第十話 異国の地の異変
俺達は何事もなく、ハワイの地に降り立った。
因みにパスポートは、政府パワーで出発の時点で既に用意されていた。流石、政府が味方に付くと便利でいい。
「これからどうします?キラウエア火山に行きますか?」
「そうだね。取り敢えずホテルにチェックインしてからだけど、それから一番怪しそうなキラウエア火山まで行こうか。」
小波の方も特に反対もない。無理矢理付いてきたので、我儘を言えた立場では無いが。
「免税店とか行きたいなぁ。」
そうでもなかった。
俺達は小波の呟きを聞き流し、タクシーでホテルに向かう。
「キラウエア火山をどうやって調査します?」
「取り敢えず観光客に混ざって空から眺めてみようか。」
「空から!」
空から火山を眺めると言う山本の言葉に、買い物に行けなくて不満に思っていた小波が笑顔になる。
「空からってなんですか?何に乗るんですか?」
「そうだねえ。セスナもあるけど、ヘリの方がいいかな。ゆっくり火山を見れるだろうし。」
「ヘリコプターかぁ。乗った事無いなぁ。ヒロは?」
「あるわけないだろ。」
小波はもうワクワクが止まらないと行った感じだ。
そうしているとタクシーはホテルに着いた。
いたって普通のホテルだ。
「普通だね。」
「そりゃそうだろ。どんなのを想像してたんだよ。」
「そりゃハワイだし、ドーンとおっきなリゾート感満点のやつ?」
「すいませんね。一応これらの経費は税金なので。」
「そりゃそうですね。」
山本が申し訳なさそうに言うが、そもそも全額出してもらっておいて、文句が出る方がおかしい。
まぁ、小波が言った通りホテルは普通だ。なので俺達はホテルにチェックインした後は、どこかを見るということもしないで部屋に荷物を置いたらすぐに出掛けた。
俺達はキラウエア火山の、ヘリコプターの乗り場まで来ていた。
山本が担当者と話すと戻ってきた。
「どうやら今日は予約で埋まっているようだね。明日なら辛うじて空いていたから予約を入れておいたよ。」
どうやら今日は一杯のようだ。そりゃそうだ。世界でも有名な観光地だ。むしろ明日空いていた方が驚きだ。
「今日は歩いて近づけるところまで行ってみようか。」
「歩いていけるんですか?」
「結構近くまで行けるよ。」
俺達はキラウエア火山国立公園まで来ていた。
「これがキラウエア火山ですか。」
「そうだね。」
「ねぇねぇ、煙!煙出てるよ!」
「キラウエア火山は今も噴火を続けている火山だからね。煙くらいは出ているよ。」
「噴火を続けてる?それなのにこんなに近づいて大丈夫なんですか?」
「まぁ、今のところは大丈夫だね。過去には大きな噴火で町が溶岩流に飲み込まれたこともあるよ。」
「ええっ!?それって大丈夫じゃないんじゃ?」
「何も起きなければ大丈夫ですよ。何も起きなければ。」
「なんでフラグを立てるんですか?」
「何か起きるかもしれないから見に来たんだろう?」
「そうですけど・・・。」
結局その後、溶岩が固まった上を歩いたり、今も流れる溶岩が海に入るところを見たりしたけど、何も起きなかった。
「折角のハワイだから泳ぎたかったよね。」
小波は完全に観光モードだ。
「ちょっと泳ぐのは難しそうだけど、買い物でも行きますか?」
「買い物!」
小波のテンションは最高潮になった。
その後、俺達は小波に色々と連れ回されクタクタになった。
「で、結局あれだけ行きたがってたのに何にも買ってないじゃないか。」
そう。クタクタになるほど連れ回されたのに、小波は色々商品を見るだけで何も買ってないのだ。
「だって、いくら免税店だからって買えないし。ヒロが買ってくれる?」
「買ってくれたら宝物にするけどね。」と、ボソッと呟いた。
それから翌日、俺達はキラウエア火山ツアーのヘリポートに来ていた。
「あのぉ、山本さん?あのヘリ、ドアがありませんけど?」
山本に問いかける小波。そう、目に前のヘリコプターにはドアが無かった。
「ドアを無くしたヘリから、ダイナミックにキラウエア火山を観賞するるツアーだよ!どうだい?興奮するだろ?」
何を言っているんだ、コイツは。
怖いので他のヘリを、と断る小波に、他のヘリは予約が取れていない、とドア無しヘリに強引に俺達を押し込む山本。
こうして俺達は小波の悲鳴と共に、空へと飛び立った。
「見てごらん、凄いよ。」
山本が指差す方を見る。
キラウエア火山の火口から、真っ赤なマグマが噴き出している。
これが常時起きている事だというのだから、凄い。
しかし、この光景は先日の富士山を思い出させ、お母さんが大怪我をする結果になった小波は口少なになった。
「・・・ 。」
「小波。」
「ん?ああっ、凄いなって思って。感動しちゃってたとこだよ。」
小波はそう言うが、その顔は辛そうに見えた。
その時、ヘリコプターのパイロットが何か言い出した。
英語の成績は赤点という訳ではないが、さすがにネイティブな英語は聞き取れない。
「何かいつもと火山の様子がおかしいようだね。」
山本が聞き取った内容を教えてくれた。
その間も、パイロットはどこかに無線で話をしている。
一頻り通信を終えたパイロットは、何かを言おうとこちらを振り向いた。
その直後。
轟音が響いた。
聞いたことがある。それもつい最近。
キラウエア火山が、物凄い音と共に噴火した。
それは天にも届くかというほどの炎のカーテン。
直後、発生した上昇気流にヘリが煽られた。
パイロットが何か叫んでいるが、内容は分からなくても非常にヤバい事態だってことくらい想像がつく。
懸命にコントロールを戻そうとするパイロットだが、それを嘲笑うかのようにヘリは木の葉のように空を舞った。
そうして立て直せこそ出来なかったものの、パイロットの懸命な操作でヘリは陸地への激突を免れ、ハワイの海へ墜落した。
ドアの無いヘリだったことも幸いし、シートベルトをなんとか外すと俺は海面に浮かび出る。
小波は!?
俺は必死に周りを見渡すが小波の姿も、山本もパイロットの姿も見えない。
小波が!小波が死ぬ!?
俺は半ばパニックに陥りながらも、振動で荒れる海面を見回し続けた。
その時、俺の耳に獣の雄叫びのようなモノが聞こえた。
その声は、噴火の轟音も、荒れる波音も切り裂くような威圧の籠った声だった。
俺の体は一瞬硬直した。
荒れる海で体が硬直し、溺れかけながらも声の方に顔を向ける。
そこには禍々しいまでの黒と朱の体に、口の端から炎を噴き出す四足歩行の巨大な狼のようなモノがいた。
「おいおい、おいおいおい。マジか。マジで怪獣かよっ!」
あの地球儀のようなものの光点は、護封機関係のものだろうという予測はしていた。
しかし、だからといってこんなドンピシャなタイミングがあってたまるか。
小波がどうなったかもわからない。
どうする?どうしたらいい?
護封機は?俺の護封機。
護封機は日本だ。
護封機があれば。護封機がっっっ!
俺の護封機を強く求めた時、自分を中心に海面が渦巻きだした。
渦巻いた海面は、下へと引き込まれるように拡がっていく。
これはまずい!と慌て出した時には、今度は海面が隆起し始めた。すぐに足元に何かの感触があり、そのまま海面から体ごと突き出された。
そこには日本にあったはずの護封機があった。
胸の辺りまで海に浸かった護封機の、コックピット部分に乗っている。
意味が分からなかったが、俺は急いでハッチを開き、護封機に乗り込んだ。
コックピットブロックを下ろす搭乗方法と、直接ハッチを開け乗り込む方法とがあって幸いだ。
「クソ野郎がっ!お前に構っている暇なんかねーぞ。速攻で潰してやる!」
俺は未だ不明の小波を捜索するため、障害を排除するため火山へ向かった。