第七十五話 闇の中の牢屋
ハッと気が付いて顔を上げると、薄暗い部屋にぼんやりとろうそくの火が灯っていた。だんだん闇に目が慣れてくると、そこがただの部屋ではなく牢屋だということに気付く。地下なのか洞窟なのか、壁には岩肌がのぞき、ヒヤリと冷たい雫がぽたぽたと落ちてくる。ヒャッと身を震わせると、ジャラリという無機質な音が聞こえた。よく見ると、僕の足には足枷が嵌められていた。気絶する前の武装兵たちの会話を思い出して背筋が凍った。ジャラジャラと煩い鎖で繋がれた足を引きずって牢屋の柵に縋り付く。外も薄暗くて、ろうそく1本の灯りじゃ到底何も見えなかった。
「ベラー! フラッシュー! 助けてー!!」
ビクともしない柵を揺すりながら必死に叫んでも、その声はどんよりと闇に沈んでいく。耳を突くような静けさに涙がこぼれた。
「泣いても叫んでも、助けは来ませんよ」
突然聞こえた声に僕は飛び上がった。無様に腰を抜かしながら声のした方を振り返ると、牢屋の隅に丸まった人影があるのが見えた。
「あ、あなたは……?」
目を凝らしなが近付くとその人影はそっと立ち上がり、まるでお嬢様のような優雅な仕草でペコリとお辞儀した。
「汚い身なりで申し訳ありません。私はメリー。この国の元王女でございました」
薄ピンクの長い髪を一つにまとめ、所々破けた白いワンピースを着た女の人は悲しそうに目を伏せた。