表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/23

9 良人くん、一緒に帰りましょう



 そしてある日の仕事終わり。特に残業もないので荷物を纏めていると、僕のケータイに着信が。


「良人くん、今から私は帰るわ。一緒に帰りましょう」


 わるこさんだった。

 僕が帰るところだなんて伝えていないのに、一方的に用件を告げている。エスパーなのだろうか。


「いいよ、僕もちょうど終わったところだから。待ち合わせはいつもの所で良い?」

「ええ。先に待っているわ」


 そう言うとわるこさんは電話を切った。

 待ち合わせ場所はいつもの所。特に目印のない交差点の信号の前だから、いつもの所としか言い様がない。


「あら、待ったかしら? 良人くん」

「君の方が先に居たんだからそのセリフはおかしいよ。待たせてごめんね」


 待ち合わせ場所につくと、わるこさんは既に到着していた。先に待っていると言っていたから、僕も急いで走ったんだけどな。

 そして二人で信号を渡って、並んで歩く。


「ねえ、良人くん。ルームシェアを始めて一年経つけど、私いつも気になっていることがあるのよ」

「なんだい?」

「私、部屋の掃除とかゴミ捨てとかあんまりした覚え無いのよね。って言うことは全部良人くんがしてくれているのでしょう? なんで?」

「また今更な質問だね」

「おかしいなー、とは思っていたのよ?」


 僕より幾分背の低い彼女が、僕の顔を覗き込む。

 掃除ゴミ捨ては交代とは言ったものの、僕はわるこさんの順番を抜かして勝手にやっていた。それは何故か。


「掃除にゴミ捨ては多分、僕が産まれる前からやっていたことだからだよ。だからつい、やらずには居られない。魂がやりたがるんだよ」

「……良人くんからその話をするなんて珍しいわね」

「まあね。別に嫌な話でもないだろ?」

「……ええ。私はそのゴミ箱から生まれただけだもの」

「…………」


 嫌な話だった。ふっと顔を背ける彼女。不味いことを話してしまったと後悔したとき、彼女の肩が震えた。


「ご、ごめんわるこさん。僕、君がそんなに落ち込むなんて」

「……ぷっ……くく……。ふふ、ふふふふ」

「…………」


 ああ、またからかわれた。と、気付いたときにはもう遅かった。

 彼女はその美しい顔を、やはり美しいとしか言えない笑みに変える。


「ふふふふっ! やっぱりおかしいわ、良人くん。あなたと居たらなんでこんなに楽しいんでしょうねっ」

「……君が楽しいなら僕も本望さ」

「拗ねないでよ良人くん。ぷっ……くふふ」


 いいんだいいんだ。別に僕が敗北感を抱くのはいつもの事だし。


「ごめんってば。それに私いつも感謝しているの。良人くんが掃除にゴミ捨てをしてくれるから、部屋は綺麗なままだもの。それが例え、産まれる前からの役目でも」

「……別にそれだけじゃないさ。君のその綺麗な白い手が汚れるのが嫌だと思ったり…………って何を言っているんだ僕は」

「…………ふふ」


 彼女は先ほどのいたずらっ子のような笑みを収めた。代わりに年相応の大人びた笑みを僕に向ける。


「私、良人くんのそう言うところ好きよ」

「な……ッ!?」


 ああ、ダメだ。


「昔からずっと、良人くんの事」


 やっぱり僕は。


「大好き」


 この人には敵わない。



この辺りから時系列順ではありません。

ご注意ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ