第五十九話 勝手にしろ
「……勝手にしろ」
ベラはそう言ってそっぽを向いてしまった。ちょっと強引すぎたかと反省するけれど、理由もないのに断り続けるベラが悪い。
「ま、そう言うと思ったよ。ほら!」
フラッシュが持っていた箒を1本、ベラに向かって投げた。ベラはこっちを見ずにパシッと掴む。僕はおお! と感嘆の声を上げた。
「無理強いした代わりと言っちゃなんだが、その箒やるよ。ずっと飛びっぱなしじゃ疲れるだろ?」
ベラはフラッシュを見て冷たく、別に……と返したが、やっぱり疲れているのか少し顔色が悪い。
「船も出してやるよ。小船だけどね。あたしとベラは飛べても、アルは人間だから魔法は使えないだろ?」
フラッシュが僕を見てバカにするように笑ったが、もっともなのでぐうの音も出ない。僕は神の御子らしいけれど、ベラみたいに翼が生えてる訳でも炎を出せる訳でもない。ただの人間と何ら変わりはない。
「船があったら助かるよ。ありがとうございます、フラッシュさん」
「やめてよ、敬語なんて。そんな柄じゃないし、普通にフラッシュでいいよ。これからよろしくなアル」
「はい! よろしくお願……よろしく!」
差し出されたフラッシュの手をぎゅっと握る。フラッシュはうん! と満足そうに笑った。
「……勝手にしろ」
ベラはすごく不機嫌そうにぼやいた。