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封印の惑星  作者: おきし
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第二十九話 慟哭

 私は元来た道を引き返した。暫くあるくと突然周りの風景が切り替わったかのように外に出た。


「ここは。」


 周りを見渡し後ろを振り返る。

 そこにはピラミッドの巨大な石の壁があるだけだった。

 あそこはピラミッドの中?そう考えていると、ふと先程までの砂嵐が収まっているのに気付いた。

 心なしか元より空中を舞う砂も少なくなっているような気がする。

 私はもう一度、出てきた方向を見る。


「ひかりさん!」


 声がした方を振り返ると、木崎さんが駆け寄ってくる。


「ひかりさん、無事でしたか。急に砂で視界が奪われた後、ひかりさんの確認が取れなくなっていたので心配しました。」

「あ、はい、大丈夫です。」


 見れば木崎さんのスーツは砂にまみれ、髪もガサガサにくすんでいた。


「何かありましたか?」


 木崎さんが聞いてくる。


「いえ、特には何も。」


 私は木崎さんに嘘の返答をした。

 今は怪獣はいない。みんなもここに向かっている。なら私があれに乗らなくてもいいじゃないか。そんな風に考えてしまう。


「そうですか。困りましたね。アーデさんの話によると向こうから迎えに来るということでしたけど、何時まで待っていればいいんでしょうか。」


 何時まで待っても迎えは来ないだろう。

 迎えはもう来ていた。私がそれを拒絶した。


「木崎さん、一度ホテルに戻った方がいいのでは?」


 私は木崎さんの格好を見てそう言う。

 木崎さんは少しの逡巡の後同意した。


 私たちはホテルに戻り、木崎さんが着替えを済ませた後、今後の方針について話をする。

 この話し合いももう何度目だろうか。

 木崎さんがこの後の行動について自分の考えを話しているが、正直頭には入ってこない。

 もう何をしても無駄だと知っているから。

 私が上の空で話を聞き流していると、不意にドアがノックされた。

 私は身構え、木崎さんが立ち上がりドアを開ける。


「よお!委員長、首尾はどうだ?」


 そこにいたのはクーゴとシルフィ、それと神田さんだった。


「お疲れ様です、神田さん。ずいぶん早い到着でしたね。」


 確かに早い。この辺りの交通は既に封鎖されている。代替手段を探して来るとしてももっと時間がかかるはずだ。


「それがですね、五代くんがどうしても急ぎたいと言うもので。」

「だってよ、こっちはもう手が空いたんだ。だったら仲間の為に出来ることをするってもんじゃないすか?」


 なんとクーゴたちはグランドキャニオンの戦闘の後休息を取り、そのままシルフィードでここまで飛んできたらしい。


「しかし、あんな無茶をして、もし何処かのレーダーにでも引っ掛かっていたら。」

「その点は心配ありません。」


 シルフィさんがやんわりとした笑顔で神田さんに答える。


「そうかい?それならいいんだが。ただ二度とは使いたくない移動手段だな。」

「凄い速かったでしょ、俺のシルフィード。」


 クーゴがそう言うと、神田さんはチラッとクーゴを見やり盛大に溜息をついた。

 どうやら超エリートっぽい神田さんに、軽いトラウマを植え付けたようだ。


「それで委員長、今どうなっているんだ?」

「どうにもなっていないわ。」


 クーゴの問にそっけなく答える。

 クーゴは快活に笑い、「頑張ろうぜ」等と声をかけてくるが、その後ろでシルフィが難しい顔をしていた。

 きっとシルフィには分かっているのだろう。しかし何も言ってこないことには助かった。


 その時、シルフィの表情が一変した。

 険しい表情になり、口を開く。


「クーゴ、奴が出たようです。」


 シルフィの言葉に皆は窓に駆け寄った。

 そこには一面に砂が舞う薄暗いというレベルを越えた、本当に昼間なのかと疑いたくなる闇が広がっていた。

 窓枠がギシギシと音をたてる。砂が圧力を持っているのだろうか。


「シルフィさん!出るぞ!」


 そう言ってクーゴとシルフィは部屋から駆け出していった。

 私はもう一度外を見る。

 これでは出歩くこともできない。あの場所へ行くことも難しいだろう。私が護封機に乗らないのはしょうがないことなんだ。そう自分に言い聞かせた。


 ごうっと音がした。

 クーゴのシルフィードが飛び立ったのだろう。

 後はクーゴに任せておけばなんとかなるに違いない。そう思いながらも私の胸はざわついていた。


 幾分か経った時、凄まじい衝撃音とと共に部屋が揺れた。


「五代君、どうなりました?」


 神田さんがシルフィードに取り付けたという無線機で連絡を取っている。


『やべえよ神田さん。この視界で本体がどこにいるか分かりゃしねえ。その上この砂が攻撃してきやがる!』

「砂が?」

『ああ!シルフィさんが言うには、間接部に侵入して侵蝕しようとしてやがるみたいなんだ!そのせいでシルフィードがうまく動かねえ!』

『機体の方は私が侵蝕を抑えているので問題は無いのですが、そのせいでシルフィードに回す制御が追い付きません。』

「一度下がれますか?」

『だけど神田さん・・・。』

「どうしました?」

『逃げ遅れた奴らがいやがる!』

「!」


 まさか!?

 ここは既に避難を完了しているはずだ。

 私は激しく動揺する心を抑えようと、爪が食い込む程に自分の体を抱き締める。


「避難するにしても費用は必要です。また家財などを持ち出す手段のない家もあるでしょう。そう言う貧困層が事態を見守りながら留まっていると考えられます。」

「木崎さん、知ってたんですか?」

「ある程度、予測はしていました。外があの状況なので家に籠り、それで私たちとは会わなかったのでしょう。」


 木崎さんの言葉に衝撃を受ける。

 人がいたのか!この街には!


『とにかくシルフィードはここから離れる!攻撃してきたってことは、敵認定してくれたんだろ?だったらシルフィードを追ってくるかもしれない。』

「無理はしないでください。」

『任せてくれ!』


 クーゴは護封機に乗ってまだ一日だ。それなのにもう立派に人を守ることを考えている。私はどうだ・・・。


 少し砂が晴れてきた。クーゴの作戦がうまくいったのだろうか。

 少しずつ街の様子が見えてきた。

 そして息を飲む。

 小さな家々はひしゃげ、砂の圧力に負けて押し潰されている。頑丈そうな建物は辛うじて姿を保っていた。ホテルの窓はよく割れなかったものだ。

 潰れる家から逃げ出し、ホテルの方へ避難しようとしていたのだろうか、両親と思われる男女に抱かれた男の子が一緒に倒れている。そのそばには姉と思われる女の子も倒れている。

 すうっと体が冷たくなった。

 暫くすると倒れていた女の子が動いた。どうやら生きているようだ。

 女の子は這うように三人のもとへ近づいて、男の子の手を握った。

 嗚咽が聞こえる。その声はだんだんと大きくなり、叫ぶように泣き出した。


 私は何をやっているのだろうか。

 救える力を手にすることが出来たのに。

 男の子にすがり、泣き叫ぶ女の子に自分の姿が重なった。


「木崎さん、あの子とあの家族をお願いします。」

「え?」


 木崎さんに女の子たちを託すと、私はホテルを飛び出した。

 どうやら神田さんがついてきているようだが、そんなことは構っていられない。

 私は息苦しくなるような砂の中走った。

 今だ砂は濃く、視界はほとんどない。私は感覚を頼りに走り砂の中に向かって叫ぶ。


「聞こえてる!?開けて!私を中に入れて!」


 叫びながら砂の中を走る。

 もうどれくらい走っただろうか。ふと体が軽くなる。周りの砂が無くなったようだ。

 周りを見渡すと確かにあの場所だった。

 あの時は目の前の事に驚き、よく見ていなかったが、岩で囲まれたような通路だった。

 私はそこを奥へと進んだ。


 暫く進むと人影が見えてきた。

 その小さな人影は、地面にへたり込むように座っている。

 その顔がこちらを向いた。


「お姉ちゃん?」


「お姉ちゃんと呼ぶのは止めて欲しいけど今はいいわ。それよりこの奥に護封機があるのよね?」

「お姉ちゃん、乗ってくれるの?」

「ええ、いいわ。だけど条件がある。」


 条件。ヒロから聞いた話だと可能かもしれない。

 それができるなら、私は怪獣だろうが神だろうが戦ってやろうじゃないか。

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