第七十四話 港へ
「おい! 待てよ!」
後ろからフラッシュが呼び止める声が聞こえるけれど、そんなことなど気にも止めず私は私は必死に足を動かした。長いこと走ったせいで息切れもしてきたし、だいぶペースも落ちているけれど、足を止めることは無い。一刻も早くベラの所に行かなくては!
「待てって!」
グイッと肩を掴まれ思わず立ち止まった。
「何よ! 私は急いでるの!」
焦りと苛立ちを含んだ声で怒鳴ると、フラッシュは箒から降りて私の行く手を阻んだ。
「どこに行く気だよ。船着場はこっちじゃないぞ」
「ええ、わかってるわ。だから、港に向かってるんじゃない。どいてよ」
私はフラッシュを押し退けて早足で歩き出した。それに並んでフラッシュは港? と首を傾げる。
「そうよ。街の正面にある船着場は停泊はできないの。島に来た船はあそこで入国審査を受け、男どもの乗った船は西岸の入江の港に移動させられるの」
フラッシュはなるほどと相槌を打った。少し呼吸が落ち着いてきたから、私は歩くペースを早める。
「早く行かなきゃ……ベラのことだけじゃない。あの港から生きて帰った者はいない!」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
この男子禁制の島を訪れた女性は皆、すっかりこの島に居着いてしまう。そして港に案内された男性は二度と戻ってこない。島を出た船も見たことがない。国王様が男を食らう化け物だなんて噂も流れるぐらいだ。入江の港は立ち入り禁止になっているのだけれど、この際ハッキリと真実をこの目で見たい。
「おい、どこまで行けばいいんだ?」
歩き疲れたのか、箒にまたがったフラッシュが目を凝らして遠くを見つめながらボヤいた。私たちが進む道は数メートル先から森に入り、補正された道もなくなる。薄暗い迷いの森を抜けたら大きな崖があり、その遥か下に港はある。その事を説明するとフラッシュは露骨に嫌そうな顔をした。
「だから急いでるのよ!」
「……わかった」
フラッシュは小さく頷くと、駆け出した私の腕を掴んだ。
「な、なに?」
「飛ぶからさ、少し大人しくしてて」
そう言われるなり、私の体はガチッと動かなくなった。まるで自分が小さくなったみたいにフラッシュの腕に抱えられている。状況がよくわからないまま視界は空高く舞い上がり、あっという間に森も崖も通り過ぎて、岩に囲まれた入江が見えてきた。