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封印の惑星  作者: おきし
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第十五話 仮設学校

 今後のことについて、演習場の一角にある建物で話し合っていると、外が少し騒がしくなってきた。


「なんですかね?」

「ちょっと見てきます。」


 そう言って立ち上がった笹本さん(小波の監視)は部屋から出て行った。

 俺達は話を中断して暫く待つ。一応機密情報を話し合っているため、何が起こったのか確認が取れるまではストップだ。

 10分ほどそうしていると笹本さんが戻ってきた。


「山本さん、少し不味いことになりました。」

「なんです?」

「それが・・・。」


 笹本さんが言うには、今この演習場に米軍が来ているらしい。


「米軍ですか?そんな話は聞いていませんが。」

「そうなんですよ。外交ルートでそんな話は来ていません。それを相手方に問い質してみたのですが・・・。」


 どうやらハワイに怪獣が出たことで、最初に出現したこの富士山の調査に来たらしい。

 急なことで政府間の連絡は今現在進行形らしい。


 暫く事の成り行きを見守っていると、政府の方から連絡が来たようで米軍の車列が演習場に入ってきた。

 ここを拠点に調査をするようだ。


「それにしても、富士山の怪獣の出現からはそれなりに経っていますよ?なんで今なんですかね?」

「キラウエア火山の怪獣の件も本音でしょうが、少し不味いかもしれませんね。」

「どういうことです?」

「ハワイに行ったとき、米軍が退いたのを見計らって帰ってきたでしょう?注意はしていましたが、監視がいたのかもしれません。」

「監視ですか?それってすごく不味くありません?」

「ええ、不味いですね。まだ表だってこちらに接触しようとしているわけではないので、確かなことは言えませんが。とりあえず暫くは動かないことにしましょう。君たちはその間、学校に行ってるといいですよ。あまり長く休んでいても対外的に怪しいでしょうし。」

「学校!?やってるんですか?こんな時に。」


 学校は最初の戦闘で半壊していた。体育館は全壊だ。

 校庭にもアーディオンがあったため、避難所にも使われていない。


「なんでも、学校側が大急ぎで仮設の校舎を建てたらしいですね。教育熱心な学校ですねえ。」

「うげぇ、こんな時にどこに力入れてんだよ。あの学校。」


 クーゴが愚痴っているが、もっともだ。何もこんな時に再開しなくても。


 斯くして俺たちは、学校への通学を再開することになった。




 翌日、俺たちはなんとなく五人で集まって、学校があるらしい場所へ向かっていた。

 何でも何かの建設予定地らしい。

 学校らしき建物が見えてきたところでクーゴが。


「おいおい。あれが仮設の学校?バカなのか?うちの学校は。」


 クーゴの言うこともわかる。

 そこにあったのは三階建てで巨大な、正しく学校と呼べる建物だった。整備はされていないが、グラウンドらしき場所もある。仮設とは一体。


「あれからまだ数日ですよ。どうなっているんですかね。ウチの学校は。」


 蒼也ですら意味不明な建物らしい。


「とりあえず行きましょう。」


 委員長がすたすたと一人で行ってしまうので、俺たちも後を追いかけた。


 ここまでの道程で大体察しはついていたが、学校に入ると生徒はまばらだった。

 あの怪獣との戦闘で心に傷を負った者、実際に体に傷を負ったもの、そして亡くなった者。そういう生徒たちを除けば、これくらいの人数だということだろう。


「なぁ、これ。俺たち別に登校してなくても、別に怪しくないんじゃないか?」


 クーゴがそんなことを言うが、護封機の調査は一旦保留になっているので、学校にでも来ないと暇だ。

 それに、監視が付いているとはいえ、意味の無い外出は控えるように言われている。


「バカなこと言ってないで行くぞ。」

「しかし、外もそうだが中も、これは・・・。」


 蒼也が驚くのも無理はない。

 中も学校として問題なく使えるような造りになっている。昇降口から生徒分の下駄箱を置くスペースまである。見た感じでは教室などの配置も、元の学校に近い。仮設とは一体。


「どうなってんだ?これ。」

「さあな。っと、ここでいいのかな。」


 俺たちは学校内をキョロキョロと見回しながら、教室の前に着いた。ドアの上に付いているプレートからしてここだろう。

 教室に入ると、見馴れた生徒たちが思い思いに談笑している。その目が一斉にこっちを向いた。


「おお!ヒロじゃないか!あの後どうなったんだ?何かされたのか?」


 クラスメイトの一人が聞いてくる。

 あの後、こっちにも戻ってきているし、クーゴたちはハワイには行っていないが、俺たちが政府の人間に連れていかれた後のことは知らないようだ。


「ああー・・・。秘密、で?」


 この学校の生徒は、特にクラスメイトたちは、俺が護封機に乗っていたことを知っている。しかし、その後決まったことや、小波も護封機を手に入れた事は知らないだろう。秘密にしておく方がいいだろう。


「秘密かー。あ、あれはどうしたんだ?ハワイの怪獣!ニュースで見たけど、この前お前が乗ってたやつも映ってたぞ。お前ハワイ行ってた?」

「え?」


 山本から聞いていないし、帰ってきてからテレビも見ていなかったので知らなかった。アーディオン、テレビ写ってたの?マジで?

 そう思ってクーゴたちに視線を送ると、小波を除く三人が頷いていた。マジかよ!

 まぁ、よくよく考えてみれば、怪獣なんてものが現れて、更にあんな巨大なロボットまで出てきて完全に秘匿するなんて無理だよな。

 何km先から見えてんだよ、って話だ。


「ま、まあその辺も秘密だ・・・。」


 とりあえず秘密ということにしておこう。

 そんな話をしていると、教室のドアが開き先生が入ってきた。

 あれ?


「皆さん、席についてくださーい。」


 周りの生徒たちは見馴れない女性にざわざわしつつ席につく。


「津山先生は先の事件の際に怪我を負われたので、しばらくは私がこのクラスを受け持つことになりました、笹本美和です。皆さんよろしくお願いします。キラッ。」


 ・・・なんだこれ?

 何故、笹本さんがここにいる。担任?それよりもなんだあのキャラ。

 俺は小波の方に目を向けるが、小波も口を半開きにして固まっている。どうやら小波も知らなかったみたいだ。とりあえず口を閉じろ。


「えー、先ず先日の件もあるので、校庭で全校集会があります。今後のことについての話なんかもあるらしいです。それでは早速ですが校庭に移動しましょう!押さない駆けない喋らない!お・か・し、ですよ!」


 俺たちは小学生か。

 謎テンションの笹本さんの号令で、俺たちは校庭に移動し始めた。


「なあなあヒロ。あの先生かわいくない?」

「え?ああ、まあそうだな。」

「なんだよヒロ。興味なさそうだな。ああ、お前には海原がいるもんな。」

「何でそこに小波が出てくるんだ。」

「はいはい。」


 俺たちのくだらない話は、笹本さんに聞こえていたはずだ。しかし笹本さんは何も言わない。おかしはどうした。

 言いたかっただけですか、そうですか。


 校庭に出て、暫くすると校長が壇上に上がった。どうやらこれで全クラス揃ったみたいだな。

 見た感じ、生徒数は6割といったところだろうか。

 やはり崩壊した辺りのクラスの生徒が極端に少ない。


「皆さん、お早う御座います。こんな事態が起きた中、これだけの生徒の皆さんが元気に顔を見せてくれて嬉しく思います。さて・・・。」


 校長の話が始まった。

 今回の事態について生徒たちを気遣うような言葉、理事長の尽力で早期に学校が再開することになった事、また学校にカウンセリングの場を設けること、そのような話が続いた。

 校長の話が終わり、教室に戻った俺たちは暫く休憩時間となった。


「俺たちのクラスでもやっぱ来てない奴もいるな。」


 クーゴが言う。

 確かに被害のなかった俺たちのクラスでも何人かいない。


「来てないやつはあれだ。怪獣の進路に家があったんだよ。それで住めなくなったから、親戚の家とかに避難してる。」


 学校内の噂が好きな、情報通のクラスメイトが教えてくれた。


「南無子もいないな。あいつの家はあっちじゃないだろ?」


 クーゴの言う「南無子」とは、小学校から一緒だった女子だ。家が寺ということもあり、小学生の頃から「南無子」とあだ名がついた。中学生になる頃には思春期ということもあり、本人があだ名と家への反発から髪を茶髪にし、行動や見た目が派手になった。誰とでも仲の良い小波だが、何故か南無子とは反りが合わなかったな。


「南無子はなぁ。」


 情報通の男子は目を逸らして言いづらそうにする。


「なんだ?」

「あー、彼氏がいたんだよ。あの潰れた教室に。それであの時は大分取り乱してて、やっぱ今日は来てないんだな。」

「そうか・・・。」

「暗い顔してんなよ。俺たちはお前のせいだとか、思ってないからな。」

「ああ、ありがとう。」


 それでもやはり、学校に来るとあの時の事が思い出されてしまう。

 俺たちはこれから何をするべきなのか。山本の言うことを聞いていれば正解なのか。

 今はただ、談笑するクラスメイトたちの笑顔を守れたって思うことで、自分の心を落ち着かせることで精一杯だ。

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