6 良人くん、私他の人を好きになることなんてないもの
「ねぇ、良人くん。私綺麗?」
高校生の時だ。学校帰りのある日、彼女は僕に訊ねた。まるで口裂け女の定型句のようだ、と僕は思った。
その頃の彼女はやはり破壊を止められない少女であり、そう言う人の事を人々は不良と呼んだ。
不良。良からず。≒悪い。高校生になっても彼女はわるこさんだった。
「突然どうしたの? 好きな人でも出来た?」
「そんなわけないわ。私は他の人を好きになることなんてないもの」
相変わらず彼女はぶっきらぼうに言う。こっちの目なんて一切見ないから、近付く男の子達は皆落ち込みながら去っていった。
「クラスメートが言うのよ、私の事綺麗だって。私自身綺麗になろうなんて思ったことないから、良人くんの意見を聞こうと思って」
「そうなんだ」
そこで僕も少しぶっきらぼうに返してしまった。高校生の僕は周りに比べればまだまだだけど、それなりの感情を獲得していたからだ。
そしてその時の感情を言葉にするのなら……そうだな。
「照れくさい?」
「うん。流石に僕も女の子に正面から綺麗だなんて言えないよ」
「……そう」
その時、彼女は嬉しそうに微笑んだ。言えないと言ったのに何故彼女はこんなにも嬉しそうなのか。
僕にはわからなかった。
「つまり私は、良人くんにとって正面から綺麗だなんて言えない女の子なのね」
「そうだよ…………うん?」
しまった、と気付いたときにはもう遅かった。彼女はクスクスと笑いながら嬉しそうに回った。
「良人くんがそうなら私はそれでいいわ」
「も、もう。やめてよ」
「いいのよ。だって私は正面から綺麗だなんて言えない女の子だもの」
「わるこさん!」
彼女は意地悪だった。とてもとても意地悪だった。物を壊しては喜び、誰かが損をすると嬉しそうに笑う。
今だって僕がこんなにも困っているのに、彼女はとても嬉しそうだ。
「ふふふ」
「…………」
何故かいつも少しの敗北感を覚える僕だった。