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封印の惑星  作者: おきし
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第二十三話 少女

「えぇ、はい。分かりました。こちらもできるだけ急ぎます。はい、では。」


 楠木(くすのき)さんが電話を切る。楠木さんは俺に付いている、監視兼サポート役の政府の人間だ。その楠木さんがこちらを見た。


「蒼也くん。三人の戦いは始まったそうだよ。」

「戦況は分かりますか?」

「まだ始まったばかりだから何とも言えないね。」

「そうですか。」


 楠木さんは政府のお堅い部署の所属のはずだが、髪を茶色に染めて少しチャラチャラした印象がある。一緒にいても思ったが、言動の端々にもそれが感じられるような人だった。もしかしたらカモフラージュの一環なのかもしれない。


「それで場所は何処になります?」

「ここからまだ山奥の方になるね。まだ結構距離があるんだよなあ。」


 俺と楠木さんは中国の空港から、鉄道の駅に到着していた。ここから鉄道で目的の場所に向かうためだ。

 地方へ向かう鉄道のホームは人が疎らだった。


「いやに乗客が少ないですね。」

「怪獣の影響かもしれないねぇ。よほどのことがない限り、怪獣がいる方へ向かおうなんて思わないだろうし。」

「それはそうですね。」


 自分から疑問を投げ掛けておいて、楠木さんの答えを曖昧に答えた俺の視線は、ホーム上でウロウロする一人の少女に向けられていた。

 その少女は大きな鞄を持って、落ち着き無くホーム上を行ったり来たりしている。


「列車が来たよ。」

「ええ。」


 線路の向こうに列車が見え始めていた。先程の少女はホームの端で身を乗り出すように列車を見つめていた。余程待っていたのだろうか。


「では乗ろうか。」


 俺たちは列車に乗り込んだ。乗り込む際にもう一度少女がいた場所へ目を向けるが、少女の姿は無かった。余程急いで乗り込んだのだろう。



「空いてるねぇ。」

「そうですね。」


 列車内も俺たち以外の乗客は疎らだった。

 そんな車内を見ていると不意に連結部分の扉が空いた。さっきの少女だ。少女は此方の車両に来ると、さっきまでのように落ち着き無くウロウロし始めた。右の窓から外を見たり、今度は左の窓から見てみたり。通路をさ迷うように歩いたり。

 少女が俺たちの近くまで来たとき、突然列車が揺れた。


『きゃっ!?』


 バランスを崩した少女は、自分の大きな荷物に足を取られ俺たちの横で派手に転んだ。


『大丈夫か?』

『え?あ!はい、すみません。』

『何があったのかは知らないが、少し落ち着いて座った方がいい。今みたいなことがあると危ないからな。』

『はい・・・。』


 少女は立ち上がると、フラフラと適当に空いていた座席に腰を下ろした。


「蒼也くんは中国語ができるんだね。ちょっと驚いたよ。」

「中国の歴史に興味を持った頃がありましてね。その時に覚えました。」

「興味で覚えたんだ。そりゃすごい。」

「大したもんじゃないです。」


 座席についた少女のことがなぜか気にかかったが、視線を窓の外へ移す。列車は街を抜け穏やかな田園が見えた。

 マチュ・ピチュへの長旅に加え、そこでの出来事。それから直ぐに中国に移動。正直疲れた。列車が刻むガタンゴトンというリズムに、俺の意識は沈んでいった。



「蒼也くん、起きてよ。降りるよ。」

「・・・ん。もう着いたんですか?」


 そう言って俺は腕時計を見やる。到着までに時間はまだあるみたいだ。


「どうしたんですか?」


 目的地に到着したわけでは無いみたいだが、列車は駅に停まっていて、乗客の姿も見えなかった。あの少女もいなくなっていた。


「どうやら列車はここまでみたいなんだよね。この先は怪獣の影響で鉄道は動いていないみたいだ。」


 仕方なく列車から降りる。

 ホームから駅舎に入ると数人の軍人が見えた。乗客の何人かがこの先はどうしたらいいのか訊ねているようだ。その中にあの少女の姿もあった。


「どうしても村に帰りたいんです!両親と妹があの村にいるんです!」


 どうやらこの先の村が故郷らしい。怪獣が現れたのを聞き、心配で急いで戻ろうとしているのだろう。

 だが軍人の対応は芳しくなく、「あの村はもうだめだ。」等という言葉が聞こえてきた。


「どうしたんだい?行くよ?」

「え?ああ、今行きます。」


 少女はまだ軍人に何か言っていたが、俺は楠木さんに続いた。



「うん、大丈夫。これで先へ進もう。」


 楠木さんは俺を待たせ、何処かに行って十数分。ボロボロのトラックに乗って戻ってきた。何でも地元の農家から買い上げてきたようだ。新車が買えるような金額を渡すと、大急ぎでトラックの鍵を持ってきたらしい。


「これで本当に目的の場所まで行けるんですか?」


 あまりにもボロボロの車体に不安な顔をする。バンパーなど跡形もなく、360度、どうしたらそうなるんだと言うほどに凹んでいる。


「以外とこういう車はタフなんだよ。ほら、乗って乗って。」


 楠木さんは俺をトラックに押し込もうとする。


『待ってください!』


 突然声がかけられ、俺たちは振り返った。

 そこにはあの少女がいた。


『あの、この先に行くんですか?』

『そうだね。』

『あ、あの!途中まででも構いません!私も乗せていってくれませんか!?』


 俺たちは顔を見合わせ、そして楠木さんは少女に問う。


『知っているかもしれないけど、この先は怪獣が暴れていて危険だよ?それでも行くのかい?』

『この先の村に家族がいるんです!私、どうして戻りたくて!』


「どうします?」

「どうって言ってもね。蒼也くんはどうしたいんだい?」

「俺は・・・。乗せていってもいいと思います。」

「へぇ、以外だね。ああ、蒼也くんキミ・・・。」

「なんですか?」

「なんでもないよ、それじゃ行こうか。」


 俺たちはトラックに乗り込み、軍が陣取っている道を迂回して舗装されていない道へ入った。


『そ、そ、そういえばばば、な、名前をまだ聞いていなかったねねね。』


 悪路をひた走るトラックの車内は、へたりきったサスペンションのお陰で酷い居心地だった。

 そんな中で、舌を噛まないように注意しながら楠木さんが少女に名を聞いてきた。


『あ、す、すいません。私ははは、『小鈴(シャオリン)』です。こ、この先の山にある村の出身でで、今はまっ、街の学校に通っています。か、怪獣みたいなものが村の近くに現れたとテレビででで、見まして、心配で急いで戻るところででです。』


 小鈴と名乗った少女は揺れる車内で必死に自己紹介をした。


『小鈴か。いい名前だな。それで、その歳で村から街の学校へ出してもらえるなんて、結構裕福な家なんだな。』

『ゆ、裕福と言うほどでもありませんけど、わ、私の村はそれほど生活に困るということも無かったので。それで、ち、小さなと、時から・・・、自分で言うのも恥ずかしいですけど、『神童』なんて持ち上げられていた私ははは、街の学校に出して貰えることになったんですすす。』

『神童か。それはすごいじゃないか。』

『わ、私も、そう言われていた時は、ちょ、ちょっと調子に乗ってしまっていたんですけどどど、実際に街の学校に入ってみればばば、そうでもないということが分かりました。結局村の中だけでちょっと優秀だったくらいみたいででですす。』

『なるほど。苦労してるんだな。』

『でで、でも、折角送り出してくれた両親の為にに、で、できるだけ頑張るつもりですす。』


 小鈴と会話をしていると楠木さんの視線に気付いた。


「蒼也くん。き、君は何故かか噛まないのかな?こ、こんな所でももも、クールキャラなのかななな?」

「知りませんよ。それより前を向いてください。」


 こんな悪路で、横を向いて話しかけてくるとか危なすぎる。

 その後も悪路は続いたため、会話はここで一旦終了とした。


 廃車寸前、いや日本ではとっくに廃車にされているであろうトラックは、悪路を無事に走り抜け、小鈴の村まで後1時間というところまで来ていた。

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