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封印の惑星  作者: おきし
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第二十五話 交差する炎

 空に浮かぶ龍は再び沈黙していた。

 何故、突然攻撃をしたのだろうか。小鈴が走り出したからか。大声に反応したのか。

 楠木は距離を取りながら考えていた。

 しかし、考えたところで答えは出てこない。あるのは蒼也と小鈴のいた辺りが消し飛び、焼け焦げた土が露になっている現状だけだった。


「蒼也くん、そんな・・・。」


 楠木は悩んだ。

 自分が預かった子供を死なせてしまった。

 何故自分はなにも対抗手段が無いにも関わらず、こんな危険なところに飛び込んだのだろう。もう少しやりようはあったはずだ、と。

 大人では護封機は動かせない。

 それでも何とか見つけ出し、この龍の化け物に一太刀は無理でも、後続の誰かがこいつを屠る手助けになれば。


 そう考えていた時異変が起きた。

 周囲の温度が上がっている。それも急激に。

 楠木は慌てて更に距離を取りながら上空を見る。

 龍はその場から動いていないが、その目は蒼也たちがいた場所を見つめていた。龍が原因ではないのか?

 既に辺りの温度は火事場のようになっていた。やはり龍の視線の先、蒼也たちがいた場所から熱が発生しているようだ。

 その時突然熱風が吹き荒れ、楠木は思わず腕で顔を庇う。辛うじて開けた目が上空の龍を捉えた。

 龍はその口を大きく開けている。


 不味い!

 楠木は見ていた。蒼也たちが炎に飲み込まれた時、その時も龍は上空で口を開けていた。

 そして、その時の再現のように再び炎の柱が降り注いだ。

 今度は極大。先程のものとは比べようもないほどの巨大な炎が、再び同じ場所へ着弾した。

 発生した熱風から逃げるように、楠木は地面を転がった。

 極大の炎は止まらず、執拗に吐き出され続けている。


「な、なんだ?」


 炎の柱の中に人影が見える。

 人間ではない。その人影は少なくとも80メートルはあるだろう。鎧を着た巨人のように見える。


「まさか・・・。」


 楠木は顔面に熱風を受けるのも構わず、その人影を注視した。

 炎の中に揺らめく人影は現れると、何事もないように柱の外に歩み出た。


 赤く煌めくボディに白と金の装飾を施したような流麗なデザイン。所々でエッジの効いたパーツが攻撃的な意思を示す。両肩から後ろへ靡く、マントを象ったような炎のカーテン。

 炎を統べる王のような巨人がそこにはいた。


「こ、これは・・・。そ、蒼也くんかい!?」


 楠木は巨人に問いかけると、巨人から応答があった。


「そうですよ。これは業火の護封機。小鈴に抱いた個人的な想いで、危険な場所に同行させて死なせてしまった、自分への罪を現したようなものでしょう?」

「小鈴ちゃんはやはり?」

「ええ・・・。俺が同行を許したばかりに。」

「蒼也くんのせいじゃないよ。なにも考えず突っ込んだ僕が悪いんだ。」

「いえ、俺が楠木さんの立場でも同じことをしたでしょう。」

「じゃあ二人の罪だ。『業火』は二人の背負った罪。二人でその罪を背負って戦おう。それが贖罪になるかはわからないけどね。」

「ええ・・・。そうですね。」


 楠木は話を締めくくった。今はそんな悠長なことをしている場合ではなかったからだ。楠木は再び視線を上空に移した。




 楠木さんが半分背負うと言った。二人の罪だと。それで少しは気持ちが楽になったような気がした。

 ヒロもこんな気持ちを抱えて戦っているのだろうか。

 俺は上空の龍を見据えた。

 あいつが小鈴を。小鈴の村や家族を。

 沸々と湧いてくる想いに護封機が反応する。


「この護封機は、操縦者の強い想いを力に変えます。今なら『この状態』の護封機の力を100%引き出せますよ。」


 システムが口を開く。その言葉に一つ引っ掛かりを覚えた。


「『この状態』?」


 そう聞き返そうとした瞬間、再び炎の柱が降ってきた。


「ぐっ!?」


 一瞬で赤く染まるモニターの発光に、俺は思わず目を瞑る。


「大丈夫ですよ。これは『業火』の護封機。これくらいの炎、ダメージにもなりません!」


 小鈴の顔をしたシステムは、小さな胸を張り得意そうにする。


「大丈夫だと言っても慣れないな。」


 そう言いつつ炎の中から出る。

 と、同時にコンソールパネルを開いた。

 そこに表示されるNot Foundの文字。


「おい、こいつに武器はないのか?」

「言ったじゃないですか。この護封機は想いを力にするって。強い想い、それがこの護封機の武器です。」


 システムは頭に?を浮かべながら真面目に言ってくる。

 どうやらそんなファンタジーが、この護封機の武器らしい。


「ならっ!」


 俺は龍を見据え、小鈴を失った想いを強くぶつける。

 想いを強くすると共に護封機の周辺の大気が揺れる。高温で大気が歪んでくる。


「くらえ!」


 一気に想いを爆発させると、護封機から巨大な炎の龍が空に昇った。

 その炎は上空の龍まで届いた。

 黒い龍と炎の龍が空で絡み合う。暫くして炎は霧散した。

 後には多少のダメージはあるのだろうか、体から煙を上げてはいるが今だ健在の黒龍が浮かんでいた。


「あまり効いていなさそうだな。しかし、なんで龍なんだ。」


 攻撃が龍の姿とか悪趣味だな。それは仇の姿だ。


「え?蒼也がそう想ったんでしょ?」


 どうやら悪趣味なのは俺だったらしい。

 瞬間、不意に大気が振動し辺りが暗くなる。


「蒼也!上!」

「なっ!?」


 間一髪でそれを避ける。

 それは巨大な龍の尾だった。炎が効かないとわかるや物理攻撃に切り替えてきた。

 その着弾地点はクレーターのように抉れていた。村の周りのクレーターはこれが原因かもしれない。


「此方に物理での攻撃は?」

「出来ることは出来るけど、あの巨体には通じないと思う。」

「なら、空は飛べるか?」

「ううん、それは無理。」


 此方の攻撃はほぼ魔法のような攻撃のみ。空も飛べない。


「くそっ!」


 俺は上空へ巨大な炎弾を数発飛ばす。

 発動速度を考えるとシンプルな方が速い。

 初めの炎龍よりも速度のある炎弾は、しかし龍には届かなかった。

 龍はその体をくねらせ、その全ての炎弾をかわして見せた。


「くそ、どうせ効かないんだったら避けるなよ。」


 俺は一人ごちるが、言ったように当たったところで、大した状況の変化も無いことは分かっていた。


「どうするか・・・。」

「蒼也・・・。」

「そういえば、さっき言っていたのはなんだったんだ?」

「さっき?」

「『この状態』の護封機って言っていたことだ。」

「ああ、あれ。あれは蒼也にはまだ・・・。」


 その先を言う前に再び龍が迫る。

 今度はその顎門を大きく開け、口の端から炎をあげながら突っ込んできた。

 俺はそれを、横っ飛びに地面を転がりながら避ける。


「くそ!何でもありか!」

「顎で噛み砕いて、そこから炎を流し込むつもりかな?」

「最悪な予想をありがとう。」


 地面を抉った龍の頭は、その勢いのまま方向を変え再び向かってくる。


「受け止めるとか、出来ないよな?」

「出来ない。」


 システムの言葉と共に再び地面を転がる。

 威風堂々とした炎の王は、今や地面を這い回る一兵卒のように土にまみれていた。


 このまま・・・このままで終われるか。

 俺だけが殺られるなんてフェアじゃないだろう?

 どうせ殺られるならお前も一緒だ。小鈴たちを殺したお前も道連れにして、それでやっとイーブンだ。


 俺は再び上空に戻った龍を見据え、小鈴の仇を討てそうにない情けない自分に怒りを覚えた。

 そして、駄目なら刺し違えてでもこいつだけは倒すと言う、強い感情に変わっていく。

 その時、胸の奥から沸き上がる、沸々とした熱い想いは蒼也を包み、そして業火の護封機全体に伝播していく。



「そ、蒼也くん?」


 楠木は激しい戦闘から逃れるため、かなりの距離を取っていた。

 この場所なら、蒼也や龍の炎の熱をそれほど感じないはずだった。


「何が起こっている?」


 その場所は今や、チリチリと身を焦がすような熱を感じる程になっていた。

 そして視線の先の蒼也の護封機は。

 その体に纏わりついた土が溶け、蒸発していく。

 立ち上る蒸気と蜃気楼の中、見え隠れする護封機は先程まで見ていたものとは明らかに違っていた。


「い、色が・・・。」


 その姿形は蒼也の護封機そのもの。しかし機体色が赤から青に変わっていた。


「一体何が・・・?」


 そうして楠木が見守る中、青く揺らめく護封機が動き出した。

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