第五話 神族
振り返った僕は大きな悲鳴を上げた。そこにいた人は、真っ黒なぼろ布のマントに身を包み、顔がわからないほど目深にフードをかぶっていた。たとえそれが僕の知っている人だったとしても、僕は同じように叫んでいただろう。その人は大きくため息をついた。
「喚くな。まだ上に奴がいる。聞こえてしまうだろう?」
そう言ってその人は、マントの袖にすっぽりと隠れた手で僕の口を塞いだ。僕はさらにパニックになり、逃げようと必死に暴れる。マント越しに手を噛むとその人は手をひっこめた。その瞬間、僕は全力で逃げ出す。運のいいことに僕は逃げ足だけには自信があった。あっという間にその人は見えなくなった。
「なんだったんだ、あの人は……」
そう呟きながら前を向いた瞬間、目の前に大きな斧が落ちてきた。
「ぎゃああああああ!!!」
斧が刺さってコンクリートの地面にひびが入る。ギリギリのところで当たりはしなかったが、僕の心臓はバクバクと大きく脈打つ。一瞬で腰が抜けてヘタリと座り込んだ。斧が持ち上げられるのに連れられて顔を上げると、新月の闇の中に立つ角の生えた大男と目が合った。僕はまた叫んだ。
「てめぇ……なんで気付いた? 完全に気配を消していたってのに、てめぇ、避けやがったな? てめぇがあの、神族か。胸糞わりぃ! 殺す殺スコロス!! 神族は皆殺しだぁ!」
男は叫びながら斧を振り下ろした。僕は恐怖で体が固まって動けない。それでも声だけは出続けた。
「ぃやああああああああああああああああああ!!!!!!」
目の前に斧が迫った瞬間、僕は死を覚悟してギュッと目をつぶった。