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封印の惑星  作者: おきし
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第二十六話 蒼炎

 うっすらと蒼い炎のオーラを纏った護封機は、ゆっくりと一歩踏み出した。

 幽鬼のようにフラリフラリと前へ進むその姿は、しかし何処か決意を秘めた最期の王のようにも見える。


 そこに上空の龍がいち早く反応する。

 龍は再び顎を広げ迫ってきた。護封機に龍に反応する様子はない。

 夥しく並んだ龍の牙が護封機を穿った。

 しかし護封機の姿は蒼い炎を残して、その場から消えていた。

 護封機の残した炎を飲み込んだ龍は苦しそうに呻き、そのまま大地を二度三度バウンドして上空に戻った。

 あの残像のような炎でも、かなりのダメージがあったように見える。

 龍は警戒するように、そのまま上空を旋回し始めた。



「これは?」


 蒼也は自分の護封機の変化に気付いていた。


「まさか・・・。初めて乗っていきなり・・・。」


 小鈴のようなシステムは唖然としている。システムも唖然とするんだな、なんていうことを考えるくらい、頭に中がスッキリと晴れ渡っていた。

 さっきまでの怒りはどこへ行ったのだろう。


「どうなったんだ?」


 俺は呆然としているシステムに、再び問い掛けた。


「え、えっと。蒼也の想いが、護封機のキャパシティを超えそうになると、護封機のエネルギー循環システムが再構築されて、今のような状態になるの。」

「つまりどう言うことだ?」

「えー、パワーアップ?」

「そりゃ結構なことだな。」

「あ!でもでも、一応通常のキャパは超えてる訳で、そんなに長くは持たないからっ。」


 システムも驚くようなパワーアップをしたのか。

 これで、これで小鈴の仇を討てる。

 しかし、このシステムはどんどん普通の少女のような口調になっていくな。


「蒼也スッキリしてない?」

「あぁ、さっきまでの怒りが嘘みたいだな。」

「それはね、蒼也の想いを護封機が再構築した時に吸い上げたからだよ。」

「吸い上げた?」

「そう、その想いで今の護封機は動いてるの。」


 成る程、好都合だ。

 パワーアップしても、怒りに任せて冷静な判断が出来なくなる訳じゃなさそうだ。

 良くできたシステムだな。あ、小鈴似のこいつのことではない。


 そんな話をしている間に龍が攻撃をしてきたが、自然と体が動き、その攻撃を軽々と避け、さらには攻撃まで加えたようだ。


「さっきまでとは動かしやすさって言うか、何か違って感じるな。」

「蒼也の想いを取り込んでるからね。護封機の方からもフィードバックがあるからね。そのせいだと思う。」


 ますます結構な事だ。

 馴れない護封機の操作も、自分の体を動かしている感覚で出来る。


 俺は上空で旋回を続ける龍を見上げた。

 こいつの力でやってやるさ。


 敵意を龍に向けたところで蒼い炎弾が発射される。その炎弾はさっきまでのものとは、その初速から違っていた。

 龍はその炎弾を紙一重でかわす。しかし、炎弾が通過した体表の一部は融解していた。

 堪らず龍はさらに距離をとった。


「特に何も強く想っていないのに攻撃したぞ。」


 敵意を向けただけ。それだけで護封機は攻撃した。

 今までは強く思う必要があったため、炎弾であっても多少のタイムラグが発生していたが、今は目線を向けて敵意を飛ばすだけで攻撃が出るようだ。


「今は護封機自体に強い想いが宿ってるからね。その想いを使って攻撃しているんだよ。」


 成る程。しかしそれは。


「それでは、この状態でいくらでも攻撃出来るわけじゃないんだな?」


 今の護封機のエネルギーになっている想いを、攻撃に使っているんならそう言うことだろう。


「そうだね。最初に言った通り今の状態は長く続かないから。攻撃の大きさによってもその時間は減るよ。」


 ならチマチマと攻撃するのは得策ではないか。


 そう思い、一つの思念を形成する。

 その間に速度、大きさ、方向もバラバラの炎弾をばら蒔く。速度差がある上に大きさまでバラバラなら、正面から向かってくる炎弾を見極めて避けるのは至難のはずだ。


 そう思ったが、龍はそれを尽く避けた。


「くそ、これを避けるか。どうやら目で見ているだけでは無いようだな。」


 龍は炎弾が近くを通りすぎた体から幾つもの煙の柱をあげながら、さらに上空へ距離を開けようとしている。

 いや、逃げようとしているのか。


「逃げるのはそれを凌いでからだ。」


 炎弾は今の護封機ですらタイムラグが発生する攻撃の時間稼ぎ。その攻撃から目を逸らさせる目眩まし。本命は既に放たれていた。


 護封機に籠められた想いと、新たな蒼也の想いを乗せた一撃。

 巨大な蒼い炎の龍。最初に放った龍の怪獣を模した炎龍と違い、その姿は神々しく、王の威厳を持った龍だった。

 その蒼く輝く蒼炎の龍が、上空へ昇っていく黒龍に絡み付く。

 黒龍は全速で上へ上へと逃げようとするが、蒼龍はそれを許さなかった。

 ならばと右へ左へ進行方向を変え、更には体を激しくうねらせて蒼龍を振りほどこうとする。が、蒼龍の速度はそれを上回り、遂にはその全身を燃える体で覆い尽くした。


 耳障りな断末魔のような悲鳴が辺りに響く。

 互い絡まる二つの龍は、蒼は一層輝き、黒は溶けるように消えていく。

 悲鳴は段々とか細くなっていき、黒龍の体が燃え、溶け落ち、蒸発していく音だけが周りに聞こえるようになった。

 そして数秒、遂に体の全てを蒸発させ、黒い龍は空に消えた。


 地上では蒼也の護封機が元の赤い色に戻っていた。

 その足元の地面は護封機を中心にガラス化している。


「小鈴・・・。」


 俺は龍が消滅した空を見ながら呟いた。


「ん?なに?蒼也。」


 ふいに俺の呟きを拾ったシステムが返事をした。


「おい。」

「?」


 俺は怒気をはらんだ声でシステムに言う。


「今のはいくらなんでも怒るぞ。お前は小鈴の姿をしているだけで小鈴じゃない。」

「あ・・・。」

「わかったか?二度と小鈴の真似なんてするなよ。」


 小鈴の姿をしているはどうやら俺のせいらしいから、それは仕方がないとしても今のはだめだ。小鈴はもういない。


「あー・・・。えっと、それなんだけど。あ、えっと蒼也、怒るかもしれないんだけどね。」

「?」


 システムはおどおどしながら、申し訳なさそうに俺の顔色を伺ってきた。


「なんだ?」

「えっとー・・・。」


 システムは言いづらそうに。


「えー、小鈴の魂?記憶?なんか私の中にいるみたいなんだよね・・・。」

「・・・・・・・は?」


 システムの言葉に我ながら間抜けな声が出た。


「どういうことだ?それは怒るところか?」


 訳のわからない事を聞き返してしまう。


「あー、蒼也の思念を捉えて、体ごと業火の護封機の力で保護したんだけど、その時小鈴は既に間に合わなかったの。それでその時、崩れ行く小鈴の体を吸収して、蒼也の想いと一つにして今の体を構成したんだけど・・・。その体に小鈴の思念も残っていたみたい。」


 システムがとんでもないことを言い出した。


「小鈴の体を吸収した?」

「ごめんなさい。時間がなくて焦っていたんだと思う。」

「それで小鈴の記憶やなんかも一緒に取り込まれた。」

「ごめんなさい。」


 システムは、本当に正体はシステムなのかと思うほど感情を出し、申し訳なさそうに謝っている。

 つまりこういうことだ。この護封機のシステムは、体は小鈴の体で構成されていて、その頭の中には小鈴の思念が宿っていると。

 それで口調が段々と少女のそれに変わっていたんだろうか。


「何故最初に言わなかった?」


 最初に言われていれば怒っただろうか。

 今は護封機に想いが取り込まれたせいか、驚くほど落ち着いている。


「私もさっき気付いたの。蒼也が護封機に想いを取り込ませた時、蒼也の強い想いが私にも流れ込んできて。それでこそばゆいような、恥ずかしいような、そんな感覚がしてね。なんだろうって思っていたんだけど、さっきの蒼也の呟きを聞いて、不意に小鈴が表に出てきて気付いたの。」


 なんだそれは。


「なら、お前は小鈴なのか?」

「ううん、私はシステム。小鈴を元にして作られた体に、小鈴を元にした私と言うシステムと小鈴の思念が同居しているって言った感じかな。」

「二重人格みたいなものか?」

「ちょっと違うけど、周りから見たらそう見えるだろうからそんな感じかな。」


 それはつまり、このシステムの中で、護封機の中で小鈴は生きているという事だ。

 家族の仇を討つチャンスが、小鈴にも与えられたって事だ。

 小鈴という人間は死んでしまったが、微かに残った小鈴の存在に少し嬉しく思ってしまう。


「何時までもおまえとか、システムとか呼んでるわけにはいかないな。」

「名前?アーデから聞いてる。『私の事はアーデと呼ぶように。』って嬉しそうに言ってきたんだよ。私も名前が欲しい!」

「そうだな。」


 俺は少し考える。


「よし、お前は半分小鈴であって半分小鈴じゃない。業火の護封機から、火・・・、火鈴・・・。いや、それじゃなんか違うな。華鈴、火の『か』と中華の『か』から、『華鈴(かりん)』だ。それでいいか?」


 業火の護封機のシステム、『華鈴』は嬉しそうに頷いた。

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