第八十五話 城の主
薄暗い階段を下にくだっていたはずなのに、気がつけば長い廊下の一本道に出ていた。ガラスが粉々に砕けた窓から見える景色は、どう見ても地下じゃない。
「この廊下、坂道にでもなってるのか?」
箒から降りて床を踏み鳴らしてみてもいまいち納得がいかない。それほどこの廊下は長く、緩やかに上へと伸びているようだった。ディアンは、アルは地下にいると言っていたからどこかで道を間違えたのだろう。引き返せばいいのだが、この廊下がどこに繋がっているのかが気になって仕方がない。
「上に行くってことは普通、ラスボスだよな」
あたしはニヤリと笑った。魔物たちがアルをどうしようが、頭を叩けば蜘蛛の子を散らすようにいなくなるだろう。少しはベラに追い付けるかもしれない。
「そうと決まれば善は急げだ!」
あたしは箒に飛び乗って、長い廊下を全速力で駆け抜けた。
長いこと進んだ廊下は、重々しい扉の前で途絶えた。
「何が出るかなー!」
不安を払拭するようにわざと明るい声を出して扉を開く。ドキドキとしながら中を覗くと、広い部屋の奥に佇む人影が目に入った。異様に細長いシルエットにドキリとする。
「……誰だ?」
影が振り返った。私は味方を装って近づく。
「急な訪問失礼します。こちらの主様を訪ねたのですが、道に迷ってしまいまして……」
「下卑た魔女め。我がこの城の主だ」
見下した態度にムッとするも、不意に鼻をついた異臭に顔を顰める。まるで腐った肉を何日も放置したかのような、強烈な腐敗臭が漂う。臭いの元はラスボスだった。
「侵入者め! 我が名を冥土の土産に持っていくがいい」
鼻を抑えながら必死に攻撃を避けた。敵の背後に回ったことで、逆光で見えなかった姿が浮かび上がる。その姿に私は足が竦んだ。細長い体に身長の半分ほどある長い爪、ボールのように丸い頭に虚ろな瞳。
「我は腐王。魔王に仕える十二幹部の一人!」
魔族としてのレベルが違いすぎる。適うはずがない。
振り下ろされた爪にあたしは死を覚悟した。