第十八話 制御システム
今回はクーゴ視点と、ヒロ視点からの話になります。
《クーゴ視点》
「おい!やべえぞ!」
「ヒロ!」
ヒロが気になり俺が振り返ると、ちょうどアーディオンが竜巻の怪獣から攻撃を受けていた。不意を突かれたのか、ヒロはガードが遅れ、アーディオンのコックピット辺りに直撃したように見えた。
そしてアーディオンの動きが止まり、ゆっくりとこちらへ倒れてきているように見えた。
「走れ!」
咄嗟に俺たちは走り出した。
アーディオンの全長は100メートルはある。あんなものが倒れてきたら無事じゃすまない。俺たちは必死に走った。
「あっ!」
そんな時、小波がお約束のように躓いた。
俺はその時何も考えていなかった。咄嗟に体が動き、自分でも信じられない力で小波を引き起こし、そのまま神田さんへ放った。その反動で今度は俺が地面を転がる。
「神田さん!小波をお願いします!」
「五代くん!」
神田さんはそう言いながらも足を止めない。多くが助かる方を選べる大人ってことだろう。
俺はアーディオンの方を振り向いた。
もう時間がない。立ち上がって神田さんたちの方に走るのは無理だ。
「こっちの方がまだ可能性がっ!」
アーディオンの倒れる方向に対して、途中から横向きに走ったが、今の位置関係なら反対側の方が近い。だけどそっちは崖になっていて、反射的に逃げるのに避けた方だった。
俺は迷わずそっちに飛ぶ。
直後凄まじい音ともにアーディオンが大地を打った。
衝撃と、舞い飛ぶ土や石から身を守りながら地面を転がる。
暫く頭を手で守り、うつ伏せの姿勢でいたが、ようやく土煙が晴れてきた。
頭を上げ、周りを見渡す。危なかった。もう少し押し流されていたら崖に落ちていた。そんな場所だった。
「五代くん!大丈夫ですか!?」
「クーゴ!」
アーディオンを挟んだ向こう側から、口々に俺を心配する声が飛ぶ。
「なんとか大丈夫です!ちょっと擦り傷とかありますけど、大きな怪我もありません!」
そう声を張り上げた時、足下から岩が擦れるような嫌な音が聞こえた。
その音は連鎖的に大きくなって、亀裂が走ったと思った瞬間、俺がいる崖の縁が地面から離れた。
「あ、これはやべえ・・・。」
そう思ったときは俺はもう空中に投げ出されていた。
落ちるとき空が見えた。
ヒロを攻撃した竜巻は、アーディオンを倒したと思ったのか、再び鳥の怪獣と戦っているのが見えた。
俺の意識はそこで一旦途切れた。
《ヒロ視点》
「ここは・・・。」
そこは何もない真っ暗な空間だった。
いや、何もなくはないな。目が暗闇に慣れ、よくよく目を凝らしてみると、辺りの闇に同化するように、赤黒い血管のようなものが脈打っている。
それが何かは分からないが、とても嫌な気持ちになるものだった。例えば、あの竜巻の怪獣を見たときのように。
ここはどこだろうか。
確かあの時、竜巻から急に伸びてきた触手に反応が遅れて、ものすごい衝撃があった。あの後から記憶がない。
「気を失ったのか?」
そう考えるのが自然だ。そうするとこれは夢だろうか。
確かに自分の体がそこにないような感覚がする。
「夢だとしてもここにいるのは嫌だな。」
周りから絡み付くような嫌悪感に顔をしかめる。
少しでもこの嫌な空間から離れたくて、周りに意識を集中してみた。
「ん?あっちになにかある?」
集中した意識の中に、何か暖かいようなものを感じた。
俺はこの嫌な空気がマシになるならと、意識を頼りに向かってみた。
向かってみると行っても、歩いて向かうわけではない。今、自分の体は浮いている。浮いている?ははっ、ますます夢だな。
そんなことを思いながら辿り着いた場所には。
「なんだ、これ?」
目の前にあるのは真っ黒な塊。そこに気持ちの悪いどす黒い血管のようなものが蠢いて、脈を打っている。
さっきまでとは比べ物にならない程の嫌悪感を放っている。
「な、なんでこれに引き寄せられたんだ?」
嫌悪感が薄れるような気がして、そこを頼りに来たはずなのに、あったものはよりいっそう禍々しい物だった。
それを見ているうちに何かに気づいた。
「?」
不思議な感じがして、次の瞬間には無意識に黒い塊に触れていた。
「く!?」
塊に触れた瞬間、身体中を虫が這ったような感覚が襲ってきた。
「なんだこれ!?やべぇ!なんで今俺はこれに触った!?」
見た目だけでも絶対に触りたく無いようなもの。それを無意識に触ったことに戸惑った。
だけどわかったこともあった。
これの中に何かある。
何かは分からないがとても重要なもの。そいつが俺をここに呼んだ。
もう一度、黒い塊を見る。
触った感じではとても柔らかかった。
「よし!」
ここでこうしていても何も進展しない気がする。わかっている。これは夢じゃない。ここは俺の意識の中か?
そう思って気合いを入れ、黒い塊に思いっきり手を突っ込んだ。
グニュリとした気持ち悪い感触とともに、腕が塊にめり込む。
「ああああああ!」
そして引き抜いた。
さっきとは比べ物にならない程の感覚が襲ってきた。頭の中を無数の虫が這い回っているような、気が狂いそうな感覚が。
「でも感触があった。」
腕を突っ込んだ先、指の先が何かに触れた。
柔らかさもあるけど、しっかりとした何か。
俺は呼吸を整えて、再度挑戦する。
「大丈夫。行ける行ける。さっきは触れたんだ今度こそ。」
自分に言い聞かせて、さっきよりも勢いをつけて腕を突っ込んだ。
深く、もっと深く。
「ぐにににに・・・!」
おぞましい感覚に、歯が折れそうな程に食い縛りながら腕を奥へと進ませる。
肩まで埋まりそうになったところで、さっき触れた感触があった。
「この野郎!」
気力を振り絞り、もう一段階腕を押し込みそれを掴んだ。
「ぬああああああ!」
そして一気に引き抜いた。
危ないところだった。もう少しで精神が蝕まれていたのではと、心臓が早鐘のように警鐘を鳴らしている。
「はあはあ・・・。」
俺は暫くその場でのたうち、苦痛に耐えていた。そしてようやくそれも収まり、さっき引き抜いたものに目をやる。
「なんだ、これ。」
それは人だった。
金色の長い髪をした少女。いや、年の頃は5~7歳くらいか?見た目から歳がわかりづらい、不思議な雰囲気をした幼女だった。
それが目の前で横たわっている。胸が動いていない。息をしていない。
「お、おい!?しっかりしろ。」
俺は慌てて幼女を揺さぶった。
こういうときは揺さぶったりしたら駄目なんだったっけ?それは頭を打ったときだっけ?そんなことを考えてる余裕がなかった。
なんせ目の前に幼女が倒れていて、息をしていないのだから。
すると突然幼女の目がカッと開いた。
驚いた俺の手も止まる。
幼女はジーっとこちらを見ていた。
「お、おい。大丈夫なのか?」
俺の問い掛けには答えず、幼女はジッっと俺を見続けている。
暫くそうしていたら幼女が口を開いた。
「現在の状況の把握を完了しました。言語解析完了しました。この封印球は今は地球と呼ばれているんですね。そしてあなたは人間という知的生命体。大地の護封機に認められた存在ですね。」
そんなことをスラスラと話し出した。
「え?え?封印球?人間って俺は人間だけど・・・。護封機を知ってる?なんなんだお前は。」
そんな俺の問いに、今度はすぐに答えが返ってきた。
「私は大地の護封機の制御・管制を司るシステムです。なので護封機を知っていても不思議なことではありません。封印球というのは、現在貴方たちが『地球』と呼んでいるものの名称です。」
「制御システム?どう見ても人間に見えるけど。」
「それは護封機に認められたものが現れたとき、そのものと同じ種族の形を取るように設定されていたからです。」
それで幼女の姿なのか。って、人間の姿ってのはわかったけどなんで幼女なんだ。
「それよりも早く目を覚ましてください。護封機との深い意識のリンクは、貴方たち人間には負担が大きいはずです。それに今近くにアレがいるでしょう。私が起動したので、大地の護封機もようやく起動出来る筈です。」
「え?今までも何回か使ってるけど。」
「私がいない護封機が、本当の意味での護封機の筈無いじゃないですか。ほら、早く起きてください。」
俺と会話しているうちに、だんだんと言葉遣いに人間味が出てきた幼女に、俺の質問も軽くあしらわれ叩き起こされるのであった。
予定に無かった幼女を出してしまった。
さあこれからどうしよう?