第四十話 大切なお姉ちゃん
勝負は一瞬でついた。
私たちの横をすごい勢いで通り過ぎた魔女たちが霧を出し、ベラさんと魔女たちを包み込んで私たちの視界から消えた一瞬、ガス爆発のような炎が吹き上がり、霧が消えると黒焦げになって倒れた魔女たちと1ミリも動いていないベラさんがいた。
ベラさんは深くため息をついて呆れるように言った。
「お前たちがボクに勝てるわけないだろう?」
そしてベラさんを怯えた顔で見上げるウェンディの頭を撫でて、無表情のままごめんと謝った。魔女たちを流し目で見ながら低い声で言う。
「お前たち、目的が変わってないか? 元はウェンディを生かすのが目的だったんじゃないのか?」
光を受けて紅く光る瞳に、私は背筋が凍りつくのを感じた。無表情に見えて、ベラさんは今すごく怒っている。
「ウェンディは生まれつき魔力が少なく体が弱い。だから、元気にするために人間の笑気を集めた。妹思いのいい姉じゃないか。なのにお前たちは……!」
魔女たちがビクッと肩を揺らした。気絶したフリをしていたらしい。それにしても、さっきまで真っ黒だったのに、もう元に戻りかけている。初めから煤が付いてただけのように、魔女たちが体を起こすにつれて、黒いものがハラハラと落ちていった。
「お前たちは、笑気を集めることに必死になりすぎた。もうウェンディは一人前の魔力を有しているというのに、目的は果たしていたのに……次から次へと人をさらって来て、離れ離れにされた家族の気持ちを考えたことはないのか!!」
ベラさんが喝を入れると、魔女たちはしゅんと項垂れた。ウェンディがベラさんから離れて魔女たちを庇うように手を広げる。
「お、お姉ちゃんたちをイジメないで! お姉ちゃんは私のために必死になってくれたの! 怒らないで……」
最後は声が震えていた。それでも泣きじゃくる様子はなく、毅然とベラさんを見上げている。なんて健気な子だろう。私はベラさんに駆け寄って、もういいじゃないですかと諭した。ベラさんはまだ怒りが収まらないのか、私をあの怖い瞳で見ていたが、フッと顔を逸らしてそうだな、と呟いた。