第十四話 検証
「これからどうします?」
俺は山本に問い掛けた。
「そうですね。では、護封機の呼び出しが出来るか検証しましょうか。」
「護封機のですか?どこでやるんです?」
「ちょっと待っていてください。」
そう言って場を離れた山本は、懐から携帯電話を取り出しどこかに電話し始めた。
「それにしても、やっぱりあの点は護封機だったんだな。」
「まだわかんないぞ。怪獣も出たから怪獣かもしれない。」
クーゴが興奮したように言う。
「いやいや、護封機・再生機って項目だっただろ?怪獣じゃないだろ。」
「まぁ、確かにな。そういえばキラウエア火山って点が二つあったんだよな。」
「え?そうだったか?」
そう。キラウエア火山の光点は2つあった。
「一つは小波がゲットしただろ?もう一つあるってことか?」
「わからん。この後護封機が呼び出せたら、それも調べようって山本さんに言っておこう。」
「それは興味深いですね。是非調べましょう。」
背後から声を掛けられたので振り向くと、いつの間にか山本が電話を終え戻ってきていた。
「電話、終わったんですね。それでどこでやるんです?」
検証する場所について電話していたんだろうと、俺は山本に聞いてみた。
問い掛けられた山本はいい笑顔で。
「それはね。富士演習場だよ。」
俺達は富士演習場のだだっ広い広場に立っていた。
周りに自衛隊員の姿は見えない。どうやら人払いがされているようだ。そのうえ、演習場を囲うように目隠しがされている。護封機の大きさに合わせているようで、かなり巨大な物だが、よくこの短時間でこんなものを用意したもんだ。すごいな自衛隊。
しかし富士演習場な訳で、富士山の登山客から丸見えじゃないかと思ったら、先日の噴火で登山道は閉鎖されていて、富士山には誰もいないそうだ。
そりゃそうか。
因みに一応、この演習場の偉い人っぽいのが何人か付き添っている。
「で、どうするんです?護封機、持ってきてないですよ?」
「何を言っているんですか?高峰くん。それを今から呼び出すんでしょう?」
「あぁ、それも検証するって言ってましたね。でも、もし来なかったらどうするんですか?こんな所まで来て。」
「その時はその時。来なかった時のことより来たときの事を考えたら、この辺りで丁度いいのはここしかなかったんだよ。」
「じゃあ、やってみます。」
そう言って俺はみんなから離れる。
見れば小波も俺と距離をとるように前に出ていた。
「よしっ。」
俺は深呼吸をすると右腕を高々と挙げ、そして指パッチンした!
「来おおぉぉい!アァァァァディオォォォン!」
やってしまった。
腕を挙げ指パッチンしたポーズのまま、フリーズした。
いや、だって一回やってみたかったんだよコレ。
俺が赤いハチマキの武道家のようなポーズに内心悶絶していると、突然地鳴りが響いてきた。
間を置かず、広場に亀裂が走り、そしてアーディオンの頭が出てきた。
「おおっ!」
俺は思わずテンションが上がる。
恥ずかしかったが、例のポーズでロボットを呼び出したぜ!俺!
コレでなんかドングリみたいなカプセルに入っていたら完璧だった。
そんなことを考えていると、アーディオンの全身は既に地上に出ており、アーディオンが出てきた亀裂はキレイに塞がっていた。一体どういう原理なのか。
まあ、地球自体が封印装置で、アーディオンはその一部なんだから不思議ではないのか?
「おお!成功しましたね!素晴らしいです!」
山本がはしゃいだ様子でこっちに寄ってきた。
「そうですね。良かったです。」
俺はそれだけ言うと小波の方に目を向ける。
小波は首を傾げたりしている。そしてこっちをじっと見てきた。
と思ったら、今度は顔を真っ赤にし始めた。そして。
「こ、こーい!アンダイーン!」
と、叫びながら右腕を控えめに挙げて指パッチン。しかし音は鳴らず、小波の指からパスッっという悲しい音が聞こえた。
そして沈黙。
暫く腕を挙げたまま固まっていた小波が再起動した。
こっちを泣きそうな顔を真っ赤にして見ている。
そして小走りでこっちに来た。
「な、なんで?なんでヒロのは出てきたのに、私は出てこないの!?」
「さ、さぁ?」
「指がちゃんと鳴らなかったからかな!?やっぱりヒロは一回呼び出してるもんね!コツがあるんでしょ!?もう一回やって!呼び出しのポーズ!」
なんか小波が泣きそうな顔のまま捲し立ててきた。いや、よく見ればちょっと泣いてる。
出てこなかったのが悲しいのか、あのポーズが恥ずかしかったのか。多分、両方だ。
俺も恥ずかしかった。もうやらない。一回やってみたかっただけだ。で一回やった、もうやらない。
「いや、別にポーズは要らないんじゃないか?小波がアンダインを還したとき、ポーズどころかはっきり帰れとも言ってないだろ?」
「ううーん、そういえばそうだね。じゃあなんで私だけ出てこないんだろ。」
「うーん・・・。水が無いから?」
「えっ!?」
小波はビックリしてまたもフリーズした。
でも多分そういうことのような気がする。だってあの時、小波の護封機は海の中に帰っていったし。
「自然の水場があれば出てこれるんでしょうか。流石にプールとかから出てくるとは思えませんし。」
山本が俺の意見に乗っかってきた。
「それで、ここって池とか湖とかあるんですか?」
「いやぁ、流石にあれだけ大きなものが出てくるだけのものはないですよ。あ、そうですね。なら後で山中湖にでも行って試してみるのはどうでしょう。」
「山中湖?そんなとこ、人が一杯いるでしょう?」
そう思ったが、噴火の影響でここら一帯は未だ避難中らしい。
じゃあ、あの目隠しはなんなんだ、と。
まぁ、念には念をってことかな。
「ちょ、ちょっと?」
「あ、小波。起きたのか。」
「寝てないし!?で、ホントに私の護封機、水がないと出てこれないの?」
「さあ?まあ実際出てこなかったし、後で山中湖で試してみたらいいだろ。」
「そんなぁ・・・。」
小波はガックリと肩を落としたが、こればっかりは仕方がない。
「それでは、高峰くんの護封機を使って続きの検証をしましょうか。」
「そうですね。」
俺達は項垂れる小波を置いて、アーディオンのコックピットブロックに近づいた。それを見てクーゴ等もこっちへ来た。
「なあ、小波はどうしたんだ?」
クーゴが小波の様子を見て聞いてきたので、さっき話してた事を教えてやった。
「なるほど。それは有り得るかもしれないな。」
「さっきの・・・。羨ましい・・・。」
話を聞いて、蒼也はそう分析していた。
そして委員長が何か言っている。なにか羨ましがるようなことしたっけ?
「では次は光点についてでしたね。」
「そうですね。」
そう言って俺はアーディオンのディスプレイを操作して、例の画面を表示させる。
「ハワイは2つの光点があったんですよね?」
「はい、ここに、あれ?」
ハワイにあった光点が一つ、黄色に変わっている。それだけだった。
「一つしかありませんね?」
「そうですね?もう一つはどこに行ったんですかね。」
「やっぱり怪獣も示してるんじゃないのか?」
「富士山の時はどうだったのか、気になりますね。」
「さすがにちょっと、怪獣を倒す前がどうだったかはわかりませんね。」
赤い光点が二つあったハワイは、護封機を起動して怪獣を倒したら黄色の光点一つに変わっていた。
俺たちはしばらく考えていたが、判断材料が少ないので一旦検証は保留にした。
この先、俺達はどうするのか。
演習場にある建物で、その話し合いをすることになった。