第十二話 発進、大海の護封機
「あわわわ、間違っちゃった。」
小波は慌てて外部スピーカー(音量最大)をオフにする。そして通信機能をオンにした。
そうすると、ディスプレイの端にヒロの姿が映った。
「ヒロ~!良かった無事だったんだ。」
『「無事だったんだ」じゃない!お前の方こそ大丈夫だったのか?それはなんなんだ?山本さんは?』
「ちゃんと僕もいますよ。それよりどうして高峰くんの護封機がここにあるんですか?」
『それはわからないけど、海に墜ちて、小波を助けないとって思ったら突然現れた。』
「そこは『小波たち』とかいう風に言って欲しかったですが、興味深いですね。これは検証しないと。」
『それはいいけど、まず怪獣を倒さないと。街に向かっている。』
「怪獣?」
小波たちは、ここで初めて怪獣の存在に気付いた。
いや、この間もずっとヒロを攻撃していたのだが、小波がディスプレイ(の中のヒロ)しか見ていなかった為、気付いてい無かった。
「ヒロは戦ってたんだね。」
『ああ。攻撃自体は護封機の装甲を通らないみたいなんだけど、こっちの攻撃も通らない。』
「どういうこと?」
『動きが素早くて当たらないのもそうだけど、当たってもすり抜ける。』
「え!?何それ?意味がわかんないんだけど。」
『で、小波のそれは護封機でいいのか?』
「そうみたいだね。『大海の護封機』っていうらしいよ。」
『怪獣の攻撃は大したことないから手伝って欲しいんだけど、いけそうか?』
「私も!?うん、やれると思う。そっか。ヒロと一緒に戦う・・・初めての共同作業だね!」
『それじゃ、怪獣が街の方に行かないようにフォローしてくれ。』
「あ、うん。」
小波がほんのり頬を染めながら放った言葉はスルーされた。
「よーし!やるぞぉ!」
小波は気合いを入れると、陸地に一歩踏み出した。
ズズゥゥン、ズズゥゥン。
短い足が動く度に、超重量によって大地が揺れる。
「おっそ!?」
小波の護封機は、陸に上がった河童のように鈍重な動きをしていた。流石、大海の護封機。陸では力が発揮できないようだ。
『小波は無理せず敵を牽制してくれればいい。なんとか倒す方法を考える。』
「うん・・・。」
せっかくやる気を出していたのに、肩透かしを食らって小波は肩を落とした。
今、目の前ではヒロが怪獣と戦っている。
戦っていると言っても、怪獣の攻撃が後ろに行かないように敢えて当たりながら、攻撃するだけ。その攻撃も全く効いている様子がない。
ヒロと同じところに立てた。嬉しかった。ヒロの役に立って、もっとヒロに近づくんだって意気込んだ。
でも結果は今のこれ。私の護封機は陸では亀のようだった。
ヒロの後ろに立ち、ヒロをすり抜けて街へ行かないようにするだけの予備。
それもヒロが頑張っているから出番がない。
今はちょっと涙目だ。通信のモニターは切ったから、ヒロからは見えていないだろう。
手持ち無沙汰の私は、目の前のディスプレイを弄くっている。
何かヒロの役に立てるようなものはないだろうか。
そう思って弄くっていると、ふと護封機の内蔵武器の項目に目が止まる。
「あ、これ・・・。」
『小波!行ったぞ!』
小波が何かに気付いた時、ヒロの声が上がった。
「えっ!?」
小波が目線を上げると、怪獣が目の前まで突進してくるところだった。
「うわっ!」
小波は咄嗟に腕を上げ、ガードの体勢をとる。
因みにガードの体勢になったのは、小波であって護封機ではない。小波の護封機は棒立ちだ。
「あっ、ばか!」
ヒロの声と同時に怪獣が小波の護封機に激突する。
ヒロはそれでも大した問題はないと思っていたが。
「きゃああっ!」
小波の護封機は怪獣の突進を受け、大きく後退すると、そのままバランスを崩し後ろに倒れこんだ。
「いたた。」
『大丈夫か!?小波!』
巨大な護封機が転倒したわりに、コックピット内部はそう揺れていない。何か特殊な防護システムのようなものが働いているのかもしれない。
小波の護封機を弾き飛ばした怪獣は、一度後退し様子を伺っている。
敵に対して初めて攻撃が通った事に、何か考えているのかもしれない。
「だ、大丈夫。私は大丈夫なんだけど、モニターの護封機の絵?それがなんか黄色くなってる所があるんだけど。」
『えっ!?』
「うーん、でも大丈夫っぽいよ?」
『ダメージが入ったってことか?俺の護封機は、何発食らってもダメージなんか入らなかったのに。』
「私がただ立ってただけで、防御とかしなかったのが悪かったのかな。」
『それもあるだろうけど、護封機毎に特性が異なる、とかか?』
「あー、特性かぁ。この子は水の中が得意っぽいもんね。」
『取り敢えずまだ怪獣がいる。考えるのはあとにして、立てるか?』
「うん。」
小波は護封機を立ち上がらせると、ヒロにさっき見つけたものを教える。
「そういえばさっきね、何か出来ないかと思って色々見てたんだけど、この子にも武器みたいなのがあるみたいなの。」
『こいつのバトルアームみたいなやつか?』
「うーんとね、なんか飛び道具みたい。」
『使えそうか?』
「やってみるよ。」
そういうと小波は護封機の腕を怪獣に向けた。
「えい!」
護封機の掌に空いた穴から、まるでレーザーのように勢いよく水が飛び出す。
それを見た怪獣は、大袈裟に飛び退いた。
「えーい!」
小波は腕を振ると、水のレーザーを横凪ぎにした。
怪獣はそれを大きくジャンプで避けると、後ろに飛び距離を置いた。
『なんか、怪獣が必死に避けているように見えるな。』
ヒロが言うように、小波が攻撃し始めてから、明らかに怪獣の回避行動が大袈裟だった。
『相手は火山から出てきた怪獣、もしかして・・・。小波。アイツは水が苦手なのかもしれない。どんどん攻撃してくれ。』
「わかった!」
小波はヒロに頼られたのが嬉しかったのか、元気よく返事して水レーザーをガンガンぶっぱなし始めた。
「当たらないよ!」
絶え間なく水レーザーを撃つ小波だが、小波の護封機の動きは遅く、怪獣の動きは俊敏なので、まるで当たる気配がなかった。
「そうだ!これをこうしてっ、と。」
小波がディスプレイのパネルを操作すると、今までレーザーのようだった水が一気に拡がった。
『うわっ!?なんだこれ!』
ヒロが叫んだのも当然、その水の拡がりは小波の護封機の前面一帯、小波の前にいたヒロを含む広域に降り注いだ。
大雨警戒レベルで言えば、レベル5を優に越えているであろうその豪雨のような水量が、小波の護封機の掌、いや、今は腕に展開した穴からも出ている。
「大丈夫、大丈夫。ただの海水だから。」
『ただの海水って・・・。』
海水がこんな量降り注いだら、周囲の塩害がすごいことになりそうだ。
既に大きな川が何本も出来ている。
しかし幸いにも周りは溶岩が固まった地面だ。とりあえずは農作物等への影響は考えなくてもいいだろう。
『視界が最悪だ。小波、一旦止めてくれ。』
あまりにもすごい水量の為、モニター越しの黙視では数メートル先も見えなくなっていた。
「あぁっと、ゴメンゴメン。」
小波は慌てて水の噴出を止める。
開けてきた視界の先には、怪獣がさっきまでと同じように立っていた。
「やっぱりただの海水じゃだめかな。」
『いや、よく見てみろ。なんか動きが鈍くなってないか?』
「えっ?あ、ほんとだ。」
小波が怪獣の方に視線を向けると、確かに怪獣の動きが鈍くなっているように見える。
先程まで俊敏に飛び回っていたものが、今ではウロウロと歩き回っているくらいだ。心なしかその足取りも重そうに見える。
『やっぱりアイツは水に弱かったんだな。今がチャンスかもしれない!』
ヒロはそう言うと、怪獣に向かって行った。