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アビス・コーリング〜元廃課金ゲーマーが最低最悪のソシャゲ異世界に召喚されたら〜【Web版】  作者: 槻影
第五章 奔走する召喚士の物語

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特別短編:クリスマスイベント

メリークリスマス!


※短いですが番外編です。よくあるやつ(本編の続きではないのでいらない人は飛ばしてください)


「クリスマスだ……」


「え……っと。はい、そうですね……?」


 部屋の真ん中に置かれた中型のクリスマスツリーの飾り付けをしていたナナシノがきょとんとした表情で僕を見た。


 ツリーは宿の人がサービスで持ってきてくれた物である。中型といっても、ナナシノの背丈くらいの大きさはある本格的な品だ。

 まだクリスマスまでは少し時間はあるが、この時期、古都ではそこかしこにツリーが飾られるらしい。

 その言葉の通り、最近の古都はすっかりお祭りムードに包まれていて、依頼や買い物などで外を歩けば豪華な飾り付けをされたツリーやそれを楽しそうに見ているカップルの姿を見ることができる。


 そして、それは決して一般市民に限ったことではない。


 ギルドに行けば、召喚士の中にもサンタを模した衣装を眷属に施している者がちらほらいる。眷属をなんだと思っているんだとつっこみたかったが、その中の一人は何を隠そうナナシノであり、小さな赤い帽子をヘルムの上からかぶったアイちゃんが今もツリーの飾り付けを手伝っているのが見えた。


 一通り飾りをつけ終えたのか、満足げな様子でツリーを眺めながら、ナナシノが言う。


「しかし、この世界でも、クリスマスってあるんですね……」


 ないわけがない。確かにここは地球ではないが、ないわけがない。


 アビス・コーリングはソシャゲである。クリスマスもあるしバレンタインもあるしハロウィンもあるし、海の日もある。正月だってあるし、十五夜もある。世界観にあっているかは知らない。

 ゲーム内イベントは基本現実のカレンダーに沿って発生するが、たまに復刻という形で夏休みに正月イベントをやったりするので油断はできない。ちゃんと運営からのお知らせを見ておくように。


 周りの空気に触発されたのか、クリスマスが近づくにつれ、どこか浮ついている様子のナナシノにもう一度言う。


「クリスマスだ」


「? えっと……はい。クリスマスです。…………どうしたんですか? そんな真剣な表情をして……」


 真剣な表情……?


 自分の顔に触れる。そこでようやく僕は自分が硬い表情をしていることに気づいた。

 だが然もありなん。クリスマスは復刻されない限り一年に一回。真剣になるのも道理である。


「ブロガーさん、クリスマス……好きなんですか?」


「大好きだ。イベントが嫌いな人なんていないよ」


 参加するかどうかは本人次第なんだから、ないよりあった方がいいに決まっている。

 断言する僕に、ナナシノが笑顔になる。ちらちらと僕の顔を見ながら少し照れたように言う。


「えっと……実は私、当日、友達からクリスマスパーティに誘われてて…………その……もしよかったら、ブロガーさんも一緒にって――」


「断る」


「…………え?」


 ナナシノが目を少し見開き、僕をまじまじと見た


 ツリーのてっぺんで無意味に星をやっていたサイレントが目をぐるりと動かしこちらに向ける。


 クリスマスパーティに誘われるとか、相変わらずこの世界の生活を楽しんでいるようだ。

 そういうゲームじゃないんだけどなぁ。


「というか、ナナシノも断りなよ」


「え!? な、どうしてですか?」


 どうしてもこうしてもない。クリスマスパーティとか……まるで普通の人のクリスマスじゃないか。

 なにそれ、君アビコル舐めてんの? いや、別にいいけど。別にいいけどね、個人の勝手だから。でもおすすめはできない。


 深々と深呼吸をして、顔を上げナナシノを見る。ナナシノが少し身を引いたのに気づき、頬をもみほぐす。どうやらまた頬がこわばっていたようだ。


 冬本番。最近の古都は寒い日が多いが、今日は一際肌寒い。

 天気も悪く、ナナシノも今日は外に出るつもりはないのか、いつものローブとは違いカジュアルな格好だ。白のセーターにスリムなジーンズを履いている。

 どうせクリスマスならサンタコスしよう、サンタコス。ミニスカで、とか、パーティなんて行かずにデートでもしよう、とか、プレゼントはいいからサンタの格好して夜這いして欲しい、とか、言いたいことは色々あるが、まぁそれはさして重要じゃない。残念ながらそんなことしてる暇もない。


「クリスマスは……遊びじゃないんだ」


「……へ? え!? ど、どういうことですか?」


 一度咳払いし、僕はナナシノに宣言した。


「イベントだ。なんのために古都に戻ってきたと思ってるんだよ。サンタ狩り行くよ、報酬目指して徹夜で周回だ。ちゃんと準備しておいてね。いやぁ……滾る……滾るぞ」


 なんたってこの世界のAIは高性能だ。無意味に頭の悪い眷属たちに苛まれることはない。新記録が狙えるとなれば、どうして興奮せずにいられようか。


「ちょ……え? さんた狩り? さんたって――え? ええ? ちょっと、待って! どういうことですか!?」


 ナナシノが目を白黒させる。

 この世界には慣れてきたようだが、ソシャゲー初心者なのは変わりないようだ。

 なんと答えるべきか……そのまんまなんだが。確かに何も知らなければサンタ狩りは違和感を感じるかもしれない。


「えっと……アビコルのクリスマスは【サンタ・フォレスト】でブラックサンタを狩るんだよ。その数によって色々アイテムがもらえたりする。まぁよくあるタイプのイベントだ。あ、ブラックサンタに混じったホワイトサンタを倒しちゃうと減点されるから気をつけてね。クソAIめ、勝手に攻撃しやがって。死ね」


 小さな差異はあるが、竜神祭と似たようなイベントだ。

 システム手抜きである。でもいいのだ、差別化は報酬の差でなされている。それでいいのだ。多くは望まない。サンタがいるからそれでいいのだ。

 端的に教えてあげた僕に、しかしナナシノが食い気味に捲し立ててくる。


「ブラックサンタ!? よくあるイベント!? ホワイトサンタ!? え? クリスマスってクリスマスですよね!? ケーキ食べたり、ツリー飾ったり、パーティとかしたり…………あ、あとは、好きな人と、デートとか……わ、私、ブロガーさんに、プレゼントとか、用意したり……」


「やれやれ、またそんなこと言って……」


 ナナシノの言葉が尻すぼみに消える。黙ってしまったナナシノの肩を叩き、僕は満面の笑顔で言った。


「ナナシノ、現実を見ろよ。それは――リアルでやれ」


「!?」


「ななしぃ、かわいそう。まぁ、我はいま、ほしだから何もわからないけどー」


 クリスマスはクリスマスイベントがあるからクリスマスなんだよ。

 サンタ狩らなければクリスマスに価値なんてない。いやぁ、楽しみだなぁ。

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昏き宮殿の死者の王
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