第七十八話 よし
ポカポカと春の陽気のように暖かく気持ちいい感覚にぼんやりと意識が浮上すると、懐かしいピンク色が視界に入ってきた。
「あら、起きた?」
ディアンがニッコリと笑って前を向いた。揺れる体に歩いているのかとボーッと考える。そして自分がディアンに抱きかかえられていることに気付いて慌てて体を捻った。
「ちょ、暴れないで!」
「降ろせ! 自分で動ける!」
けれど、いくら暴れてもガッチリと掴まれたディアンの腕からは抜け出せない。馬鹿力め! と毒づいてぐったりと力を抜いた。その瞬間グワンと頭が揺れて顔を顰める。
「ほら見なさい。もう少し休んだ方がいいわ」
ディアンの口調は真剣で、いつものようにスキンシップもしてこないから、結構やばい状況だったのかと察する。流石に連続して魔力を使いすぎたようだ。一回港で目が覚めてから記憶が無い。
「ボクは気絶してたのか? どれくらい長く?」
「そんなに長くない。やと起きたと思った矢先、急に倒れられたのには流石にビックリしたが……」
ディアンの後ろからフラッシュがひょっこりと顔を出した。
「気絶してたのは五分くらいだ。今王宮に向かってる」
「王宮? なぜだ? いや、それよりもアルを探さないと!」
「ああ、だから王宮に向かってる」
噛み合わない会話に眉間にシワを寄せると、フラッシュは楽しそうにニコッと笑った。ディアンもその笑顔をボクに向ける。
「私に心当たりがあるから。でも先に私の診療所に寄るね。ベラを寝かせてあげたいから」
「ああ、賛成だ」
フラッシュは急に真面目な顔付きになって頷いた。
「ハァ!? そんな必要はない!」
他人に心配される覚えはない! と怒鳴りつけるとディアンは少し眉を下げた。フラッシュは悲しそうに笑ってそっとボクの頭に手を添える。
「よし。寝ろ」
怒ったようなフラッシュの声を聞きながら、ボクの意識は沈んでいった。