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7 良人くん、バッティングセンターにいきましょう


 大学に入る頃には彼女はかなり自制心を効かせられるようになっていた。

 高校生の卒業式にも窓ガラスを割ろうとしていた彼女だったが、進路に響くと説得してみるとあっさり引き下がるほどだった。但し中学は全部割った。


「ね、良人くん。今度二人でバッティングセンターにいかない?」

「え、バッティングセンター?」


 そう誘う彼女は年相応の可愛らしさと、大人びた綺麗さを備えていた。僕の心臓が急に活発になったけれど、生命には何の問題もなかった。


「そうよ。バッティングセンターデート」

「デ、デート!?」


 声を荒げる僕はかなり人間臭くなっている気がした。それも仕方がないだろう。

 何故ならこんな笑顔の彼女を見たことがなかったからだ。前日までそんな素振り一切なかったのに。


「ふふ…………。………………はぁ、良人くんをからかうのは楽しいけれど。慣れない演技はするものじゃないわね」


 そこで僕はほっと安心した。いつものぶっきらぼうな様子に、安心するなんて我ながら変だ。


「演技だったの?」

「そうよ。女子大学生の真似をしてみたの」

「……君も女子大学生だからね?」


 話を聞いてみると、僕をからかう事を考えていて思い付いたらしかった。普段から何か良からぬ事を考えているとは思っていたけど、最近は僕ばかりに矛先が向いている気がする。


「聞くまでもないけれど、びっくりした?」


 わるこさんは僕に訊ねる。その表情は自然な笑みでとても嬉しそうだ。


「言うまでもないけれど、びっくりしたよ」


 僕が返すと彼女は更に微笑んだ。いつもの微笑みだが、年齢以上に大人びていて、何と言うかとても……。


「綺麗だ」


 思わず僕は呟いた。


「……っ」


 わるこさんを見ると、彼女は俯いていた。やばい、怒らせちゃったかも。

 だが顔をあげた彼女の表情に僕は驚愕する。


「……良人くんのバカ」


 僕はその時の彼女の顔を一生忘れないだろう。口許を結び、目は珍しくこちらを睨んで、耳まで赤かった。


「あ……えっと」

「今日は一人で帰るから、バイバイ良人くん」

「う、うん。ごめん……」


 何とも言えない感情を抱えた僕は、なぜだか彼女に謝ってしまう。

 そうして僕が彼女の背中を眺めていると、わるこさんは振り返った。耳は相変わらず赤かったけど、表情はいつものわるこさんだ。

 彼女は僕に意地悪な笑みを浮かべて言った。


「また明日ね、良人くん」

「……うん、また明日!」


 その日は一人で帰ったのに何故か足が軽かった僕だ。


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