第二十五話 ようこそ
「おいおいどうした。何で泣いてる。ここは楽園だぞ? 逆だ、喜べ」
お面の人は僕の涙を手で拭った。
「……あ、すいません。ありがとうございます」
「礼なんかいいさ。笑え笑え。ここは楽園だからな」
「そうさ、笑いな新人」
「よう、新入り。お前結構若いな」
いつの間にか、周りに人が集まって来ていた。女の人が僕の手を取って立たせる。不思議そうな顔で僕の髪をジッと眺める。
「あなた島の外から来たの? 見たことない髪の色ね。大変だったでしょう。もういいのよ、苦労なんかしなくて。ここでは誰もが楽しく笑っていられるわ」
「ほらこっちだ。丁度新しい家ができたばっかなんだ。お前の家だったんだなぁ」
「あ、いやあの……僕は、別に」
「遠慮しなくていいのよ。ここでは好きなことを好きなだけしていいんだから」
桃源郷の住民たちが僕の背中をぐいぐいと押す。いつの間にかお面の人はいなくなっていた。
「ぼ、僕は一緒に居た人が……」
「あら、お仲間がいたの? でもね、今はまだこの街には子供を遊ばせる場所や、老人ホームなんかはないの。あなただけ連れて来られたってことは、お仲間は子供かお年寄り?」
「まあ、見た目は子供ですけど……」
月明かりに照らされた、小さなベラの背を思い出した。あの我の強い少女は無事だろうか。あの島にはまだ魔物がいるはずなのに……
僕は小さくため息をついた。