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封印の惑星  作者: おきし
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第二話 怪獣

 火口から出てきた怪獣は街に向かって歩き出した。


「お、おい。あれってこっちに向かってきてないか?」

「向かってきているな・・・・。」

「ヤバくない?」

「・・・・」


 一拍置いて再び教室内が騒然とし始めた。

 しかし、先ほどまでと比べてそれほど混乱は広がっていない。

 事態を把握して逃げ出そうとする生徒は少数だ。

 殆どのの生徒たちは迫りくる危険に対して実感が無い。

 それはそうだ。だれが富士山が大噴火した後に巨大怪獣が現れるなんていう事態に、すぐに実感を持てるのか。

 それに距離だってまだある。いくら巨大だからといって、そんなにすぐにここまで来るわけではない。

 スマホまで構えて写真や動画を撮ろうとしたり、怪獣の物珍しさに見物する生徒が多かった。


「お前達!無事だったか!」


 教室に駆け込んできたのは、担任の津山先生だ。まだ若く二十代後半で生徒思いのいい先生だ。

 廊下は走らない、と常日頃から言っているが先生が走るのはどうなんだ、とは誰も突っ込まない。


「お前達、避難するにしても校庭は駄目だ。ああ、既に見ていると思うが校庭には大きな亀裂が入っている。体育館の地面の方にも亀裂が入って、体育館が半分飲まれている状態だ。お前達はこのまま教室で待機。それが一番安全だろう。」


 どうやら体育館も半壊しているようだ。

 だが、怪獣が迫っている中、このまま学校内にいても良いのだろうか。


「先生!富士山から怪獣が!こっちに向かってきているみたいなんですけど。」


 一人の女子生徒がこのままここにいていいのか質問を投げる。


「怪獣?何を言って・・・。」

「先生!ヒロが!ヒロが亀裂に落ちたの!どうしよう!?」


 先程からの怪獣騒ぎの中、一人、ヒロが落ちた穴を蒼白な顔で見つめていた女子生徒が声をあげた。


「亀裂に落ちた!?ヒロって、高峰か!?」

「そうだよ!早く助けなきゃ!」

「助けるって言っても俺たちじゃ無理だ。あんなに大きな亀裂、助けようと思っても出来ることが無い。」

「先生!」

「すぐにレスキュー隊や自衛隊が来るだろう。その時にちゃんと説明するから、お前達は危ないことはせずに教室にいるんだぞ。」


 そう言うと、先生は教室から小走りに出て行ってしまった。


「先生・・・怪獣・・・。」


 先生に怪獣の存在を教えようとしていた生徒はポソリと呟いた。



 怪獣は街の端まで来ていた。

 怪獣の足に倉庫だろうか、大きめのプレハブのような建物が触れるところだった。


「踏み潰される」


 誰もがそう思って見つめていると、倉庫は踏み潰される直前、一瞬で火に包まれ燃え上がった。


「なんだあれ!?」


 それを見ていた生徒が叫ぶ。


「周りの建物、どんどん燃えてるよ!?」


 怪獣の足に触れた建物は勿論、触れなかったが距離の近かった建物まで発火している。


「まさかあれ、あいつの体、溶岩みたいなものってことか?」


 怪獣の体は赤黒く溶岩のように発行している場所もある。その体がそれと同じ程の高温を放っていると考えれば、周りの建物が発火していく様子も納得が出来る。


「なにそれ!?めちゃくちゃやばいじゃん!」


 怪獣が街に入り、周りを燃やし尽くしながら向かってきている現状に、遂に生徒達に危機感が芽生え始める。


「!!ちょっと!嘘!あそこ、私の家がある辺り!」


 その瞬間、何かに引火したのか、怪獣の足元から連鎖的に爆発が起こった。


「嫌だ!お母さん!お母さん!」


 女子生徒は半狂乱になって叫びだした。


「落ち着け!こんな騒ぎになっているんだ。きっとどこかに避難している。」

「でも!あんなの相手に避難する場所なんてあるの!?」


 もっともだ。地震や津波などではない。巨大な怪獣なのだから。

 強固な建物や高台に避難したところでどうにかなるわけがない。


「家が・・・。」


 それでも家族が避難している可能性を考え、落ち着きを取り戻した女子生徒は自分の家がある区域を見つめながら呟いた。その視線の先では、黒い煙をあげながら家々が炎をあげている。

 その時、空を切り裂くような轟音が聞こえてきた。


「おい!あれ!自衛隊だ!」


 F15Jイーグル戦闘機の編隊が街の上を横切った。


「浜松から来たのかな。」

「いや、浜松のは確か教育部隊だったんじゃないか?方角からしてもあれは小松から上がった飛行隊だろう。」

「お前がなんでそんなことに詳しいのかあえて聞かないけど、これで助かったな。」

「いや、その考えはまだ早いんじゃないかと。」

 その言葉を裏付けるように、空自の戦闘機は怪獣から一定の距離を取りながら旋回を続けている。

「おい、なんで攻撃しないんだ。街がどんどん燃えていってるっていうのに!」

「おそらくまずは現状の確認のようなものだと思う。それにこの住宅密集地じゃ。」

「住宅密集地じゃ?」

「発砲の許可が出ないんじゃないか。」

「はぁ!?」


 怪獣の歩いてきた後には燃え崩れた街並みがあるが、それ以外はまだ無事な姿を保っている街がある。


「街があるからって、放っておいたらどうせ踏み潰されるか燃やされるかだぜ!?」

「ちょっと!あんたの家が街の反対側だからって何言ってんのよ!私の家はあの近くなんだから!」

「今無事だからって、放っておいたらどうせぶっ潰されるって話だろ!」

「そ、そうよ!というかこのままだと家とかより私達も危ないって!」


 生徒達から口々に攻撃しない自衛隊に対して不満などが爆発する。しかし、それをここで言い合っていても戦闘機の行動が変わる訳じゃない。


「おい!あれ!陸自じゃないか?」


 怪獣から少し離れた国道沿いに陸上自衛隊と思われる車列があった。その車列の前面に並んだ10式戦車の砲塔が怪獣に向かって旋回していた。

 次の瞬間、空に響く発砲音。10式の44口径120mm滑空砲が一斉に火を噴き、砲口から飛翔した徹甲弾が怪獣に吸い込まれていく。


「お、おい!撃ったぞ!?」

「それだけの非常事態ってことだろ。」


 戦車砲の集中砲火を浴び、爆炎に包まれる怪獣。が、しかし生徒の一人が言ってはいけない台詞を口にしてしまった。


「やったか!?」

「おまっ、それ言っちまったら絶対やってないパターンだろ!」

「え?え?」


 怒られた生徒は、なんで自分が怒られたのかわからない様子できょろきょろと周りを見渡す。


「ほらみろ・・・。」


 爆炎の煙の向こうから、無傷の怪獣が姿を現した。


「え?おれのせい?」

「ちげぇよ!俺も薄々そんな気はしていたよ!でも口にすんなよ!」

「お、おう。ごめん。」


 そんなやり取りをしている中、砲撃を受けた怪獣は動きを止めていた。


「あれ?もしかしてやっぱりやった?」


 次の瞬間、怪獣が一回転。轟音を撒き散らし、周囲の街並みを根こそぎ巻き込んで陸自の車列の端から半数以上が吹き飛んだ。

 尻尾。怪獣が回転を始めると、急激に伸びた尻尾が周囲をなぎ払ったのだ。


「おまェ・・・。」

「いや、その、まじごめん。」


 冗談のような会話をしている横で、先ほど家が近くにあると言っていた生徒は、顔面蒼白で呆然と目の前の光景を見ていた。


「なんだよあれ・・・自衛隊が。」

「うわっ!空自が!」


 叫び声につられて空を見ると、空自の戦闘機がありったけのミサイルを怪獣に向けて発射していた。


「おおすごい!いけいけ!どんどんやれ!」

「あれ一発6000万くらいするんだぜ。」

「oh・・・俺たちの血税が。」

「あんた、消費税くらいしか払ってないでしょ。」

「なんでこいつらこんな冷静なんだ・・・。」


 どうやらまだ危機感の無い生徒も多いらしい。


「見てみろ。あれが血税ミサイルの結果だ。」

「oh・・・・。」


 怪獣は健在だった。先程の陸自の攻撃を超える火力を叩き込んだように見えたが、怪獣の体表を見る限りダメージがあるとは思えない。

 そして陸自の時の様に怪獣は、伸縮する尻尾を空へ向けて振り回した。

 戦闘機は回避行動をとるが、尻尾が当たるまでの時間の差か、戦闘を飛んでいた一機を直撃、空中で爆散した。

 その後、残った空自の戦闘機はしばらく距離をとって旋回していたが、やがて視認できる範囲からは撤退していった。


「陸自は半壊、空自も撤退した。どうなるんだよ、これ。」



 怪獣は再び動きだし、そして遂に学校の目前まできて歩みを止めた。


「おぉ、これは死んだかな。」


 生徒達はその異形を間近で見、そして先程の自衛隊との戦闘を思い出し、逃げても無駄と諦める者、そもそも恐怖で動けなくなった者。色々な理由があるが、教室に留まっていた生徒達はただ目の前の怪獣を見つめるだけだった。


怪獣という脅威に対して、生徒たちが軽すぎるなぁと書いてて感じましたが、そこはそれ。竜巻とか噴火とかの災害を前にスマホを構える危機感の無い感じということで。

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