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パンドラの箱  作者: 傘屋 佐菜
悪魔の島
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第十四話 霧の島

宿屋を営んでいるという親切なおじいさんは、私たちをタダでその宿に泊めてくれた。ずっと夜みたいに暗いせいで、はっきりとした時刻が分からない。宿には、なぜか時計が一つもなかった。用意された部屋は、まるで私たちが来るのを待っていたかのように、完璧に整理されていた。私は、船に乗せていた着替えなどの荷物をベットの隣に置いた。初めてフカフカのベットに触った、と大はしゃぎしているアルさんを横目に、私は財布を取り出す。

「アルさん。あなたの服を買いに行きましょう」

「ありがとう、アクアさん」

アルさんは姿勢を正して、ペコリとお辞儀をした。綺麗な甘栗色の髪が少し揺れる。私はドアに近付きながら、背中越しに言った。

「アルさんはこれからどうするんですか?」

「どうって?」

「もうご自身の島は出てこられたのでしょう? その島に戻るつもりはなさそうですし。これからはベラさんと旅をするのですか?」

ドアを開けながらそう聞くと、アルさんは急に黙って、考え込んでしまった。アルさん? と話しかけると、アルさんはハッとして、早く行きましょうと言いながら、そそくさと部屋を出て行ってしまった。私は慌ててその後を追う。すると、不意に服の袖を引っ張られた。振り返ると、あの男の子が不安そうな顔で見上げていた。私はしゃがんで彼と目線を合わせた。

「どうしたの?」

「お姉ちゃん、どっか行くの?」

「うん。連れの服を買いにね。おかしな恰好をしてるでしょう?」

男の子は今にも泣きそうな顔をして、声を潜めて言った。

「霧! 霧が出る前にあの人を連れ戻して! 霧が出て外に出ると、みんな悪魔に食べられちゃう。早く!」

私はその言葉を聞いて、弾けるように走り出した。なぜか、すごく嫌な予感がした。

外に出ると、角を曲がるアルさんの背中が見えた。急いで追いかける。うっすらと霧が出てきた。その霧はすぐに濃くなって、何も見えなくなる。角を曲がった辺りで、私は声を張り上げた。

「アルさん! 返事してください。アルさん! 危険です! 宿に戻りましょう!」

「アクアさ……」

一瞬、アルさんが私を呼ぶ声が微かにしたが、すぐに静かになった。私は不安になって、最悪の視界の中、アルさんを探して闇雲に走り回った。

ようやく霧が晴れた頃、私は宿の前にいた。

「どうしよう。アルさんが消えちゃった……!」


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