第三十話 宵に舞い降りた死神
ようやく30話!がんばります!
「条件?」
システムは勇輝の顔で不安そうに見上げてくる。
「護封機には相手の精神に干渉してその中に入る、若しくは引き入れることが出来るのよね?」
「たぶん、出来ると思う。」
たぶん、か。
他のシステムを見ていて思ったが、システムというのはその見た目の形に話し方や思考が引っ張られるのだろうか。いや、アーデという例もあるな。
下らないことを考えてしまった。それよりも今は。
「なら私が乗る見返りに、それをやってもらえるかしら?」
「う、うん。いいよ。やってみる。」
「契約は成立ね。案内して。」
「うん!こっちだよお姉ちゃん!」
そう言うとシステムは私の手を引いて歩き出した。
まるで面白いものを見つけた、あの日の勇輝のように。
そうして奥へ奥へ、どれくらい進んできただろうか。
「これだよ、お姉ちゃん!」
そう言って指差す先には、巨大な黒い物が横たわっていた。
全身黒。そこに威厳のありそうな金の縁取り。
「これが、護封機・・・。」
私はそれをじっと見つめた。
これに乗って私は戦う。
ふと、頭にあるロボットアニメが過った。
私がこれに乗って怪獣と戦っていたら勇輝は喜ぶだろうか?羨ましがりそうだな。なんてことを考える。
「それでどうしたらいいの?」
「ちょっと待ってね。」
システムがそう言うと、護封機の胸の部分の装甲がスライドした。
横たわる巨大ロボット。胸の部分にあるコックピット。私は自然とニヤニヤしてしまっていた。
システムとそこへ行き、中へ入る。座席はヒロのとは違って跨がって座る流線形のものだった。私はそこに座り、操縦桿へ指をかける。
ズキッっとした痛みと共に、頭の中に色々な情報が流れ込んでくる。
「大丈夫?お姉ちゃん。」
「大丈夫よ、行けるわ。」
「じゃあ行こうよ!」
システムはまるで遊びに行くときの勇輝の顔で、にぱっと笑った。
私はそれを見て思わず苦笑してしまった。
「そうね、行きましょう。」
ぎゅっと操縦桿を握り締め、私はそう返した。
「くそっ!本体はどこだよ!?」
クーゴが何度目かの愚痴を溢す。
深い砂の中、怪獣の本体を探して飛び回る。
しかしその動きはぎこちなく、空の王者としての威厳はない。
シルフィが敵の侵蝕に対して、制御の大半を回しているからだ。
「シルフィさん、大丈夫か?」
「ええ、今のところはなんとかなっているわ。でもこのまま今の状態が続けばどうなるかは分からないわね。」
「まじかよ。くそっどうすりゃ・・・。」
いつの間にか辺りは暗くなり始めていた。
もうそんなに時間が経っているのか、とクーゴは内心焦った。今でさえ視界が効かないのに、さらに暗くなれば・・・。
しかしこれだけ時間が経っていれば、ヒロたちも到着していてもいい頃だろうに。だけどいないものはどうしようもない。今は自分しかいない。
「くっそぉ!」
クーゴが叫んだその時、辺りの暗さがいっそう増した。
太陽が完全に地平に沈んだのだろう。
その時ーーー
「・・・世の理を曲げ、空を覆いし邪なる眷属よ。地に平伏せ。」
凛とした声が闇に響いた瞬間、周りの状況が一変した。
空を大気を埋め尽くしていた砂が、まるで重力を思い出したかのように地に落ちる。
澄みきった夜空が顔を見せ、辺りは静寂に包まれた。
「なんだ?」
クーゴは訝しげに周りを見る。
そこに一つの巨大な影が浮かんでいた。
やけに大きく見える月をバックに、宙に浮いたそのシルエットはまるで死神。
手には大鎌を構え、鋭角に纏められた法衣のような装甲。全身は黒で統一され、金の縁取りが月の光を反射している。関節等から覗くフレームは赤紫に発光し、この闇を支配しているかのようだった。
「待たせたわね、クーゴ。」
「委員長・・・か?」
「ええ、あとはこのダークプリズンに任るといいわ。」
「ダ・・・何だって?何言ってんだ?」
やり取りを終えると委員長は夜の闇の中を踊るように駆け出した。
「行ける、手に取るようにこの子の事がわかるわ。」
「ダークプリズンってカッコいいね!お姉ちゃん!」
コックピットに収まったシステムが、本心から言ってそうにキラキラとした顔を向けてくる。
「闇に沈んだ私の心を収監する牢獄。今の私にピッタリの名前よ、カッコいいでしょ?」
「うん!」
「じゃあ、私たちの世界に混沌をもたらす邪に、裁きを与えに行きましょう。」
どこかワクワクとした気持ちがあった。
あの家族の光景を見て激昂していた心は落ち着いている。いや、密かに胸の内で熱く渦巻いていると言った方が正解か。
視界を覆っていた砂は地に伏した。
ならば狙うはただ一転。
私はダークプリズンのセンサーを最大出力に上げ、自分の五感と同期する。
見つけた。
数瞬、全身の毛が逆立つような感覚を掴む。
ゆらりとした動作でそちらに向き直る。
「あれが本体。」
「間違いないよ!あれが闇の組織の幹部の一人だよ!」
「ノリがいいのね。」
「ノリ?」
キョトンとした顔のシステムを見て、私はクスクスと笑った。
「笑うなんて酷いよ!お姉ちゃん。」
システムは抗議するが、それを見てまた笑みがこぼれる。
あれだけ嫌悪していたのにどういう事だろう。今はスッと怒りが剥がれ落ちたかのようだ。もちろん怪獣に対する怒りは胸の内に燃えている。
「行くわよ。」
私はグッと操縦桿を握る。
ダークプリズンは滑るように闇を駆け、怪獣の本体に肉薄した。
砂でできた平べったい蜥蜴のような巨体に、羽が生えたような姿。その怪獣に向かって大鎌を振り下ろした。
赤紫に発光した刃が弧を描き、空間ごと闇を切り裂く。一瞬目の前が景色ごとズレる。
空間断裂。空間を操る宵闇の護封機の主力攻撃。
破格とも言える能力を有した、ダークプリズンの一撃だ。しかし。
ずあっと怪獣の姿が崩れる。
それは砂の粒子のように飛び散り、離れた場所で一ヶ所に集まる。そして再び蜥蜴の姿になった。
「なにあれ?」
その時、クーゴが通信してきた。
『委員長!あれは俺が戦ってきたヤツの上位互換かもしれねぇ!』
「上位互換?」
『ああ、俺が戦ったやつも分裂と合体を繰り返してやがった。』
「よく勝てたわね。」
『なんとか、な。分裂したやつを片っ端から切り飛ばしてやった。時間はかかったがなんとかなった。』
「なんて力業で・・・。でもコイツは砂みたいに小さくなる。その方法は使えない。」
『だよな。どうする?』
「私に任せておけばいい。こんな蜥蜴に後れは取らない。」
『任せろって、どうする気だ。』
「こうするのよ。」
そう言うと私は大鎌を前面に出し、振り回した。
光の軌跡が空に円を描く。
「邪なる者よ、闇の力に縛られるがいいわ。」
『何言ってんだ?』
クーゴを無視して光の輪を怪獣に向かって投げ飛ばす。
怪獣は逃げようとするが、光の輪はそれを追従し捉えた。
すぐさま怪獣の姿が砂に変わろうとするが、再び元の姿に戻った。
『なんだ?』
「蜥蜴の周囲の重力を変更した。砂ごとき私の闇の牢獄からは逃げられない。」
『マジかよ、すげぇ・・・。でも委員長、さっきから喋り方おかしいぞ?』
私は再びクーゴを無視し、囚われた怪獣を見据える。
「今度は避けられないでしょう?我が半身よ、闇に溶ける死神となりて敵を穿て。」
ダークプリズンの左手が赤紫に発光する。
動けない敵に対して無駄な残像を列べつつ、音もなく怪獣に肉薄、その左手を叩き込んだ。
無理矢理にでも砂化しようとする怪獣はその体を捻れさせ、左手が埋まった箇所から渦を巻いていく。
延ばされ引き千切られ、怪獣はその体積を減らしていく。
「闇に返れぇぇぇ!」
私の声と共に一際激しく発光した左手によって、ついに怪獣は宵闇の空に消滅した。
「必殺、ブラックホールスマッシャー・・・。」
「か、カッコいい・・・。」
静寂を取り戻したコックピットに、私とシステムの声が静かに響いた。
元ギャル委員長でお姉ちゃんで厨二病。
ひかりは一番好きなキャラです。