第七話 神の御子
島を出てしばらくすると、ずっと叫び続けていたアルが急に大人しくなった。やっと落ち着いたかと一安心する。正直言って、人を抱えて飛んでいる上に暴れられたらたまったものじゃない。もうクタクタだ。どこかで休めないかと辺りを見回しても、一面真っ青な海が広がるだけで、島も船も影も形もない。
「ねえ、君は誰? どうして僕の名前を? 神族って何? その翼は?」
いきなり質問攻めに遭った。めんどくさくて小さなため息が漏れる。どう言ったら手短に分かりやすく伝えられるか。
「ボクの名前はベラだ。それと……キミは女神伝説を知っているか?」
「知ってるよ。人間を守っていた女神が魔王に殺される話」
「まあ、間違っちゃいないが……」
あの話を知っていたら説明がだいぶ楽になる。
「その話は実話なんだ。それで、女神に力を分け与えられた一族は『神族』と呼ばれている。その中で女神が予言したように力を濃く受け継いだ者たちのことは『神の使徒』と呼ばれる。ここまでは分かるか?」
アルは小さくうなずいた。そのとき丁度海面に浮かぶ小舟を見つけた。漂流でもしたのか誰も乗っていない。もうだいぶ疲れていたから、迷わずアルを降ろし、ボクも縁にもたれかかるようにして座った。翼を背中に仕舞う。アルは少し驚いて、それ以上に話の続きがが気になるのか、それで? と首を傾げた。
「僕や君が、その神の使徒ってやつなのかい?」
「使徒は他にもたくさんいる。ボクは翼の能力を受け継いだからこの翼が生えている。ただしキミは特別なんだ、アル。キミは女神の力を受け継いだ使徒じゃなく、女神の生まれることのなかった御子の生まれ変わりなんだ」
アルは少しだけ呆然としたが、すぐにこの海原に響き渡るほどの大きな声で叫んだ。