表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/23

3 わるこさん、君の傍が落ち着くよ

 彼女には友達がいなかった。

 当たり前だ。あんなことをする女の子、誰も近付こうなんてしなかった。


「ねえ、一人ぼっちって寂しくないの?」


 僕はそう訊ねたことがある。いつも一人でブロックを積んだり、砂場で山を作ったり。その背中は寂しそうにしているように、僕の目には、見えた。

 最後にはそれを蹴り散らしてしまうから、怯えて誰も話しかけなかったけれど。

 

「寂しくなんかないわ。一人でも」


 彼女はこれまたぶっきらぼうに言い放った。


「一人でもブロックを積める。砂を積んで山にできる。そしてそれを最後に壊すことができる」

「それって楽しいの?」

「楽しい……まあ、楽しいわ。あなたもやってみる?」


 僕はこの時、正直嬉しくなってしまった。あの彼女からの初めての誘いだったから。

 だから僕は二人で高いブロックタワーを積み上げた。


「おぉ……。これは楽しいね」


 僕は頑張って積み上げた二対のタワーを見て言った。


「楽しいのはここからよ。ほらっ!」


 そして彼女は僕の積んだタワーを蹴り崩した。……何とも言えない気持ちになる。

 初めから壊すつもりで作ったとは言え、これはなんと言うか……。


「私のも崩してみて」

「う、うん」


 僕は彼女に唆され、彼女のタワーを蹴った。

 タワーはバラバラと崩れる。

 何とも言えない喪失感だけが僕の心に残った。


「楽しいでしょ?」


 珍しく彼女は瞳の奥を輝かせて言った。その表情には意外性と共に、喜びを感じたが、遊び自体は……。


「……微妙」

「そ。分かり合えないのね」


 僕が言うと彼女は瞳の輝きを閉じ、またぶっきらぼうに言った。


「でも」


 僕は続ける。ブロックを持ってまた積み上げる。


「また高いブロックが作れる。君が壊したから僕はまた作ることができるんだ」


 そう言って彼女に笑いかけてみると、彼女も少し口の端を緩ませた気がした。


「あ、こういうのはどう? 僕が作るから君が壊すんだ。そしたらまた僕が作って、君が壊す」

「……いいわね。私壊すの好きだけど、自分が作ったのより人が作ったもの壊す方が好きだもの」

「…………うん、まあいいや。よし、作ろ!」


 正直彼女の言葉には頷きかねることが多かったが、それでも何故か僕は彼女の傍にいた。






 幼稚園では僕は彼女と共にいた。いつしか僕も彼女を『わるこさん』と呼ぶようになった。

 いつの間にか僕の一番の友達はわるこさんだったし、彼女の唯一の友達は僕だった。


 小学校に上がる頃、わるこさんは僕にいった。


「今まで色んな人と話すことがあったけど、これだけ喋れて楽しいのはあなただけよ」


 六歳児が何を言っているんだと僕は思ったが、この体の僕も六歳児だ。ややこしいことを言うのもあれなので黙って頷いておいた。


「僕も何故だか意地悪な君とずっと一緒にいるよ。自分でもわからないけれど、君の傍が落ち着くんだ」

「そ。私もよ」


 彼女はいつもぶっきらぼうに言う。僕なんかよりよっぽど感情がないんじゃないかと、当時の僕は思ったものだが、彼女の緩む頬は嘘をついていなかったと思う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ