第二十一話 真実
俺たちは取り敢えず街まで戻ることにした。
そこで一旦落ち着いて話をすることになる。なんせ今回は情報が多そうだ。
街へ向かう車の中、後ろに座った小波がじっと幼女を見続けていたのが気になった。
小波の奇行が気になった点を除いては、俺たちはこれと言った問題も無く街に辿り着いた。
適当なホテル(会話が漏れる恐れから、それなりの高級な所ではあるが)に一室を取り、話し合いの場が設けられた。
「さて、何処から話を聞きましょうか。」
「はい!その女の子は誰ですか!クーゴ君と一緒にいる女の人も。」
神田さんの言葉に小波が手を挙げる。クーゴの斜め後ろには、如何にも秘書といった格好の美人のお姉さんが立っていた。
「私から説明しましょう。」
幼女が小波の問いに答えた。
「私たちは護封機と呼ばれる封印システムの、防護機能を司る中央制御システムです。今までは貴方たちの言うところの『宇宙怪獣』に侵蝕され、機能を停めていました。そこを此方のヒロに救われたということです。」
「俺の方は?俺はなにもしていないと思うぞ?」
幼女の説明にクーゴが反応する。
「貴方の護封機、及び制御システムの侵蝕はこちらで解除しました。幸いにも、私が解除された際に侵蝕に対するアンチプログラムが作成できましたので。」
「それでか。いやあ、空中に放り出された後、護封機らしきものを見つけたんだけど、どうしたらいいのか分からんかったらいきなりシルフィさんが現れたからな。助かったよ。」
「シルフィさん?」
クーゴがサラッと知らない名前を挙げた。
「このお姉さんだよ。なんでも自分はシステムだから名前は無いっていうし。護封機のメインシステムだからな。俺の護封機『シルフィード』から一部取って、『シルフィ』さんって呼ぶことにしたんだ。」
名前が無いのか。そういや俺はなにも気にせず『幼女』と呼んでいたな。
それにしてもコイツはもう護封機に名前を付けてたのか。そんな時間は無かったと思うんだが。
新しい護封機の名前が出たところで蒼也の方を見る。
「風の精シルフの女性型か。いいんじゃないか?お前の見た目からは似合わんがな。」
蒼也がそのまま通した。なんか悔しい。
「しかし、いつの間に名前なんか付けてたんだ?考えている暇なんか無かっただろ?」
「起動したときにな。こうババーンっていう直感だ。」
「そうか。」
単純な脳細胞が羨ましいね。
そんなやり取りをしていると、俺の方を見ている幼女の視線に気付いた。
あー、直感直感。
「俺の護封機の制御システム、『アーデ』だ。」
そう言って俺は幼女を皆に紹介した。
無表情な幼女は、心なし嬉しそうに見えた。
「ねえねえ。」
またしても小波が何か言ってくる。
「私にもその制御システム?ってのいるの?」
小波は幼女、改めアーデに聞く。
「いますよ。貴方の後ろに。」
何処の怪談話だ!という風なセリフを聞いて小波が後ろを見た。アーデとシルフィ以外も全員釣られてそちらを見る。
「お初にお目にかかります。私、小波様のアンダインのシステムをしておりますものです。」
そこには初老の執事がいた。
白髪をきれいに纏め、背筋がピンとした細目の如何にも出来そうな執事が。
「うわーお・・・。」
小波が口を開けて固まった。
「あなたが私のアンダインの、その?システムさん?」
「如何にも。私が小波お嬢様の護封機、アンダインの制御システムであります。」
小波が驚きすぎて、さっき執事が自己紹介したことをもう一度聞いていた。
「あはは。そうかー。執事さんか。あ、でもお嬢様はやめてね。恥ずかしいし。うーんと、じゃああなたの名前は『ダイン』。『ダイン』でいいかな?」
「承知致しました。私の名前はダインです。小波様。」
小波は満足そうにした。『様』付けはいいのか。
「さて、少し話が逸れましたが続けましょうか。先ずは軽く話を聞きましたが、怪獣について教えてもらいましょうか。なんでもそちらのアーデさんは、高峰くんに対してこう言ったそうですね?『再生機を二体倒した』と。これはどういった意味でしょうか?」
神田さんが確認のために聞く。
鳥型の怪獣だと思っていたものは、実は再生機という味方だった。
ということは、倒した二体の再生機というのは。
「大地の再生機と陽炎の再生機のことですね。戦闘履歴を閲覧したところ、貴方たちの言葉でいう、富士山とキラウエア火山に眠っていたものです。」
アーデが答える。
やっぱりだ。あの二体は怪獣じゃなかったということになる。
するとなんだ?俺がしたことは同士討ちみたいなものなのか?そんな意味の無いことをして、学校を倒壊させて何人もの犠牲を出したって?
俺は一気に気分が悪くなってきた。
アーデが続ける。
「再生機というのは、封印に使われるエネルギーが減少した際に、その原因を取り除くために存在します。分かりやすく言うと、自然のエネルギーが減少したために、その原因となる文明を取り除こうと起動したということですね。」
なんだって?文明を取り除く?
「文明を取り除くとは?」
神田さんも俺と同じ所が気になったようだ。
「言葉の通りです。自然を脅かしている文明を破壊し、再び自然豊かな地に戻そうとするということです。」
「するとエネルギー供給の障害になる、我々人類の都市を破壊して回る、と。」
「簡単に言うとそうですね。」
再生機は都市を破壊して回る?それじゃ怪獣と変わらないんじゃ?
「俺たち人間が悪いってのか?それで街を破壊するって?冗談じゃねーぞ!」
クーゴが声を荒げるが。
「どのみちエネルギー供給が追い付かず、封印したものが解き放たれれば、この星の生命に未来はありません。それに人類を殺戮するとは言っていません。都市を破壊し、文明を後退させるだけです。」
「それでもっ!」
クーゴが止まりそうにない。
「一つ聞きたい事がある。」
蒼也が手を挙げ割って入ってきた。
「最初に俺たちの街に現れたのは再生機ってことでいいのか?」
「そうですね。大地の再生機です。」
「あの時、ヒロのアーディオンを前にして動きを止めて、その後無視をするように背を向けた。これは護封機と再生機が味方だからってことでいいだろう。俺の記憶が確かなら、アーディオンが現れる前、学校を前に足を止めたように見えたんだが。」
そうなのか?俺が地上に出たとき、怪獣が学校の前にいる、学校が危ないとしか思わなかった。あの時、再生機は止まっていたのか?
「ああ、大地の再生機のデータを確認しました。それは貴方たちがいたからです。」
「どういうことだ?」
「先程も言ったように、再生機の目的は人類の殲滅ではありません。文明を破壊した後、そこから人類を立て直す為には貴方たち、子供の存在が重要だったのですよ。」
「子供が大勢いたから助かったと?」
「有り体に言えばそうですね。」
蒼也が押し黙る。そして心配そうにこっちを見た。
そうだ。子供を襲わないと言うのなら俺のやったことはなんだったんだ。ただ正義ぶって再生機に戦いを挑み、無駄に学校を破壊し、本来失われなかった犠牲を出したってことなのか?
俺は全身が冷たくなっていく感覚がした。
「ヒロ!顔を上げろ!お前のやったことは間違っちゃいねぇ!俺がお前の立場でも同じ事をしたはずだ。それにお前がやらなきゃ、街が、俺たちの親が、その後は他の街が、大勢の犠牲と被害を出したはずだ!だからお前は間違っちゃいねぇ!堂々としてろ!」
「あ、ああ・・・。」
クーゴの言葉が有り難かった。
胸にモヤモヤは残ったままだが、これから俺にできることを精一杯やっていこうという気持ちになれた。
正直巻き込んだって気持ちもあるが、こいつらが一緒にいてよかった。
「では次にもう少し詳しい情報を聞かせてもらえますか?」
神田さんがそう言った時、いつの間にか部屋の端で電話をしていた笹本さんが叫んだ。
「神田さん!大変です!」
「どうしたんですか?」
「世界各地に・・・。同時に複数の怪獣が出現しました!」