第六十二話 熱
ベラは数分で帰ってきた。手に持った魚をホラと言ってアルに投げる。慌ててキャッチしたアルはあちっ! と言って取り落とした。海に落とさなくてよかったとホッとする。見ると、その魚は焼いてあってまだ湯気がたっていた。
「ベラ、この魚どうしたんだ?」
漂っていた小枝に焼き魚を刺しながらそう訊くと、ベラは船に降りて翼を仕舞いながら短く、捕ったと返した。焼いてあるのはベラの魔力だろう。
「おいしー! ありがとうベラ!」
アルは早くも魚を頬張っていた。あたしも早速いただく。味付けも何もしていないが、絶妙な焼き加減で魚の美味さが引き立っている。ベラは案外料理のセンスがあるのかもしれない。
「ベラは食べないのか? まだ残ってるぞ」
こんなに美味しいもの、焼きたてのうちに食べた方がいい。そう思ってベラにも魚を差し出したが、無視された。ちょうど操舵室の影になっていて顔はよく見えないが、どうやら寝ているらしい。
「ベラ? 大丈夫?」
心配したアルが顔を覗き込み肩を揺らした。そういえば、島を出る前からなんだか顔色も良くなかったし、もしかしたら疲れているのかもしれない。
「寝ているんだろ? そっとしといてやろうよ」
食べ終わった魚の骨を海へ放り捨て、あたしも寝ようと船に寄りかかった。でも! とすごく不安そうな顔でアルがあたしを見る。
「ベラ、すごい熱だよ!」
その言葉にあたしは跳ね起きた。駆け寄って見ると、ベラは荒い息を吐き、頬を脂汗が伝っている。おでこを触るとたしかに熱い。この症状をあたしは知っている……!
「これ……まさか魔欠!?」
あたしは戦慄した。