第六十三話 魔欠病
「マケツって何?」
そう聞き返す僕の声は少し震えていた。ベラが死んでしまうかもしれない。一緒にいたいと思った矢先に……
「魔力欠乏症、通称魔欠病。生まれつき魔力の絶対量が少なくて体が弱く、長くて5歳までしか生きられない病気だ。原因不明の病気で、薬もない。不治の病だ」
ウェンディもそうだった、と小さな声で付け足したフラッシュの言葉に僕は首を傾げた。僕が知っているあのウェンディは、病気なんて吹き飛ばすくらい元気で明るい子に見えた。
「ねえフラッシュ。ウェンディも魔欠病だったの? でもあの子は7歳くらいに見えたんだけど? 治す方法があるの?」
僕の言葉にフラッシュはくっ、と歯を食いしばった。何かとても悔しそうに舌打ちをする。
「話は後だ! 先にベラを船内に! 魔欠病患者に日光は毒だ」
「あ、う、うん! わかった」
僕はベラを抱えて操舵室に入った。ベラは想像以上に軽くてギョッとしたが、病弱ならこういうものなのかもしれない。それにしても軽すぎるけれど……
操舵室は一角だけ窓が付いているから、ここを隠してしまえば陽の光が当たることもないだろう。そう思ってベラを床にそっと置いて窓を見た僕は、あー! っと声を上げた。どうした!? とフラッシュが慌てて中を覗く。僕は窓の外を指差した。
「島が見えるよ! あそこで医者を探そう!」
ベラが治るかもしれない!
けれど、フラッシュは顔を伏せてしまった。どうしたの? と顔を覗き込むと、フラッシュは泣きそうな顔で首を左右に降った。
「無理なんだ……魔欠は若い人間の笑気を魔力に変えた飴を摂取し続けることで、何年もかけて治すしか治療法がないんだ。そして、笑気を魔力に変える機械は政府が所有している。あたし達はウェンディのために1個盗んできたんだけど、それはあの島に置いてきた……島に戻っても笑気を集める方法がない! それにあの機械はもう壊れかけていて、直し方はわからないんだ!」
無理なんだよ! とフラッシュは泣き崩れてしまった。僕も泣きそうになるがグッと堪えて自分の頬をパシッと叩いた。
「まだ諦めないでよ! 僕達が諦めちゃったらベラは死んじゃうよ! そんなの嫌だ!」
フラッシュは驚いた顔で僕を見上げる。
「もしかしたら治す方法が他にもあるかもしれない! 優秀な医者があの島にいるかもしれない! 可能性がゼロじゃないなら、僕は諦めない。諦めたくない!」
その言葉にフラッシュはハッとして、涙を拭って立ち上がった。
「そうだな! あたしも諦めたくない!」
ありがとう、と頭を撫でられ、また泣きそうになってしまった。
「さて、帆をたたんでくれアル。あたしの魔法で超特急で行くよ!」
「うん!」