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パンドラの箱  作者: 傘屋 佐菜
男子禁制の島
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第七十七話 ディアンとベラ

「神の使徒? それは都市伝説だろ?」

そう言ってフラッシュは鼻で笑った。私は思わず苦笑する。この魔王政権において、天敵の女神のことや神の使徒の存在は抹消されている。古い絵本の主人公にされた事もあるけれど、当然今は絶版になっている。名前を知っている者も少なく、さらにその存在を信じているなんて者は一握りしかいない。

「そうね……でも、都市伝説が嘘だとは限らないんじゃない?」

「……まあ、うん。そうだな」

フラッシュは納得したように呟いた。それにしても、ベラは相変わらずいい筋肉をしている。ムキムキではないけれど、小さい割にはしっかりとついていて最高の手触りだ。ひっそりとコートの間から忍ばせた手は胸筋を擦る。それ程厚くはない胸板だけど、見た目にしてはガッチリしていてなかなかクる。腹筋も微かながらも6つに割れているのがまた最高で……!

「……うっ、んー?」

ベラの呻き声にハッとして私は手を止めた。顔を覗き込むとゆっくりとベラが目を開ける。まだ寝惚けているのかぽやぽやとした表情で私をじっと見た。すごく可愛い。

「やっほー! 久しぶり」

挨拶と一緒に胸をひと撫でするとベラは急に意識がハッキリして、青ざめた顔で私を引き剥がそうとした。けれど、まだ力が入らないのかその手は弱々しい。私は仕方なく背に腕を回して優しく抱きしめた。

「はいはい、落ち着いて。もうちょっと……」

優しく背中を撫でてやるとベラはフルリと首を振った。

「もういい。もう大丈夫だ」

「まだまだ……」

「もういいって!」

今度こそベラに突き放された。もう少しベラに触っていたくて、名残惜しく手が宙を彷徨う。

「ベラ! もう大丈夫なのか?」

フラッシュが心配して間に割って入ってきた。ベラはフラッシュと私を交互に見て、なるほど……と唸った。

「フラッシュ、ありがとう。でも、コイツ以外に医者はいなかったのか?」

ビシッと私を指差すベラにフラッシュは首を傾げる。私はクスクスと笑って気分はどう? と聞いた。

「……最悪だよ。お前なんか会いたくなかった。この変態!」

キッと睨む赤と黄色が混じったベラの瞳を、懐かしいと思いながらうっとりと見つめた。

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