第五十五話 潮風の話
魔女の女の子は涙目で私を見上げている。
強くなりたいだって……どうしたらいいって……そんなの私が訊きたい。私が誰よりも強いと思ってた。霧の魔女に弄ばれて、ベラさんに一矢報いることもできなくて。私は全然強くない。もっともっと強くなりたい。
「……じゃあさ」
私は空を見上げた。青く澄み渡る空は、私の大好きな海と同じ色をしている。
「私と一緒に……海軍入る?」
「海軍?」
魔女の少女は首を傾げた。同時に私も首を傾げた。
何を言っちゃったんだろう私は。つい口をついて出た、海軍という言葉……私が目指していた、大きな世界。そうだ、私は海軍に入りたくて島を出てきたんだった。
「そう、海軍。海軍にはいっぱい強い人がいるらしいの。そこでトップになるのが私の夢」
「強い人が……いっぱい」
私は少女にそっと手を伸ばした。
この魔女たちはまだ少し怖い。でも、悪い人たちじゃない。きっと。
「お姉ちゃんの手ってひんやりしてて気持ちいね!」
その声でハッとする。少女の緑の髪はサラサラしていた。
「私はアクア。水の魔力を使う人魚よ。よろしく」
「私ウェンディ! 魔力はえっと……風だよ! よろしくね」
爽やかな潮風が頬を撫でた。