第六十六話 ベラの悪夢
「これは夢だ。夢なんだ!」
ボクは自分に言い聞かせるように叫んだ。これは夢だから早く目を覚まさなければ……なのにボクは目の前の光景に目を奪われて身動きもできない。
ボクの目の前で幼いボクは扇子を振りかざした。小さなボクの足元には恐怖に顔を歪めたお母様が倒れている。
「……お母様、今殺して差し上げます」
小さなボクは嬉嬉として言った。この頃のボクは何も知らず、ただお母様を助けたかった……力になりたかった。だから、お母様が呟いた死にたいという言葉を真に受けて、こんな取り返しのつかないことを……!
「やめろ! もうやめてくれ!!!」
目を閉じてその光景から目を逸らしたいのに、体は全く言うことを聞かず、食い入るようにソレを目に焼き付ける。
舞うようにお母様を切り付ける幼いボク。血飛沫を上げながらゆっくりと倒れるお母様。
「お母様! 死なないでお母様!!」
ボクは必死に叫んだ。今見ているこれは夢だし、どれだけ足掻いても変えられない過去だということは頭ではわかっている。けれど、叫ばずにはいられない。未だに目を逸らすことも、お母様に駆け寄ることもできず、無様にボクは咽び泣く。
「……ごめんね」
お母様はそう言い残して息を引き取った。その瞬間に世界は暗転し、真っ暗闇の中をボクは落ちて行く。
「お母様、きっと生き返らせてあげます!」
夢から覚めたら早くパンドラの箱を探さなければ! なんでも願いを叶えてくれるあの箱を!