普通の高校生だ。殺意に類いする敵意を向けられる事に慣れているわけがない。
一旦距離をとる。
護封機を後退させて様子を見る。
明らかにさっきまでと違い、怪獣がこちらに敵意を向けている。
横薙ぎの攻撃が来た!尻尾だ。
俺は咄嗟に腕を出しガードするが、不意を突かれて踏ん張りが甘く、その場で薙ぎ倒された。
不味い!
尻尾が薙いだ勢いそのままに折り返し、護封機目掛けて振り下ろされた。
「うおお!お、お?」
思ったほどの衝撃が来なかったことに不思議に思う。目の前のモニターには怪獣の尻尾がドアップだ。食らったのは間違いない。各種ステータスモニターも異常はない。
「おお、すげえなこいつ。あんなの食らっても大丈夫とか頑丈過ぎだろ。」
きっとコックピット周りにも、衝撃を吸収するような対策があるのだろう。
俺は怪獣の尻尾を掴み、押し上げながら立ち上がる。パワーも凄い。
「こいつとならやれそうだ。」
俺は思った以上の性能の護封機に興奮し、さっきまでの恐怖が無かったかのように消え、構えを取り怪獣と再び対峙した。