桜
今回初投稿で、至らぬ点だらけですが、読んで頂いたら嬉しいです。ぜひ感想も聞かせてください。
桜の匂いが鼻をつく。街の雰囲気からは、新たな生活への希望、期待感といったものが感じられる。
今日は高校の入学式。人生の夏休みの始まりだ。新入生は皆、頰を赤らめこれから始まる三年間を思い思いに想像しているだろう。
勉学に励むもの。部活に勤しむもの。
はたまた---恋を謳歌するもの---。
ある一人の男子高校生、
相崎大紀もその一人であった――――。
『で、あるからして...新入生の皆さんに
は、、、』
「ダリィ…」 「校長話長ーよ」
不満の声があちらこちらで聞こえる。どうして毎回校長先生は、こんなにも話が長いのだろうか。
どれくらい長いか、具体的に表すとするならば、カップラーメン5個分。4分の1時間。30分アニメならば、何か問題が起きて解決に向かっているからであろう―――
だがそんな出来事さえも、彼等にとっては楽しみの一つ。これからの事を思えば、1時間でも1日でも聞いていられる――――まぁ実際は無理だろうが、それ程
―――― 浮き足立っている―――――
という事だ。
――――――――――――――――――――
「よ、大紀!校長先生の話長すぎだよな〜ところで、お前何組だった??」
短髪で肌を程よく焦がした、ザ・体育会系のような少年が勢いよく肩を回してくる。
彼の名前は海原潤。校長の事を先生をつけて呼ぶあたり、根は真面目だ。
潤、なんて名前が相応しいような性格とルックスの持ち主。爽やか系イケメン。
「あぁ、俺は1組,お前は??」
「俺は5組!中学の頃とは対照的だなぁ...」
「まぁしょうがないよ、来年は同じクラスになることを願おうぜ。」
潤とは小学校の頃からの付き合い、中学では三年間同じクラスだった。どこか頭の片隅で、高校でも同じクラスになるだろう、俺と潤は見えない何かでつながっている、と多少なりとも思っていたので、クラスを初めて知った時は少し驚いた。
「でも..お前…俺がいなくて大丈夫か?…」
急に眼力が強くなった。何かを、本気で伝える、本気で向き合う、そんな様な顔だ。
「別に平気だって、いつまでもお前の世話にはならないさ」
少し茶化しながらそう応える。本気で向き合ってくれている彼に、茶化して応えるのは失礼かもしれないが、言っている言葉に嘘はない。これ以上、潤の世話になるわけにはいかない。そういった決意が確かにあった。
いつも爽やかに笑っている潤がこうも真剣な眼差しで言うということは、それ程までに俺のことを心配してくれているのだろう。
小学生の頃、クラスに馴染めず浮いていた俺を救ってくれたのは、いつも潤だった。小学生ではずっと潤に頼りっぱなしで、そんな自分が情けないと思っていた。
だから、中学に入ってからは、俺も変わろうと思い、
クラス委員や生徒会など、様々なことに挑戦した。
そのおかげでコミュ力も多少はついたし、人生初の彼女もできた。潤には感謝してもしきれない。1番の親友…あるいは恩人、そんな言葉ではとてもじゃないが飾ることができない―――そんな関係性だ。
「何かあったらすぐに頼ってくれよ!俺も、何かあったらいつもみたいにお前に世話になるからな!」
「あぁ、そのつもりだよ」
「じゃ!また後でなー」
潤が走り去って行く。忙しない男だな。だがそれがあいつの良いところなんだが。普通人間は、周りに影響される生き物だ。だがあいつは、世間体や空気に影響されず、自分の信じたことを貫く。そんな人間は、俺はまだ潤しか知らない。
本当は、(俺の方が世話になりっぱなしだ、今までありがとう)
そうやってこの気持ちを伝えるべきだったのかもしれない。だが俺には照れ臭さと弱さだけが心を満たし、一歩踏み出す勇気など、とても持ち合わせてはいなかった。
だから……だから今は!、、、俺の今あるありったけの…ほんのわずか、ほんの一握りの勇気で、こう言うことにする。
『かいはらうるまーーーー!!!』
潤が振り向く。
「俺の人生をよろしくーーーーー!!!!」
「はは!プロポーズかよ、お前の人生、任せられた!」
屈託のない最高の笑顔でそう応える潤―――
あぁ、俺は――こいつのこういう所に、救われたんだな、、、なんて、そんな臭いことを考えていた。
――――――――――――――――――――
「ねぇ、聞いてる??おーーーい」
「ん?あぁ、何だっけ?」
「もー!彼女の話くらいちゃんと聞いてよー…大紀くん、最近ぼーっとしてない??」
俺の前に回り込んで顔を覗いてくるのは彼女の宮下夏希。俺好みのポニーテールで香水の匂いなのか、ほのかに甘い香りがする髪。
大きく開いた瞳に、少し丸い輪郭、鼻は筋が通っていて高い。そんな顔の持ち主。
控えめに言って超可愛い。正直、、、、
普通―――という文字をそのまま顔にしたような俺の顔にはとてもじゃないが釣り合わない。告白は俺からしたが、未だにOKしてくれた理由がわからない。
「生徒会入ってから、ずっとそんなんだよ??一緒に帰ってる時くらい、、、
私に....さ、その...か、かまってよ...」
指で髪をくるくるさせながら右斜め下に視線を向け、そう言う。ちょうど夏希の顔と夕陽が重なり、上品で華やかなオーラを纏わせ、夏希を煽てている。
なんだこれ?!可愛すぎて死ぬ〜〜〜
もう俺は絶対こいつを無視しない、無視したら死ぬ!!!!
「悪かったって、生徒会の仕事が大変で、最近あまり寝れてないんだよ。勉強もあるしな...」
そう、入学式から約1ヶ月経ち、俺は生徒会に入っていた。もともと部活はやるつもりはなかったので、軽い気持ちで入った----
のだが、思いの外仕事が多い。だがそれを苦だと思った事は一度もない、、、それに、
やりがいも感じている。
「その...なんていうか、..えーっと...」
夏希が口ごもっている。視線をあちらこちらに泳がせ、耳がほのかに色づく。今の俺にはその赤さが夕陽によるものなのか、はたまた別のものによるものなのか、、、、、、、
あるいは――――――その両方か、
知る由は無かった。
「今夜...さ 親がいないの!だから家に来ない??!」
と、一気に言ってしまおうと思ったのだろう。後半はすごい早口だ。だが、言うだけ言って、夏希は緊張からか、俯いてしまった。
さっきとは比べ物にならないくらい、耳が真っ赤に染まっている。それがもう、夕陽の仕業ではない事は、俺にもすぐわかる。
否----さっきも分かっていたのかもしれない。ただ
"夏希が自分のことを好きで、緊張で耳を赤くしている"
という事実が、恥ずかしかったのだ。
「え?!家に行っていいのか?!.....じゃ、じゃあ寄ってこうかな....」
夏希の家に行くのは初めてだ。中学生の頃の恋人らしい想い出といっても、バレンタインデーの日に、キスをしたくらい。
それも、触れたか触れていないか、分からない程のもの。
だから、家に行くのは俺たちにとって一大イベントだ。凄く嬉しい。
どんな家か、どんな部屋か、どんな香りがするのか、どんな事をするのか----
色々な事を考えていくうちに、期待が胸に広がっていった。
他愛の無い会話をしながら、何だかんだ夏希の家についた。外観は至って普通の一軒家。
だがそこには、初の彼女の家というレッテルが何重にも貼られ、クリスマスのイルミネーションよりも輝いて見えた。
夏希に先導され、いよいよドアを開けようとしたその時、、
テッテレテレレテレレーレー♪
テッテテレレレテンテレレーレー♪
と、最近ブームになったヤンキー系ドラマの主題歌がスマホから鳴り響いた。因みに、スマホは毎回最新版を買っている。
「あ、ごめん。ちょっと電話出るわ。」
そこには、"潤母"と表示されていた。よく潤の家で遊んでいた俺は、潤の親とも仲良くなり、何か困った時、互いの家族で助け合えるようにと、電話番号を交換していた。
「もしもし、純子さん、どうかしたんですか?」
至って普通のトーンと台詞で応答したが、その応答とは裏腹に、純子さんの声は震えていた。
「大紀君...潤が、、、--------
"死んじゃうかもしれない"」
『え?」
あまりにも受け入れがたい言葉に、思わず素っ頓狂な声が出た。日が完全に沈み、さっきまで優しく包み込んでくれていた空気が、肌を劈く冷たい凶器に、一瞬のうちにして変貌した。
「ごめん!夏希っ!今日のことは必ず埋め合わせはするから、今は行かなきゃ!!」
「もう、、しょうがないなぁ ! ........」
普通の人が聞けば、怒ってはいるが、笑って許してあげている。そんな風に聞こえるだろう。だが、中学の頃からずっと彼女を見てきた俺にはわかる。分かってしまう―――
彼女の本当の気持ちが。
その演技派な笑顔の裏に隠されたとてつもなく哀しい気持ちとがっかりな思い。
また、悲しませてしまった--------
家に行けなくなったことよりも、彼女を悲しませた事の方がよっぽど悲しいし、情けない。でも、、、!
それ以上に、潤のことが心配だ。
本当に夏希には申し訳ない。こんなにも、好きでいてくれているのに。男として、情けない。
だが、ここで潤に会いに行かなかったら、人として終わる気がする。何より、潤とはまだ別れたく無い。だから、別れを告げるために行くのではなく、会いに行くのだ。
ごめん、、、、、夏希....!!!!
心の中でそう言って、俺は病院へと走り出した。
ここまで駄文を読んで頂きありがとうございました!次回もお願いします。