第八十二話 魔物
衛兵達はただの人間だったようで、あっという間にノされた。そんな彼らを足先で突っつきながら、フラッシュはつまらんと吐き捨てる。
「これだけか? 弱いな」
「そんな言い方したら、本当に悪い魔女みたいね」
「魔女に良いも悪いもないと思うがな」
フラッシュは悪そうな顔で笑った。もしかしたら本当に悪い魔女なのかもしれない。
「急ぎましょう! 男の衛兵は雑魚中の雑魚よ。魔物の衛兵が出てきたら厄介だわ。アルさんは多分地下牢にいる」
先導する私のあとに続きながら、フラッシュは顔を顰めた。
「魔物? 魔物がいるのか? ここは人間の国じゃないのか!? 国王は人間なんだろ?」
「うん、多分ね。窓からチラッと見ただけだけど……」
朧気な記憶を辿りながら地下牢に続く階段を駆け下りる。
「でももしかしたら、国王は成り代わられているかもな。魔物は人間なら無差別に食う、胸糞の悪い奴らだから」
フラッシュは苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
「本当にそうだとしたらまずいわね……行方不明になった男達は、食われていたのかもしれないわ!」
「くそっ! 先行くぜ!」
フラッシュは箒に乗って飛んで行ってしまった。
「待って! 地下牢への道は右に曲がらないといけないのよ!!」
叫びながら転がるように駆け下りたけれど、分かれ道のどちらにもフラッシュの姿は見つけられなかった。仕方なく私は真っ直ぐ地下牢を目指す。
「いたぞ! 侵入者だ!」
「み、見つかった!」
地下牢への一本道の向かい側から魔物の衛兵がゾロゾロと現れた。慌てて引き返そうと向きを変えるものの、来た道からも衛兵達が顔を出した。挟み撃ちにされてガックリと肩を落とす。腐った死体のような死臭が漂ってきて顔を顰めた。
「仕方ないわよねぇ……」
小さく呟いて拳を握った。カシャリとガントレットが小さく音を立てる。そして力一杯地面を砕いた。