第九十三話 パスピ姉妹
空は晴天、水平線から上る太陽が街を照らしていく。昨晩あった騒動は街までは届いていないようで、今日もいつも通りの日が始まる。いつも通りじゃないのは私たちだけ。
「まさか神の力までコピーすることが出来るなんて」
ディアンが小さく息を吐いた。腰に手をやったディアンの向かいには、同じピンクの髪、ピンクの瞳の白衣の女性――まさしくディアンがいた。悪魔が化けたディアンは照れくさそうに頬を掻いた。
「オイラだって、ここまで出来るとは思わなかったよ。第一、神の使徒ってホントの話だったんだな。ただの空想だと……」
「魔王が絶対的脅威じゃなくなったら困るからな。ボクらは別に、魔王を殺す気なんてさらさらないのに」
ベラが呆れたように溜息を吐く。けれど、女の子のような顔をした彼はくすんだ赤い髪をしている。
――彼は違うのかしら?――
「コピーできたとはいえ、やはり本物の神の力には遠く及ばないな。奇跡の名医も腕が落ちたといつか言われるぞ」
「大丈夫ですわ。それまでにきっとこの島を綺麗にしてみせます」
私は拳を握った。誰でもない、私自身に誓う。この島はきっと元に戻せる。ニセ腐王の瘴気は、ベラ曰く本物には遠く及ばず、徐々に毒気は収まっていくらしい。土に染み込んだ毒素も、二年もすれば綺麗に生まれ変われる。もう何も出来ない自分に怯えるのはやめた。
「本当にいい顔になったわね、メリー」
「え?」
本物のディアン姉さんがそっと私の頭を撫でた。
「い、いつまでも子供扱いしないで!」
その手を振り払うと、ディアン姉さんはくすくすと笑う。
「どれだけ大きくなっても、いつまでもメリーは私の大切な妹だから」
笑顔が眩しすぎる。きっと朝日のせいね。
「元気でいてね!」
手を振ってディアン姉さんは森に消えていった。もう昔のようにふらっと帰ってきたりはしないだろう。はらりと涙が零れた。