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封印の惑星  作者: おきし
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第三十一話 灰色の世界を

前回出たダークプリズンの技名を変更しました。

『なんだあれ?すげぇ・・・。』


 クーゴの呟きがモニター越しに聞こえてくる。


「あれはブラックホールスマッシャー。ダークプリズンの隠された必殺技の一つ。」

『は?何言ってんだ?てか、行きなりぶちかまして隠されたもなにもあるかよ。しかし、はぁ・・・。』

「何?」

『俺があれだけ苦労した奴をあんなにあっけなく・・・。俺、何しに来たんだ?』

「何を言っているの。クーゴがアイツを街から引き離してくれたお陰で、街の被害がそれ以上拡がらずに済んだし、ずっと引き付けていてくれたから街へ引き返すこともなかった。クーゴは十分役に立ったよ。」

『そうか?へへっ、そう言ってもらえるなら有難いけどな。』


 そうして私たちは街へ引き返した。



「これが委員長の護封機か。それで名前がダ、なんだっけ?」

「ダークプリズンよ。」

「それそれ。ダークプリズンな。しっかしなんだよ?あの攻撃。やべえってもんじゃなかったぞ。」

「ダークプリズンの秘められた能力はこんなものではない。」

「なんだそれ?他にもあんなのが一杯あったりすんのか?」


 正直知らない。ただ言ってみたかっただけだ。

 私が黙っていると、クーゴの興味は横にいるシステムに向いた。


「で、それが委員長の護封機のシステムか。でもそれって・・・。」


 クーゴは勇輝を知っている。

 何度かみんなと一緒に勇輝のお見舞いに行ったことがあるからだ。

 クーゴは複雑な表情で私とシステムを見比べた。


「まぁ、そういうこと。私の中の強いイメージでこの姿になったんでしょ。仕方ないわね。」

「委員長、大丈夫なのか?」

「ええ。」


 最初は取り乱したことは言わないでおこう。言う必要も無いし。

 私はシステムに向き直る。


「あなたにも名前が必要ね。呼び名がないと不便だし。」

「えっ!?」


 システムは驚いたように顔を上げ、そして期待に満ちた目で見つめてきた。


「そうね、うーん・・・。闇の牢獄・・・。ダーク・・・。」

「お、おい、委員長?あんまり奇抜なのはやめてやれよ?」

「冗談よ。じゃあユウでいいかしら?」

「えっ!?」


 さっきと同じリアクションだ。

 ただ今回は心の底から驚いたようだった。


「委員長、いいのか?」

「いいのよ。元々私の想いのせいでこの姿になったわけだしね。この子には何も責任は無い。それに弟がもう一人出来たみたいでいいでしょ?」


 このシステムは勇輝の姿をしているが勇輝じゃない。

 私が勇輝を忘れるわけじゃない。

 だけど、今までのような暗い気持ちを引きずっていては駄目だ。

 勇輝もきっと喜ばないだろう。

 なら私は、全て吹っ切って勇輝が元気になった時、笑って過ごせる世界を守るんだ。


 その第一段階として、システムの名前は『ユウ』に決めた。


「さて、どうする?」

「みんな向かってきているんでしょう?こっちは終わったって知らせないとね。」


 時間がかかっていることを考えると、空路や陸路はかなり制限を受けているのだろう。

 なら、そんな要らない苦労は負わない方がいい。


「では、他の皆さんに連絡を取り、一度日本へ帰りましょうか。」


 木崎さんの提案に、誰も反対はしなかった。

 早く家に帰って、ゆっくりとお風呂に入って眠りたい。今はもう落ち着いているが、砂ばかりはもううんざりだ。

 それと病院にも行かないと・・・。


「じゃあ、帰ろうぜ!」


 こうしてマチュ・ピチュから始まった戦闘の連鎖は終わった。

 出来ることなら暫くは怪獣も大人しくしていて欲しいものだ、そんなことを考えながら私たちは帰国の途に着いた。




 -東京某所-


 私たちは用意された一室に集まっていた。

 私たち五人とシステム、木崎さんたち全員が入っても狭くない、会議室のような部屋だ。山本の姿もあった。


「さて、報告書は読んでいますが、皆さんの口から話を聞かせて頂けますか?」


 全員の顔を見渡し、山本が口を開いた。


「何だか急に大所帯になっていますが、そちらが護封機のシステムというものですか。なにやら小さな子もいるようですが。」


 アーデやユウの方に視線を送らせつつ山本が問う。


「小さな子だと言っていますよ、ユウ。私達は誰よりも長い年月を生きているというのに。ああ、私達に年齢なんていう概念は無いですね。」


 アーデが少し不満そうにユウに同意を求めると、ユウは小さく苦笑した。


「仕方ないよ、アーデさん。僕たちこんな見た目なんだし。」


 ユウは自分の手の平をヒラヒラさせて、自分の姿を確認するように言った。

 しかし、私はお姉ちゃんでアーデはアーデさんか。基準が分からない。


「確かに。ヒロの幼女好きが具現化してしまったのなら仕方がないことですね。」

「ちょ、ちょっと待って!?」


 アーデの物言いにヒロが慌てだした。


「えぇと、話を聞いてもいいですか?」


 それを見ていた山本が困ったように言う。


「ヒロが幼女好きの話ですか!?」


 小波がバカなことを言う。


「あれ?委員長笑ってる?」


 小波が私の顔を覗き込んできた。

 どうやら私は知らず知らずの内に笑っていたらしい。


「委員長、良かったな。」


 クーゴが何か分かったように優しい顔でそう言った。


 帰って来た。数日だったけどとても長く感じる数日だった。

 私はみんなのやり取りを聞きながら、再び笑みを溢していた。




 -同日・病院-


 私達は皆とユウ達、それと木崎さんで勇輝の病院に来ていた。


「本当にそんな事が出来るのか?」


 クーゴが疑問を口にする。


「出来るかもしれないな。俺も似たような体験をした。」

「あぁ、炎に飲まれてってやつだっけ?それでその時一緒にいた子がその子なんだろ?」


 蒼也の言葉にクーゴの視線が華鈴に向く。


「えへへ、そうだよ。それで蒼也の想いが私になったんだ。」


 華鈴は嬉しそうに答えた。


「着いたわ。」


 私達はドアを開けて病室に入った。

 機械から伸びた幾つものコードの先のベッドに勇輝が寝ていた。

 私はそっと勇輝の頬を撫でた。


「勇輝・・・。」


 勇輝の顔を見ていると、あの時の事が鮮明に思い出される。

 暗くなりそうな心をグッと静め、私はユウに向き直る。


「ユウ、やってくれる?」

「この子が勇輝なんだね・・・。分かったよお姉ちゃん。やってみる。」


 そう言ってユウは私と勇輝の間に入り、其々の手を取った。

 そうすると意識が繋いだ手を通じて流れ出ていく感覚がして、私はゆっくりとその場に倒れ込んだ。



 ・・・・・・・


「お姉ちゃん、成功だよ。」


 目を覚ますとそこは灰色の世界だった。

 ユウが私の顔を覗き込んでいる。


「ここは・・・?」

「ここが勇輝の意識の世界だよ。」

「ここが?」


 私は周りを見渡す。

 公園のような場所にブランコや滑り台などがある。

 勇輝が好きだったヒーローが石像のように並んでいる。

 一際目を引くのは、50メートルはあろうかという巨大なロボットだ。

 だがそれのどれもが灰色だった。

 動くものも音も無い、まるで時を止めたテーマパークのようだった。


「これが今の勇輝の世界・・・。」

「お姉ちゃん、あれ。」


 ユウが指差す方を見ると、大地が途中で割れている。

 今いる場所は灰色の空間を漂っている島のようだった。


 よく見ると、遠くにぼんやりと霧がかかったような場所が、いくつも点在していた。

 そこには色はあるがハッキリとは分からない場所だ。


「きっと勇輝が寝てる間に、聞こえてきた外の世界を想像した場所じゃないかな?」


 ユウの言葉にもう一度目を凝らす。

 ぼんやりとした中に、赤くて巨大な人形が見える。顔の辺りに幾つもの尖った角らしきものも見える。マントがはためき、彼処には流れる時間があるようだ。

 あぁ、そうだ。あれは。

 あれは勇輝の事故の後に始まったサタンガーZの続編、サタンガーGだ。

 形は違うが、私が勇輝に聞かせてやった話と比べると一致する。


 もう勇輝・・・サタンガーGはもっとカッコいいんだから。


「起きたらそのカッコ良さを、お姉ちゃんがみっちり教えてあげるからね!」


 何故だろうか。今は何でもできるような気がした。

 私は右手を広げ空高く掲げた。空いた左手は指を目一杯広げて顔の前だ!

 そして呟く。


「ダークプリズン・・・。」


 すると灰色の空間が歪み、渦を巻いた。

 その歪みから巨大なダークプリズンが姿を現した。


「行くわよ、ユウ。」

「え?うん!」


 私はユウと一緒にダークプリズンに乗り込み、操縦桿を握る。


「万物を捕らえる重力という名の枷よ。我の命に従いその理を棄てよ。」


 ダークプリズンは両腕を拡げ、空間に干渉すべく発光する。


「グラビティフォール!」


 無理矢理生成した重力の力場が周囲に拡散していく。


 そして島は動き出した。


 周りの島は内側へ、灰色の島は周りに手を伸ばすように拡がって。

 そして全てが繋がる。

 一つの大きな世界が生まれると、灰色の世界にも仄かに色がつき始める。


「うまくいったのかな・・・?」

「すごいよお姉ちゃん!護封機をこんな風に使うなんて!」


 興奮するユウの顔を見ながら、私の意識は薄れていった。

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