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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ラスボスが徘徊して困ってます

作者: 猫草

 freestyle.on-line、通称f.s.oはサービス開始三年目のVRMMOだ。

 選択出来る職業は無い。

 冒険や戦闘を楽しむも良し、農耕や料理、建築に励むも良しというようにゲームの明確な目標が無くプレイヤー各自に任せている状態である。

 また、アップデートやパッチも無いという暴挙から運営のやる気のなさが垣間見える。


 そのようにウケる要素の感じられないf.s.oがサービス開始三年目にしてなお200万人のプレイヤー数を誇っている理由の一端は、未だ底の見えない圧倒的なボリュームによるものだ。


 迷宮、塔、遺跡のようなオブジェクトや密林、荒野、雪原など冒険者組最前線の踏破したエリアは20や30では済まない。

 だがそんな冒険者組最前線でも世界の広さは未だ把握できていない。

 世界の広さだけではなく、攻略エリアもごり押しが可能であり、技量が必要であったり、トラップの謎解きメインであったりストーリー仕立てであったりとプレイヤーを飽きさせない作りになっている。


 設定画面も万人に配慮され、グロ描写を排除するフィルターや部位破壊のオンオフ等プレイヤー自身が自分に合うプレイスタイルを設定出来る。


 非冒険者の活動も活発で、始まりの街で活発しているとあるコックの店には毎日数万人という非常識な数の客が押しかけ舌鼓をうっているし、サ○ラダファミリアのような建築物を作っている者もいる。


 グラドは始まりの街にいる引きこもりであった。ゲームの中なのに引きこもりというのも可笑しな話ではあるが、彼は最初期組のプレイヤーにも関わらず未だ自分のホームスペースから出た回数は片手で数えられる程であるので正に引きこもりであろう。


 そんな彼のホームスペースに一人の女性が入ってきた。


『あんたまだ此処に引きこもってたの!?』


 呆れた声を上げた女性は冒険者組最前線で活動しているニーナだ。魔法をメインに攻略している彼女は魔力値が高く、回復、攻撃、支援系、生活補助系とおよそ魔法に使用できることはあらかた行使出来る有能な女性である。


 ニーナは数ヶ月に一度、この始まりの街に戻ってくる。彼女曰わく前述のコックの料理が無性に恋しくなるのだとか。

 その彼女は毎度料理を食べた後必ずグラドのホームスペースに顔を出す。

 特別仲が良いとか恋心を抱いているだとかでは一切無い。ただ最初期に一緒にパーティーを組んだグラドが未だに始まりの街で燻っていることに我慢がならないだけだ。

 他の者のように冒険以外の別の趣味目的を持っているのなら気にしないのであるが、グラドはそうではない。そんな彼がなんとなく放っておけないのだ。

 そう、ニーナはただの御節介焼きなのである。


『ずっとこんな所に引きこもってたって面白くもなんともないでしょうに。。。今回こそは外に出るわよ!』


『あぁ、そうだな』


『!!!?』


『なんで誘ったお前が驚いてるんだ?』


『いや、だって。。。今回もどうせ無理だろうなと思ってたし。。。何回誘っても断ってたのにどういう風の吹き回し?』


『ようやく納得のいく物が出来上がったからな』


 そう答えたグラドの手元には長剣があった。その丈6尺、およそグラドの身長程の長さの剣である。


『うわぁ、男の子が好みそうな剣だねぇ。昔使っていた大剣はもう止めるの?』


『あの剣がこれさ』


『え?太さが全然違うじゃない。前はベ○セ○クの○゛oッが使ってるような剣だったのに、この剣はせいぜい10cm位の太さしかないよ?』


『この一年間研ぎに研いだからな』


『研いだってあなた。。。原型が解らなくなるほど研いでんじゃないよ。。。まぁいいわ。じゃああなたの気が変わらない内にさっさと出発しましょ』


 そう言ってニーナがグラドを伴って空間魔法で転移した先は雲を突き抜ける山々がそびえ立つ高山エリアであった。


『ニーナ、おまえ。。。とうとう空間魔法なんて覚えやがったのか』


『便利でしょ?転移を覚えたのは今日だったんだけどね。うまくいったわ』


『今日なのかよ!?もし失敗してたら半身と半身が永遠にお別れしてたんじゃねぇか』


 ニパーっと満面の笑みを浮かべるニーナと青ざめるグラド。


『まあまあ、私がそんな初歩的なミスをするわけないでしょ。それよりコレ見てよ!空間魔法のおかげでなんでも持ち運べるようになったわ!』


 そう言ってニーナが目の前に出現させたのはこんがりと焼けた4mサイズの大型魔獣である。空間魔法を所謂アイテムボックスのように使っているようだ。

 ドヤ顔を浮かべるニーナ。

 空間魔法の有用性を伝えるだけならコテージだとか、なにかもっと良いチョイスがあったのではないかと苦笑いを浮かべるグラド。どうも先程から表情が対称的なようだ。


『ニーナが人外になったのはよ~くわかった。しかし良いのか?そんなお前にこんな初期エリア探索を手伝ってもらって。』


『いいのよ。私もちょっとここで試してみたい事があったし。あなたもここには思うところがあるでしょうし。あ、でもしばらくは私攻撃に参加しないから。バフとデバフはかけてあげるけど、私が攻撃したらあなたに経験値が入らないし』


 f.s.oには職業は無いがレベルとステータスはある。ステータスはレベルの他に行動によってあがる値もある。件のコックや建築家は器用さの値が高くなっていることであろう。


 レベルについては行動ではなく、魔物を倒すことでのみ獲得する経験値によって上がる。魔物毎に固有経験値が定められているのだがレベル差ボーナスがあり、敵がこちらよりレベルが高ければレベル毎に一割ずつ累乗で加算される。逆に敵がこちらよりレベルが低ければレベル毎に一割ずつ累乗で減算される。


 細かい判定条件を述べると長くなるので割愛するが、要はニーナのようなレベル90オーバーのプレイヤーがここのような初期エリアの魔物を倒しても経験値が入らないのだ。オールフリーのアルコールの如く0である。


 運営のパワーレベリング防止策なのであろうこのシステムは救済策なのかバフやデバフといった支援魔法は適用対象外なのだ。それ故にニーナのように支援魔法を使える冒険者は初心者パーティーから引っ張りだこであったりする。


閑話休題


『そういえばあなた長剣しか装備してないわね。連れ出すチャンスだったからそこまで考えが回らなかったわ。初期レベルで装備できるものは。。。アクセサリー位ね。良かったらこれでも着けてちょうだい』


 そう言ってニーナが差し出したのは二つのブレスレットだ。


『こっちが守りの腕輪。防御力を一割上げてくれるわ。こっちは憤怒の腕輪。一度使うと再使用まで10分かかるけど、一撃のみダメージを3倍にしてくれるわ』


『割合のステータス向上なんて、こんな高価そうな物もらってもいいのか?』


『貸してあげるだけよ。あなたがまた引きこもるようなら返してもらうわ』


 言外に高価なアイテムをくれるというニーナに感謝をしながらグラドは歩を進め始めた。


 最初に会敵したのはリザード。トカゲ男で有名なリザードマンではなく、ただのトカゲである。岩肌に似た色で見つけにくい。そんな無個性が個性だといわんばかりのただのトカゲである。


 それをグラドは一刀の下に葬り去った。


『あれ?一撃?グラドもしかしてあれから少しレベル上げしてた?』


『いや、一切してないぞ。そもそも外に出ていないしな』


 グラドはそう言うとステータスを開いてニーナに見せた。



Lv:3

 名前:グラド

 種族:ヒューム

 状態:正常

 HP:20/20

 MP:5/5

 能力:筋力:20

    器用:1024

    魔力:4

    法力:5

    敏捷:18

 技能:研ぎ師(Master)

 魔法:無し

 装備:始まりの大剣

    憤怒の腕輪

    守りの腕輪



『ほらな、Lvは3のままだぞ。ニーナと冒険した時から変わってないな』


『えぇ。器用値とか、相変わらずその長剣は大剣扱いなのかとか突っ込みどころはあるけれど変わっていないわね。筋力値も平凡だし。というかなんなのよその器用値は。私の魔力値と変わらない位の高さじゃない』


 グラドの器用値がよっぽど受け入れがたいのがニーナがブツブツと呟いている。


 ちなみに各値の効果は主に以下の通りだ。


筋力:物理攻撃力及び物理防御力に作用

器用:クリティカル率及び敵の攻撃の受け流しに作用

魔力:魔法攻撃力に作用

法力:魔法防御力及び回復魔法に作用

敏捷:行動速度及び回避に作用


『ボーッとしてると置いていっちまうぞ』


 グラドのステータスを見てしばらく自分の世界に引きこもっていたニーナだったが、引きこもりのその一言で我に返った。


 その後も斜面の上から駆けてきた山羊似の魔獣の群れや空から奇襲をかけてきた鷲似の魔獣を、グラドが全て一刀の下に葬り去った。ちなみにグラドのLvは4に上がっている。


『バフやデバフさえ出番がないじゃんか!なんなのよもう!』


 道中出番のなかったニーナがぷんすかと怒っている。


『いや、ニーナには感謝しているぞ。俺は石橋を叩いて渡るような性格だからな。君が連れ出してくれなかったらもうしばらくはホームスペースに引きこもっていただろうさ。ありがとう、ニーナ。』


 急にグラドから真摯な感謝を述べられて思わず照れてしまうニーナ。


 そこへ遠くの空から耳をつんざく咆哮をを上げて何かが近づいてきた。


『相変わらず煩いわね。あなたが冒険を止めて引きこもっていたのはアレが原因なんでしょう?今日私が試したかったことってのもアレなのよね』


 即座にニーナが詠唱に入る。


 ニーナとグラドの付近一帯が影に覆われると、二人の前にソレは降りたった。


ゲームの代名詞【ドラゴン】Lvはニーナを遥かに上回る160。


 その大きさは高さ15mにも及び、口から吐いた火球が遠くの山頂を砕くのが見える。


 間違っても最初期に出てくるような魔獣ではない。つまりは負けイベント戦なのである。


 今またドラゴンが吐いた新たな火球は、空の雲を蒸発させながら

彼方へと消えていった。


『アンタの図体でかすぎて顔が見えないのよ!!!距離感位ちゃんと調整しなさいよね!!メテオストライク!』


ニーナが運営をディスりながら唱えた魔法はメテオストライク。つまりは隕石だ。ドラゴンの頭程の大きさの燃え盛る隕石がドラゴンの身体を貫く。


【GYUAAAAAAA!!!】


 先程の咆哮よりも大きな悲鳴をあげるドラゴンだが、そのHPバーはほぼ減っていない。せいぜいが5%程度削れたかどうかというところであろうか。


『メテオストライクでもこの程度のダメージなの!?』


【GRRRRRRRRRRR】


『マズいわ!逃げるよグラド!』


 そう言って空間魔法の詠唱を始めるニーナ。この戦闘は負けイベント戦ではあるが、ドラゴンを攻撃すると反撃に遭う。

 グラドとニーナが最初に来た時も仲間の一人がドラゴンを攻撃し、反撃で全滅したのだ。

 逃走一択の負けイベント戦である。


 ドラゴンが開いた口からは今正に吐かれる寸前の火球がある。


。。。ドラゴンが大きすぎて、この至近距離では見えはしないのだが。運営仕事しろ。

火球の威力は山頂を崩した時点でお察しだが、地面に当たった余波だけで全滅する代物である。


『くっ!間に合え!!』


『えいっ』


【GYUAAAAAAA!!!】


 ニーナの悲壮な声とは真逆の間延びした声と共にドラゴンが断末魔の声をあげる。


『えっ?』


【固有経験値25000を得ました。レベル差ボーナスが発生します。倍率2865885.8268655028....】


『ふぁっ!?』


【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】


........................










 何時間も延々と紡がれるレベルアップのコールが終わった後もニーナは呆けていた。また自分の世界に引きこもりである。


『ニーナ、このドラゴンの亡骸は空間魔法に仕舞えるか?』


『入んないわよ!!こんなビルみたいの入るわけないでしよ!!なんなのよ!なんであなたは平然としてるのよ!』


『平然というかだな。イケると思ったから討伐しただけだ。知ってるだろ、俺の性格』


『だからって。。。だからってなんでドラゴンを倒せるのよ!メテオストライクでもほんの僅かしかHPが減らなかったのよ?!なによ【えいっ】って!なんでドラゴンの指先を斬っただけで一撃死なのよ!!』


 一息にまくしたててぜえぜえと息を荒げるニーナ。


『そりゃあこの日の為にこの剣を研いできたからな。知ってるか?この世界の研ぎって目に見えない程僅かに素材が削れるんだ。だから俺の大剣は長剣になったわけだな。そして武器の研ぎが成功すれば攻撃力が上がる』


『攻撃力が上がるったって+1じゃない。それも何十回も研いで一回成功するかどうかのクソ判定でしょ。運営の調整不足って皆言ってるわ』


 また運営をディスり始めたニーナ。何か運営に恨みでもあるのだろうか。それでもf.s.oの最前線で冒険している辺り好きの裏返しなだけかもしれない。


『今の俺なら十中八九研ぎが成功するがな。コレ装備してみるか?』


 グラドに渡された始まりの大剣を装備するニーナ。始まりの大剣の攻撃力は20000であった。


『なによこれ。。。ぶっ壊れ性能じゃない。。。初期装備だから誰でも装備できるし。よくこんな武器作って垢BANされなかったわね』


『あのドラゴンを倒すにはこれでもギリギリだったろうさ。ニーナが憤怒の腕輪をくれてなきゃ一撃では倒せなかったろうね。で、ニーナ。本当にこのドラゴンは空間魔法に仕舞えないの?レベルだってアホほど上がってるでしょ?』


『だからってこんなサイズ。。。ううん、やってみるわ』


 ニーナが詠唱した空間魔法によりドラゴンの巨体が一瞬の内に消え去った。


『。。。』


『ね。出来たじゃないか。魔力が上がった分効果が上がってるんだよ』


『。。。』


 恐る恐るニーナは自分のステータスを開いてみた。





Lv:1023

 名前:ニーナ

 種族:ヒューム

 状態:正常

 HP:5100/5100

 MP:131071/131071

 能力:筋力:5320

    器用:5210

    魔力:131071

    法力:131071

    敏捷:5008

 技能:詠唱破棄(Master)

    並列魔法(Master)

    魔法貫通(Master)

    全体魔法(Master)

    千里眼(Master)

 魔法:全属性(Master)

    無属性(Master)

    空間魔法(Master)

    生活魔法(Master)

 装備:ルナティックケイン

    ウィザードローブ

    ルイングラス

    サイコギア

    次元の靴

    ミスリルガントレット

    


『。。。』


 無言でステータスを閉じるニーナ。なにやらステータスの桁がおかしくなっている。Lv90オーバーでも技能が詠唱破棄と並列魔法しかなかったはずなのに5個に増えて全てMasterになっている。


『。。。メテオストライク』


 ドラゴンが破壊した山頂を目掛けて詠唱破棄でメテオストライクを撃ってみる。


 鼓膜を破るような甲高い音を伴い、100mはあろう隕石が降ってきた。


。。。雨のような数で


 山頂どころではなく高山地帯そのものの地形があっという間に変わっていく。まるで最初から山など無かったかのように。ニーナの周辺を含め、辺り一面は草木の一つもないクレーターだらけの地帯となった。


『。。。』


『危ないじゃないかニーナ。あんな魔法を撃つなら一言伝えてくれよ』


『あんな規模になると思わないじゃない!大体あなたにも隕石が雨霰の如く降り注いでたじゃない!なに平然としてるのよ!!』


『ん?パリイをしたからな。俺の器用値も上がってたってことだろ』


『隕石も衝撃波も受け流せるパリイなんて存在しないわよ!』


 今日ずっと怒鳴ってばかりのニーナの声は微かに枯れていた。飴ちゃんでもやろうか?と思ったグラドだが、火に油になるだろうと予測できる位の常識は持ち合わせていたようで声には出さなかった。


『ねぇ、グラド』


『なんだ?』


『この地形って元に戻ると思う?』


『ドラゴンの火球イベントで吹き飛んだ山頂も毎回直ってるようだし大丈夫じゃないか?まぁ直らなければ高山地帯改めクレーター地帯にすればいいさ』


『。。。はぁ』


 ニーナは溜め息をつき、空間転移でグラドのホームスペースへ戻った。



 その日、運悪く高山地帯にいて死に戻った冒険者達は『世界が終わったと思った』と口を揃えた。


 始まりの街からも隕石雨は見えたようで、遠くで雨の様に降り注いでいでいる隕石はさながら流星雨のようで幻想的であったという。余談だが始まりの街にいるゲーム内カップルが増えたそうだ。爆発すればいいのに。


 アップデートもパッチもしないことで有名な運営がとうとうイベントを始めた!と盛り上がっている者もいたが、数日経っても一向に運営からのイベント報告は無かった。


 始まりの街からの隕石雨は一部の者がスクショして掲示板にアップしたが、運営の報告も無いため他の街にいたもの達の認識はデマが流行っているなという程度のものであった。





 クレーター地帯が無事に高山地帯に戻り、人々も隕石雨を忘れ始めたある日のこと。


 ラスボスの城内に轟音が響き渡った。


『何事だ!!?』


『はっ!只今確認します!』


 側近が技能【千里眼】で轟音の元を探ると、無残に壊れた城壁と無残なドラゴンの躯が見えた。


『なっ!!?』


『どうした?何が見えた?』


『はっ!城壁が壊されています!既に賊は城内に侵入!衛兵と交戦中ですがまるで相手になりません!』


『ははははは。。。まさか城壁を壊すとはな。面白い事を考える賊共だ。よし、七星全員で相手をしてやれ』


『陛下、何も七星皆でかからずとも』

『我らの内一人でもいれば十分でしょう』


 七星と呼ばれた側近達が異を唱える。

 その隔絶した実力が為にプライドが高いようだ。


『手順を踏まずやってきた賊共への褒美だ。それともよもや、余の命令に逆らうつもりか?』


 その瞬間ゾッとする濃密な魔力が七星を包む。辛うじて片膝で忠誠を誓う七星。

 みな顔面蒼白になっており、よく見ると身体が小刻みに震えている。


(この御方は。。。格が違う。七星全員でまみえたとて陛下に傷をつけられるのかも怪しいところだ)


 七星とて他の者と隔絶した力を持つ実力者達だ。

 だが七星は主の気分一つでその命の灯火を消されることを痛感した。彼等の実力にもまた隔たりがあるのだから。


『もう一度だけ言う。七星全員で相手をしてやれ。』


『『『『『『『はっ!!!!』』』』』』』


 先程千里眼を使用していた七星【ウィズィドーズィ】が空間転移を唱え、玉座に静寂が訪れる。


 しばらくして城内に轟音が一度響き渡り、また訪れる静寂。


(終わったか。七星を個別に当たらせて足掻かせても良かったやもしれぬな)


 ラスボスは落胆していた。f.s.oサービス開始から二年強。その間ずっとこの玉座にいたのだ。

 娯楽もなく、常人なら気の狂うような生活。軟禁とも言えるような状況だ。何故彼がここから動かないかなど、ひとえにラスボスの威厳の為である。

 ラスボスたるもの最後の場所にいる絶対強者なのだ。

よもや平原を駆け回るラスボス等聞いたこともない。


 イベント戦などで他の場所に出てくるボスだったり、最初に戦ったボスが実はラスボスで現れたりすることもあるのだから玉座から出てもいいじゃないかと七星などは思うのだが、主のその圧倒的な力の前に口を噤んできた。


 そんな中現れた初めての来客であったのだ。客というのもどうかと思うがラスボスの心中としては客であった。それもイベントの手順を飛ばして力業で城壁を壊して入ってきた。

 ラスボスは彼等に期待していたのだ。自身の力を十全にだせる相手であることを。

 早く戦いたい。しかし、部下の七星をおいて先に戦うなどとはラスボスとしての矜持が許さない。

七星を見事撃ち破って余の下へと現れて欲しいと願った。


 だがたった一撃で滅んでしまった。


 あんまりではないかと心中で嘆くラスボスだが、一度は城まで辿り着いた者達だ。これからはそのような者達も多く現れるかもしれない、と自身の精神の回復を図る。


『もうよいぞウィズィドーズィ、戻ってまいれ』


 ラスボスがウィズィドーズィに思念を送るとほぼ同時、空間転移により男女が現れた。


『ほう?七星の一撃で死んだとばかり思っていたが。』

(奴らも気が利くようになったではないか。余が戦いたがっていることに気づいていたのだな。)


『七星ってなんのことだ?』


『きっとさっきの衛兵のことよグラド。7人いたし、f.s.oの運営なら七星は星になったとかイタいことを考えてそうだわ』


さりげなく運営をディスることを忘れないニーナの言葉に納得するグラド。


『星になっただと?つまらん冗談だ。一撃で七星を皆滅ぼせる者など余の他にいるはずもなかろう』


『そんな事言ったってなぁ』


『実際に見てみた方が早いわよ。はい、ファイア』


チロチロとした火の粉がラスボスに向かって放たれる。


『はっ!初級魔法の何を見ると言うのだ!余を愚弄するグワァァァァァァァァァ!!!!!』


着弾した瞬間迸る轟炎と轟音。それは全体魔法(Master)の効果により先程七星をまとめて炭に変えた悪魔的な魔法【初級魔法ファイア】である。


 ラスボスを飲み込んだ轟炎が消え去り、後には炭だけが残った。


『なんか小物っぽいやつだったけど、ラスボスはどこにいるんだろうな?ここ玉座っぽいんだけどな』


 ラスボスの玉座を前にしても調子を崩さないグラドが呑気な声をあげた時、炭からラスボスが復活した。


『面白い!さすがここまで辿り着いた客人よ!初級魔法に見せかけて上級魔法を撃つなど汚らしい性格のようだが、実力は申し分ない!』


(何言ってるのこいつ?ファイアで脳みそ溶けたのかしら)


ニーナが心中で辛辣にディスってる最中、ラスボスの魔力が膨れ上がる。


『ニーナ、俺の後ろへ』


『平気よ。私の法力値知ってるでしょ?』


『このままじゃ(俺の見せ場的に)危険だからな』


『そちらの女の魔力値は申し分ないようだが、これならどうかな?パルスレーザー!』


振り上げたラスボスの掌から数十の光線が不規則な軌道でグラド達に襲いかかる。


『パリイ』


『なっ!???』


 ラスボスの放った数十の光線はただの一つとして当たることなくグラドに受け流された。


『そんなパリイがあるか!!光線だぞ!?一発でも受け流せたら理解ができんものを!それが数十グワァァァァァァァァァ!!!』


『ちょっとグラド、喋ってる最中に斬ったら失礼じゃない!』


『え?でもさっきも喋ってる間に燃えてたじゃないか?』


『あれは不可抗力よ。魔法が飛んできてるのに喋るバカが悪いのよ』


 一刀の下に斬り伏せられたラスボスであったが、周囲の空間が裂け、そこからおどろおどろしい化け物の腕が現れた。そして再度復活するラスボス。しかし彼の思考はショート寸前だ。


(なんだ?なんなのだアレは!?全てを超越した余をもってしても全く理解ができん!)


『ん~~、さすがにラスボス城を一撃で破壊すると風情がないって却下されたけど、もうアレを撃ってしまってもいいんじゃないか?』


『私もそんな気がしてきたわ。まさかラスボス城がここまで手応えのない処だとは思わなかったし。ラスボスっぽいのは小物臭しかしないし。これだからf.s.oの運営はksだわ。はい、メテオストライク』


『ひぃっ!!!!』


たちこめる濃密な魔力に圧倒的な死の気配。崩れ去るラスボス城と消え去る意識の中ラスボスは誓った。

もう二度と彼等の前に現れないことを。


時が経ちラスボス城のオブジェクトは復活したが、そこに主が戻ることは無かった。














.........................












ここは小さな孤島。


隠居を決めこんだラスボスが余生を過ごしていた。余生といっても寿命は無いのだけれど。


もうあんな恐怖はごめんだ。


ラスボスの心は折れていた。


どうしようもないほどに。


今では漣の音を聞きながら一日を過ごしている。


そんな彼の耳にピキピキっという異音が入ってきた。


顔を上げると彼の前へ続く白い道があった。


『凍っている、のか?』


海にできた一直線の氷の道。


ある意味で幻想的な光景だが、こんなことを出来る存在など彼には一つしか思い浮かばない。


ラスボスの双眸が白い道の先にある2つの影を捉えた。


『ひぃっ!!!!』























しばらくしてf.s.oの掲示板に一つのスレッドが立った。


【ラスボス城にラスボスがいない件】


彼は今日も世界のどこかを徘徊してるのだろう。


2つの影に怯えながら。


もう二度と会わないことを夢見ながら。















面白いと思った方もそうでない方も、ラスボスのグワァァァァァァァァァが耳から離れないあなたも、良かったら評価していってやってください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『えい』が耳から離れませんでした!! ドラゴンがぁ…… 後、剣を研ぎ倒して、器用度が1024に吹き出してしまいました。 最後に、ラスボスに安住の地があるのか、不安になりますね。 頑張れ…
2019/01/26 00:04 退会済み
管理
[気になる点] 読んでいて漫画「冒険王ビイト」思い出しましたw 短編なのでこれで完結なんでしょうが、続きも読んでみたいですね。魔王の逆襲の物語とか。 いつかVRMMOを現実でやってみたいものです。 […
[良い点] 素人目線ながら評価させていただきます。 面白くて、連載してくれたらいいのにな。 そう思う作品でした。 [気になる点] ラストシーンがラストシーンではないような感じがしました。 [一言…
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