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封印の惑星  作者: おきし
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第十七話 鳥と竜巻

 俺たちは今、機上の人である。

 今回山本はお留守番らしい。せっかくここまで接触していないのに、一緒のタイミングで出国したら怪しすぎるからだろう。ものすごく行きたがっていたと、笹本さんは言っていた。子供か。

 メンバーは山本を除いた全員、山田はいない。

 笹本『先生』の引率でいく、世界の遺跡見学旅行という体だ。無理がないか?

 予定ではメキシコ経由でペルーに入る。ここまでは特に何も起きていない。飛行機が初めてのクーゴがやたらはしゃいで、笹本『先生』にやんわり叱られていたくらいだ。恥ずかしい。

 ここまで何も起きてはいない、というフラグを立てながら俺たちは無事ペルーへと辿り着いた。フラグを立てたからといって、飛行機に乗っているときに問題は起きてほしくない。


 事前に予約しておいた車に乗り、神田さん(クーゴに付いている人)の運転で陸路クスコを目指す。

 クスコを目前としたところで、俺たちの車は停められた。

 そりゃそうだ。怪獣かもしれないモノに破壊された街に、そう簡単に入れるわけがない。まして、今回の怪獣は秘匿されている。そう考えると日本の情報収集能力はなかなか凄いのかもしれない。まあ、アメリカや他の国も情報を掴んでいそうだが。


 神田さんが車を降り、道を塞いでいる軍の人と何やら話している。

 途中、軍の人が部下に指示を出し、何処かへ走っていった。そして暫くして戻ってくる。そんなやり取りの後、神田さんは車に戻ってきた。


「許可が下りました、行きましょう。」


 どうやら許可されたらしい。一体何があったんだ。


「なんで許可が降りたって顔ですね。国と国の高度なやり取りってやつですよ。これ以上は言えません。」


 そう涼しい顔をして言う神田さんは、車を発進させた。



「ここが・・・クスコ。」


 世界有数の観光地、マチュ・ピチュに向かう拠点の街。かつてのインカ帝国の首都だった街だ。

 通常であれば賑わっていたであろうその街は、無惨にも半壊していた。


「竜巻が通った後ってテレビで見たことはあるけど、実際に見ると・・・すごいね。」

「で、怪獣かもしれないってなんでそう思ったんですか?」

「それはですね。竜巻は通常、地上で発生した渦が空へ向かって延びていき、空に向かって消えていきます。今回の竜巻は空に突然現れ街を横切った後、そのまま空に消えたそうです。おかしいでしょう?」

「それだけですか?」

「怪獣が現れるときは自然災害を誘発しています。それだけの理由でも、これは怪獣かもしれないと疑問を持つのですよ。」


 神田さんの説明では、怪獣らしい本体を直接見たわけではないみたいだ。


「街に入って調査します。瓦礫が散乱していて危ないので注意するように。」


 そう言って神田さんを先頭に俺たちは街に入った。


 街の様子は入る前に見ていた通り、酷いものだった。


「それで、怪獣らしい痕跡とかって判るんですかね?」

「そうですね。パッと見る限りでは、普通の竜巻の被害のように見えますね。怪獣でなければそれはそれで構わないのですよ。」

「そうなんですか?」

「そりゃあそうでしょう。あんなもの、出ないに越した事はありません。元々は護封機の調査に来る予定だと言うことをお忘れですか?」


 そういえばそうだった。光点が二つあった場所。そういうことで調査に来たんだった。


「うーん。あまりここで得られるような物はなさそうですね。マチュ・ピチュの方へ行ってみますか。」

「やった!遂にマチュ・ピチュ!」


 神田さんの提案に小さくガッツポーズした笹本さん。小声だったが聞こえている。


 そうして、俺たちはまた車に戻り、マチュ・ピチュへ向かおうとしていた。

 その時、地鳴りのような音が遠くで聞こえたような気がした。


「神田さん、今のは。」

「高峰君にも聞こえましたか。笹本くん、情報を。私たちはこのままマチュ・ピチュへ向かいます。」


 地鳴りが気になったが、情報も無いので留まっていても仕方がない。俺たちは予定通りマチュ・ピチュへ向かうことにした。



「これはすごいな。」

「流石世界有数の観光地だな。一日ここにいても飽きない眺めだ。」


 俺たちの眼下には世界遺産マチュ・ピチュがある。

 その歴史を感じさせる眺めは圧巻だった。


「未だ謎の多い遺跡ですからね。何かあるとしたらここしかありませんね。」

「そういえば、ペルーには他にも謎がありますね。有名なナスカの・・・。」

「神田さん!」


 蒼也の言葉を遮って、先程までどこかに連絡を取っていた笹本さんが声をあげた。


「ナスカの地上絵が!ハチドリの絵が!」

「どうしたんですか笹本くん。情報ははっきりと。」

「浮上したそうです!」


 そう笹本さんが叫ぶと、神田さんはナスカの地上絵の方へ顔を向ける。俺たちも釣られてそっちを見た。


「なんだ?あれ?」


 遠くの空に何か巨大なものが飛んでいる。


「鳥?」


 目のいいクーゴがそう呟いた。


「あんなデカい鳥がいるかよ!」

「いえ、ハチドリの絵は100メートル近くあります。それが浮上したとすると、あれくらいの大きさではないでしょうか。」

「マジかよ・・・。なあ、あれ、こっちへ近づいてきてないか?」


 クーゴが言うように、巨大な影はこっちへ近づいてきているように思う。現に黒い点のようだった影は、今では俺たちにもハッキリと鳥の形に見える。


「高峰君!護封機をいつでも呼び出せるようにしておいてください!」


 そう神田さんが叫ぶと同時に、辺りの空気が一変し、今度は俺たちのすぐ近くの空に、突如として巨大な竜巻が現れた。


「高峰君!」

「分かってます!アーディオン!!」


 俺は素早くアーディオンを呼び出した。

 地表を割ってアーディオンが現れる。俺はすぐに乗り込むと、皆を守る位置に立った。


「怪獣が二体なんて聞いてませんよ!」

「こちら側も情報不足です。確かなことなんて何もわかりません!」


 そうこうしていると、遠くだった鳥の怪獣がすぐ近くまで来ていた。

 俺は腕を上げ、ガードする体制を取る。後ろに倒れるわけにはいかない。

 そう身構えていると、巨大な鳥はアーディオンの頭上を掠めて通りすぎた。


「えっ!?」


 てっきり何かしらの攻撃があると思っていたのに、肩透かしを食らってしまった。

 そうして後ろを振り返ると、鳥の怪獣は竜巻の中に突っ込んでいくところだった。


「なんだ?」


 どうなっているんだ。

 俺はそう思いつつ、事のなり行きを見ているしか出来ない。

 竜巻の中で何度かスパークのようなものが走った後、反対側から鳥の怪獣が飛び出してきた。

 よく見ると鳥の体表が少し傷付いている。黒い鉱石のような鳥だった。

 対する竜巻の方も、少し勢いが落ちているようだ。そのお陰で正体が見えた。

 竜巻の真ん中に浮いている巨大な目のようなもの。その周辺を巨大な触手のようなものが何本も渦を巻いて回っていた。


 これはダメだ。

 本能的に直感した。今まで怪獣と二度戦っているけど、この竜巻の化け物を見た瞬間、全身が泡立った。今までの怪獣とは訳が違う。人類の、いや生命体の敵という思いが頭の中を占めた。


「これが・・・怪獣・・・。」


 俺は初めて怪獣を見たかのようにそう呟いていた。


「神田さん!こいつはダメだ!皆を守りながら戦えるような奴じゃない!」


 俺がそう叫ぶ前に、神田さんたちは小波たちを連れて待避を始めていた。


「わかっています!私たちも感じました!しかしだからこそ、あれを放置する訳にはいきません!無理をしない程度になんとかなりませんか!」


 どうやら神田さんたちにも、あれのヤバさが伝わっているようだ。しかし無茶苦茶な注文をつけられた。


「小波たちを危険な目に遭わせる訳にはいきませんから!なんとかやってみます!」


 そう言って、竜巻の方に向き合った。

 そうは言ったもののどうするべきか。

 竜巻の怪獣は勢いを取り戻し、目は見えなくなっている。しかし、さっき見えていた位置からすると、アーディオンの攻撃では届きそうにない。

 俺が考えている最中にも、何度も鳥の怪獣が竜巻に攻撃を仕掛けていた。


「え?」


 竜巻がこっちへ動いている。


「まさか!こっちを敵として認識したのか!」


 もう少し鳥とやり合っていろよ、と舌打ちをするが、そんなことを考えていても仕方がないので先頭の体制を取る。

 その瞬間、竜巻から触手が伸びた。


 竜巻から突然飛び出した高速の触手に反応が遅れる。

 そのわずかな遅れが致命傷だった。

 太さ数十メートルはある触手が、アーディオンのコックピット付近に直撃した。


「があああああああ!」


 アーディオンのコックピットの防護機能など無いかのような衝撃に襲われ、操縦桿から手が離れる。そのままアーディオンが後ろへ傾いた。


「しまった・・・。」


 体に力が入らない。立て直せない。


「くそっ・・・。」


 俺の意識が消えるのと同時に、アーディオンは逃げ始めていた皆を巻き込んで大地を震わせた。

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