第四十九話 お前は弱い!
脱ぎ捨てる勢いで風を孕んだマントで、一瞬アクアの視界から外れた時から、既に勝負はついていた。アクアは幻影のボクに気付かず、当たるはずもない攻撃を繰り出す。
「弱いな……」
小さく呟いてため息をついた。さっきからずっと真後ろにいるのに、アクアは呟きにさえ気付かず幻影を攻撃し続ける。"海坊主"が壁になって"蜃気楼"が消えたのを潮合に、ボクはそっと近づいて、アクアの耳元で意地悪く囁いた。
「ボクの勝ちだ……最初からな」
バッと振り返って目を見開くアクアが滑稽で、ボクはクックッと喉を鳴らした。
「さっきからお前が攻撃していたボクはただの幻だ。本物のボクはずーっとお前の後ろにいたのに、ちっとも気付きやしない。お前の負けだ。ボクが敵だったら、とっくの前に死んでたぞ」
よかったな、と言って手をヒラヒラと振った。アクアは愕然として崩れ落ちる。ボクはまたからかう様に笑って、ワナワナと震えているアクアをそのままに、甲板に向かって飛んだ。
「クソーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
空気がビリビリと震えるほどのアクアの叫び。ボクは船首に座ってアクアを見下ろした。
「お前は弱い!」
トドメとばかりに冷たく言い放つ。
今のアクアはたしかに弱いが、伸び代はある。負けを知り、絶望しなければ強くなんてなれない。アクアはきっとボクを越えようと強くなるだろう。
ボクは声を殺して笑った。