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封印の惑星  作者: おきし
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第二十二話 其々の開戦

「えっ!?」


 笹本さんの言葉に耳を疑った。怪獣が複数同時に現れた!?

 俺たちはアーデと神田さんを交互に見た。


「間違いありませんね。こちらでも確認しました。再生機ではなく紛れもなくあれの眷属ですね。」


 そう言ってアーデは掌を広げると、小さな青く透き通った地球儀を空中に出した。


「こ、これってアーディオンのコックピットで見たやつだよね?アーデちゃん、ホントにアーディオンなんだね。」


 小波がそんな事を言いながら地球儀を覗き込む。

 地球儀には紫の光点が五つ表示されていた。


「こんなに・・・。」


 俺たちはその数に絶句した。

 世界各地に五体もの怪獣。対して俺たちの切り札、護封機は三体。数が足りない。順番に回っていては間に合わない。

 俺たちのそんな心情を知ってか、アーデが続ける。


「数の点ではこちらに不利な状況に見えますが、結果的には五分です。」

「どういうことですか?」


 アーデが言うことの意味を確かめるように神田さんが聞く。


「ここと、ここ。未起動の護封機の近くです。」

「エジプトと・・・中国ですか。」


 アーデは地球儀に赤い光点を追加する。確かに近い。


「なら、すぐにでも政府の人間を派遣して・・・。」

「それは無理ですね。」


 笹本さんが電話を掛けようとするのを、アーデが制止した。」


「無理?」

「護封機の起動と操縦は18歳以下の人間にしかできません。これは先程述べた理由に付随するものです。」

「子供は未来のために被害を受けない。そして危機を打開し、その未来を切り開くのも子供、ということですか?」

「そうですね。そういうことになります。」


 子供しか起動できない。それじゃ政府の人間が行っても何も出来ない。


 重苦しい空気になりかけた所で声が上がった。


「何を神妙に考え込んでいるのか分かんないけど、私たちが行けばいいんじゃないかしら?」

「そうだな。現状それしかないだろう。」


 声をした方を見ると、委員長が真っ直ぐこちらを見ていた。

 その隣で蒼也が頷いている。


「委員長?それに蒼也まで!これ以上お前らを巻き込むわけには・・・。」

「は?ヒロは何を言っているの?これは私たちが自分で決めたこと。巻き込まれたとか関係ないわ。」

「でも、危険が。」

「それこそ今さらね。現にもう三人も護封機に乗って戦ってる。私たち二人がそうなったところで大した違いはない。」


 委員長は自分を曲げない瞳で見つめ続けてきた。


「・・・わかったよ。」

「決まりね。」


 委員長と蒼也の目に迷いはない。だったらもう俺がどうこう言うことのじゃないのかもしれない。そう思い、神田さんの方を見る。


「我々としてもその申し出は有り難いと思います。これ以上、この事についてあまり深く知る人間を増やしたくないのでね。」


 神田さんの承認を貰った二人は各々、蒼也は中国へ、委員長はエジプトへ向かうことになった。


「篝くんの方は中国ですが、くれぐれも当局の動きには注意してください。あちらで何かあれば、政府として表だって庇うことが難しくなりますので。まぁ、怪獣なんてものが現れた今、あちらもそれどころではないかもしれませんが。」

「わかりました。」


 中国とエジプトは決まり、俺たちは再び地球儀に目を向ける。


「ふむ・・・。」


 それをじっと見たまま神田さんがしばらく考える。


「そうですね。高峰くんはオーストラリア、海原さんはノルウェー、五代くんはアメリカへ向かって貰いましょうか。行けますか?」

「行かないわけにはいきませんよね?でも各々が一人で・・・。小波、大丈夫か?」

「あれ?心配してくれるの?大丈夫、アンダインだってパワーアップしたんでしょ?だったら私だってやれるよ。」


 小波は力こぶを作るポーズで笑って見せた。


「それでは一刻を争います。笹本くん、移動の手配を。」

「やっています。」

「では各自行動を開始してください。」

「「「「「はい!」」」」」


 そうして俺たち五人は、各々が各地に現れた怪獣の対処に向かうのだった。




「一体じゃねえのかよ。」


 あれから数時間、クーゴは空を飛び回る無数の怪獣を見て一人ごちた。

 クーゴの目に映るのは、ゴツゴツした体表に覆われた悪魔のような形の怪獣、さながらガーゴイルのようだ。大きさはそれほどでもない。せいぜいが十数メートルと言ったところだろう。それが数十という数で飛び回っている。

 場所はアメリカ合衆国。アリゾナ州のグランドキャニオンの一画である。


「クーゴ、あれは一体ですよ。」

「はぁ?あれの何処が一体なんだ?」

「あれは一体の眷属が分裂しているものですね。見てください。」


 そう言ってシルフィが指す方を見ると、ガーゴイルたちが一点に集まりだした。


「気持ちわりい。」


 クーゴが言うように集まったガーゴイルたちは、生理的嫌悪感を感じる悍ましい様相で同化し始めた。


「五代くん。」

「わかってますよ!」


 神田さんに呼ばれ、頭上を見る。


「こい!シルフィード!」


 ガーゴイルたちの禍々しさが生み出したのか、薄暗い世界を作り出していた分厚い雲の一点に、貫かれたように穴が開く。

 次の瞬間にはクーゴの目の前にシルフィードが降り立っていた。


「シルフィさん。行くぜ!」


 クーゴとシルフィはシルフィードに乗り込み、魔界と化した空へと踊り出した。




「クーゴの方が始まったようですね。」

「あいつが一番近かったからな。」


 アーデがシルフィを通じて送られてきた情報を口にする。

 俺たちは今、オーストラリアのアデレードにある空港から、チャーターした小型機に乗っている。目的地はエアーズ・ロック。


「そろそろ見えてきますよ。」


 アーデにそう言われ窓の外を見る。

 確かに遠くにエアーズ・ロックが見えてきた。


「怪獣は何処にいるんだ?」


 視線の先にはエアーズ・ロックがあるだけで怪獣の姿が見えない。


「よく見てください。」

「?」


 俺はもう一度エアーズ・ロックを見る。


「おい・・・。嘘だろ?エアーズ・ロックが・・・。動いてるぞ!?」


 距離を縮め、眼下に見るエアーズ・ロックは、言葉の通り動いていた。

 四方に手足を生やし、後方には長い尻尾も見える。巨大な岩のトカゲのような物が地面を這いずっていたのだった。


「でけぇ・・・。」


 その巨体は頭から尻尾の先まで7、8kmといったところだろうか。百メートル程度の護封機が小さく感じられるほど巨大だった。


「しかしあの鈍重な動きなら勝機はあります。行きますよ。」


 アーデの言葉に頷き、俺は政府が用意したインストラクターと共にパラシュートで降下した。アーデは何も付けずに一人で飛び降りた。




「やっとついた・・・。って寒っ。」


 小波と笹本は大西洋を渡り、ノルウェーへ到着した。


「ちょっと肌寒いですねぇ。それでもノルウェーは他の国と違って温暖な方なんですよ。」

「これでですか?まだ夏ですよね?」


 そう言いながら眼下に広がる巨大な谷を見下ろす。

 1000メートルはあろうかという崖下に広がる川のようなそれは、対岸まで5kmはありそうな大きさだった。


「これがフィヨルドですか。学校で習いましたけど、こんなにおっきいなんて知らなかったです。」

「ここは多数のフィヨルドがあるノルウェーでも最大のフィヨルド、ソグネ・フィヨルドです。世界でも二番目の大きさなんですよ。」

「そうなんですか・・・。それで、怪獣の姿が見当たりませんけど?」


 フィヨルドの周りは静かなものだった。時おり吹く風が肌に冷たい。


「報告ではこの辺りのはずなんですが・・・。」


 と、笹本が辺りを見回した瞬間、物凄い轟音とともに大地が揺れ、対岸の崖の一部が崩落した。


「きゃああ!なに!?なんですか!?今の!」


 戸惑う小波に穏やかな声がかけられる。


「小波様、彼奴の眷属が姿を現したようです。」


 ダインは美しい所作で小波の視線を対岸に誘導する。


「なに。あれ。」


 それはフィヨルドの水面から飛び出した、巨大な蛇だった。その大きさは1km程はある。


「ちょ、ちょっと!蛇なんて聞いてない!私拒否!断固拒否!」

「ホッホッホ。小波様、姿はどうあろうと彼奴の眷属は眷属。小波様と私、アンダインがあれば造作も有りますまい。」


 そう言ってダインは小波の手を引き、崖の縁まで引っ張っていった。

 どうやら主を甘やかすタイプの執事ではないようだ。


「それでは参りましょう。」

「いいぃぃぃやああぁぁぁぁぁ!」


 そう言ってダインは小波を抱え上げ1000mの崖下へ飛び降りた。

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