第七十一話 ディアン
ディアンと名乗った女は風に白衣を靡かせながら歩いた。スタスタと診療所を後にする背にあたしは問いかける。
「ちょっと待てよ。どこいくの?」
「どこって、患者のところでしょ? 急患なら急がなきゃ! ほら早く!」
ディアンはあたしの手を引いて走り出した。
「だから待てって! あんたが医者か? あたしはDr.ピンクに用があるんだ」
するとディアンは立ち止まって振り返った。頬を膨らませて、何かぷりぷりと怒っている。
「その呼び方嫌いなの。私はDr.ディアンよ! たしかに髪はこんなピンク色だけど……ここじゃ珍しいからって、色で人を呼ぶなんて失礼でしょ! ……って、あなた私のこと知らないの? 結構有名になったと思ったのだけど」
首を傾げるディアンにあたしはだって、と返した。
「だってあたし達、この島の外から来たんだから」
「島の外!?」
あたしの言葉にディアンは食いついた。子供のようにキラキラと目を輝かせながらいいなぁと呟く。
「なんだ、あんた海に出たいのか?」
「もちろんよ! 私冒険大好きなの。あーまたベラと冒険したいなぁ」
その言葉にあたしの耳はピクリと反応する。
「ベラ? あんたベラを知ってるのか?」
「えっ、知ってるわよ。だって私たち少し前まで一緒に冒険してたんだもの。ある日ベラが突然いなくなってそれっきり……」
「ベラなんだよ!」
あたしはディアンの言葉を遮った。
「その急患ってのはベラなんだよ! 魔欠みたいなんだ。治せるか!?」
「えー!?」
ディアンはあたしの肩を揺さぶりながら叫んだ。
「違う! ベラの病気は魔欠病じゃないわ!!」
「えー!?」
今度はあたしが驚いて叫んだ。